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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼14万PV達成】【平日月曜と金曜の朝6時更新】  作者: 準
【間章伍】ゼロとの交渉と奪われた光/宝石の系譜

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213/218

✮港の怪物

◆海岸港・夜

 夜の海は静かだった。

 崩れかけた桟橋。錆び付いたクレーン。放置されたコンテナ。

 人の気配はない。


 その先。

 黒い海の向こうに、一つの孤島が見えていた。

 レオは双眼鏡を下ろす。

「あれか」


 隣でアリスベルが頷いた。

「ああ」

 一拍。


「ネメシスの基地が存在すると噂される島だ」


 サンチェスが海を見る。

「で?」

「どうやって行くんだよ?」

 誰も答えない。


 サイモンは周囲を見渡した。

「船はねぇしな」

 見事なまでになかった。


 サンチェスは孤島を見る。

 そしてニヤッとして言った。

「泳ぐか?」


 即座にアシュリーが返した。

「二人目ですね」


 テストも続く。

「まず、お前とサイモンで行ってもらうか」


 サイモンが抗議する。

「なんでだよ!」


 サンチェスと続く。

「理不尽だろ!」


 ケイトが笑った。

「有言実行だろ!」


 わずかな笑いが広がる。


 だが。

 次の瞬間だった。

 ――ザバァァァァァァン!!

 海面が爆発した。


 巨大な水柱。

 全員が反射的に武器を構える。


「来るぞ!」

 テストが叫んだ。


 海面から現れたのは。

 無数の触手。

 続いて巨大な頭部。

 黒く濡れた外殻。

 不気味な単眼。

 アビスモウだった。


「アビスモウが一体!」

 アシュリーが叫ぶ。


 だが終わらない。

 反対側の海面も盛り上がる。

 ――ザバァァァァァァン!!

 二体目。

 海水を撒き散らしながら上陸する。


 サンチェスが舌打ちした。

「二体かよ!」


 テストの顔が険しくなる。

「七〜八メートル級だ!」

「小型だが油断するな!」


 アビスモウが触手を振るう。

 空気を裂く音。


 レオが前へ出た。

「行くぞ!」

 拳が叩き込まれる。

 バトルスーツから電流が走る。

 ――バギィッ!!

 アビスモウが電流で僅かによろめいた。

「効いてる!」


 だが。

 それだけだった。

 倒れない。

 止まらない。


 次の瞬間。

 触手がレオを薙ぎ払った。

 ――ドゴォッ!!

「ぐっ!」

 レオが吹き飛ぶ。


 サイモンが飛び出した。

「レオ!」

 怪力を込めた拳。

 アビスモウの頭部へ直撃。

 鈍い衝撃音と電流。


 だが。

 やはり決定打にならない。

「硬ぇな、おい!」

 サイモンが叫ぶ。


 アリスベルも蹴りを放つ。

 巨体が揺れる。

 それでも倒れない。


 ケイトが顔をしかめた。

「冗談だろ……」


 テストが即座に指示を飛ばす。

「サンチェス!」

「目だ!」

「目を撃て!」


「了解!」

 サンチェスが引き金を引く。

 ――パンッ!!

 正確な射撃。


 弾丸は目を捉えた。

 だが。

 直前で透明な膜が閉じる。

 弾丸は弾かれた。


「なにっ!?」

 サンチェスが目を見開く。


 アシュリーも驚く。

「防御してます!」


 テストが奥歯を噛み締めた。

「くそっ!」

 一拍。


「学習してやがる!」


 その言葉だけで十分だった。

 全員が理解する。

 以前の戦いで通用した攻撃。

 弱点。

 戦術。

 そのすべてを――ネメシスは対策してきた。

 もはや同じ手は通じない。

 戦いは泥沼へ変わっていく。


 ――ブォンッ!!

 巨大な触手が空気を裂く。


「サイモン!」

 レオが叫ぶ。


 だが遅い。

 サイモンの身体に触手が巻き付いた。

「ぐっ!?」

 そのまま振り回される。

 ――ドゴォォォォン!!

 巨体が地面へ叩きつけられた。

 コンクリートが砕け、破片が宙を舞う。


 だが。

「まだだぁぁぁ!!」

 サイモンは咆哮しながら立ち上がる。


 次の瞬間。

 ケイトが飛び込んだ。

 鋭い蹴りがアビスモウの顔面を捉える。

 ――ガァァン!!

 だが。

 新たな触手が横から襲いかかる。

「ちっ!」

 回避は間に合わない。

 ――バゴォォォン!!

 ケイトの身体が吹き飛ばされた。

 何度も地面を転がる。

 それでも立ち上がる。

「まだ終わってねぇ!」


 アシュリーは距離を取り続ける。

 走る。

 撃つ。

 移動する。

 止まれば終わりだ。

 ――パン! パン! パン!

 銃声が夜へ響く。


 だがアビスモウも触手で応じる。

 次々と地面が抉られていく。


「速すぎる……!」

 アシュリーの額を汗が伝った。


 その頃。

 レオもまた最前線で戦っていた。

 拳を叩き込み。

 距離を詰め。

 何度も攻撃を浴びせる。


 しかし。

 ――ドガァァァン!!

 巨大な触手が胸元へ直撃。

 レオの身体が吹き飛ぶ。

 コンテナへ激突した。

 鉄板が悲鳴を上げる。


「レオ!」

 サンチェスが叫ぶ。


 だがレオは歯を食いしばりながら立ち上がった。

「まだやれる!」


 夜の港に咆哮が響く。

 傷だらけだった。

 息も上がっている。


 だが――。

 誰一人として退かなかった。

 誰一人として諦めなかった。


 圧倒的な巨体。

 進化した知能。

 学習した怪物。


 それでも。

 A班は崩れない。

 誰かが倒れれば、誰かが前へ出る。

 誰かが吹き飛ばされれば、別の誰かが隙を埋める。

 まるで一つの生き物のように。

 彼らは戦い続けていた。

  

 アリスベルが鋭く叫ぶ。

「サイモン!」

「私に合わせろ!」


 サイモンが笑った。

「おうっ!!」


 二人が同時に地面を蹴る。

 ――ドンッ!!

 爆発するような加速。

 迎え撃つように、アビスモウの巨大な触手が唸りを上げた。

 だが。

 アリスベルは真正面から突っ込む。

 ――ガァァァン!!

 蹴りが触手を弾き飛ばす。

 その一瞬の隙。


 サイモンが巨体の懐へ潜り込んだ。

「らぁぁぁぁぁっ!!」

 全身の力を乗せた拳が叩き込まれる。

 ――ドゴォォォォォォォン!!

 衝撃が炸裂した。


 アビスモウの巨体が大きく仰け反る。

 海水が飛び散り、港のコンクリートが震えた。


 だが終わらない。

 レオが飛び込む。

「そこだ!」

 ――ドゴッ!!

 拳が傷口へめり込む。


 続いてケイト。

 回転しながら放った蹴りが側頭部へ叩き込まれた。

 ――バキィィィッ!!


 サンチェスとアシュリーの銃撃が降り注ぐ。

 ――パン! パン! パン! パン!

 弾丸が顔面へ突き刺さる。


 アビスモウが怒り狂ったように咆哮した。


 だが。

 その瞬間だった。

 アリスベルが再び飛ぶ。

 空中で体をひねり。

 渾身の蹴りを叩き込む。

「終わりだ!!」


 同時に。


 サイモンも雄叫びを上げた。

「うおおおおおおっ!!」

 二つの一撃が、完全に重なる。


 ――バゴォォォォォォン!!!


 凄まじい衝撃波。

 巨体が大きく浮き上がる。

 港の地面が砕け、海面が爆ぜた。

 アビスモウは悲鳴のような咆哮を上げる。


 そして――。

 耐えきれなかった。

 巨体を翻し。

 大量の海水を巻き上げながら後退する。

 ――ザバァァァァァァン!!


 そのまま海へ飛び込み、闇の中へ逃げていった。

 残されたのは荒い波音だけ。

 港に立つ全員が、その巨大な水しぶきを見つめていた。


 大きな水飛沫。

 やがて海中へ消える。

 全員が息を吐いた。


「やったか……」

 ケイトが呟く。


 テストも頷いた。

「まず一体だ」


 だが。

 その瞬間だった。


 サンチェスの顔色が変わる。

「おい」

 低い声。


 誰もが振り向く。

 海だった。

 海岸。

 海面が異様に盛り上がっている。


 残ったアビスモウの後方。

 まるで海そのものが持ち上がっているようだった。


 アシュリーが息を呑む。

「……大きい」

 テストの顔から血の気が引いた。

「まさか……」


 ゆっくりと。

 巨大な頭部が現れる。

 海面から。

 海水を滝のように流しながら。

 その巨体は姿を現した。


 七メートルではない。

 八メートルでもない。


 圧倒的。

 一五メートル級。


 テストが海を見つめたまま呟く。

「……あれだ」

 一拍。


「この前、港で出たアビスモウと同じ個体だ」


 誰も返事をしなかった。

 海面を割るように現れた巨大な頭部。


 だが、その顔には異変があった。目が一つしかない。

 かつて二つあったはずの片目は潰れ、深い傷跡だけが残されている。

 そして――残された単眼が。

 港に立つ七人を、じっと見下ろしていた。


 アリスベルが静かに武器を構える。その表情からは、いつもの余裕が消えていた。


 レオが低い声で言う。

「片目がない……」

 一拍。


「間違いない。あのとき、結依が撃ち抜いたアビスモウだ」


 重い沈黙が落ちる。

 奴は生きていた。

 いや、それどころか。

 傷を負いながら、この海の支配者として生き残っていた。


 夜の海から姿を現した巨大な怪物は――

 まるで深海の王のような威圧感を纏いながら、ゆっくりと港へ上陸しようとしていた――。


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