✮手首特急便
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今後ともよろしくお願いします。
◆前線基地周辺
前線基地のゲートが開き、中からオースティン部隊長と部下のエディが姿を現した。
二人の視線は、地面に転がる“手首”へ向けられている。
エディがライフルを構えながら尋ねた。
「隊長、どうします?」
「撃ちますか?」
オースティンは眉をひそめ、しばらく手首を見つめる。
そして呆れたように言った。
「……どう見ても敵だろ」
一拍。
「撃っていいぞ」
「了解」
エディは即座に銃口を手首へ向けた。
引き金に指がかかる。
――パンッ!!
銃声が荒野へ響く。
エディが放った弾丸は、一直線に手首へ向かった。
だが。
カサッ。
アストラの手首は指を器用に動かし、横へ飛ぶ。
弾丸は地面へ着弾した。
「避けた!?」
エディが目を見開く。
オースティンも思わず固まった。
「待て」
一拍。
「なんで手首が避けるんだ?」
再び射撃。
――パンッ!!
だが。
カサカサッ。
また回避。
オースティンは逃げていく手首を見送りながら呟いた。
「……避けたな」
エディも視線を追ったまま頷く。
「避けましたね」
しばし沈黙。
オースティンは頭をかきながら、心底納得できないという顔をした。
「いや、待て」
「あれ、手首だけだぞ?」
「なんであんなに速いんだ?」
エディは真顔のまま答える。
「知りません」
「むしろ、私が聞きたいです」
短い沈黙。
二人は同時に逃げ去った手首の方を見る。
オースティンがぼそりと漏らした。
「最近の敵、進化の方向性がおかしいだろ……」
エディは無言で頷いた。
その意見には全面的に同意だった。
そして。
アストラの手首は方向転換。
前線基地とは逆方向へ走り出した。
カサカサカサカサッ!!
「逃げたぞ!!」
オースティンが叫ぶ。
「追いますか?」
「当たり前だ!!」
こうして。
第三部隊隊長オースティン・ゴルドと兵士エディ。
そしてアストラの手首による追いかけっこが始まった。
◆荒野地帯
その頃。
B班はバイクとセグダで前線基地へ向かっていた。
すると。
後方を走っていたアストラが言う。
『皆さん、少し停止していただけますか』
全員が速度を落とした。
ルビィが聞く。
「どうしたの?」
アストラは少しだけ沈黙した。
『問題が発生しました』
全員の表情が変わる。
『私はこの惑星の言語は理解しています』
『ですが』
一拍。
『文字の表記をほとんど知りません』
沈黙。
アイダが眉をひそめる。
「そこかよ」
『手首へ情報伝達が必要です』
『"アイダからの情報あり"は、どのように表記しますか?』
ルビィが吹き出した。
「そこなの!?」
結依も苦笑する。
アイダは苦笑いしつつ、地面へ膝をつく。そして指先で、この星の文字で文を書いた。
アストラは文字を確認する。
『記録完了』
『ありがとうございます』
何事もなかったかのように答える。
全員は顔を見合わせた。
「アンドロイドも万能じゃないんだな」
アイダが呟いた。
◆前線基地周辺
「待てコラァァァ!!」
オースティンが叫ぶ。
手首は逃げる。
カサカサカサッ!!
岩を登る。
塀を登る。
障害物をすり抜ける。
「速ぇ!!」
エディが息を切らした。
「なんで手首がこんな速いんですか!?」
「俺に聞くな!!」
オースティンも必死だった。
そのとき。
手首が塀を登った。
「よし!」
オースティンも飛び付く。
しかし。
ズルッ。
「うおっ!?」
足を滑らせた。
そのまま転落。
――ドサッ!!
「隊長!」
「見たな?」
「はい」
「忘れろ」
「無理です」
即答だった。
◆荒野地帯
アイダは腕を組み、少し考え込むように唸った。
「うーん……」
一拍。
「アストラの情報と照らし合わせると――」
視線を手首へ向ける。
「お前の手首と遊んでるのは、第〇三部隊長のオースティンだな」
そう言って苦笑した。
結依がふと聞く。
「そのオースティンさんって、どんな人なんですか?」
アイダは少し考えた。
「ああ」
一拍。
「しょうもないヤツだ」
ルビィが笑う。
「いきなり酷い」
アイダは指を折りながら数え始めた。
「デカい」
「髪がない」
「髭がある」
「酒好き」
「借金がある」
結依が吹き出した。
「駄目な大人じゃないですか」
アイダも笑った。
「まぁな」
一拍。
「でも強い」
その声だけ少し変わる。
「仲間思いだ」
「命を預けるなら、ああいう馬鹿の方が信用できる」
ルビィが微笑んだ。
「なるほど」
結依も頷く。
「仲良いんですね」
アイダは鼻で笑った。
「借金は返してほしいけどな」
◆前線基地周辺
その頃。
ついに手首が停止した。
オースティンとエディも立ち止まる。
「観念したか」
オースティンがライフルを構える。
すると。
手首の上にホログラムが表示された。
《アイダからの情報あり》
エディが目を見開く。
「隊長」
「見えてる」
オースティンは眉をひそめた。
「本物か?」
「証拠はあるか?」
すると。
文字が変わる。
《オースティンはアイダに借金がある》
沈黙。
エディが吹き出した。
「ぶっ!」
オースティンが顔をしかめる。
「おい」
《しかもまだ返してない》
「やめろ」
《金額は――》
「やめろォ!!」
エディが腹を抱える。
「本物です!」
「間違いなく本物ですね!」
オースティンは頭を抱えた。
「くそっ……」
一拍。
「アイダの野郎……」
その瞬間。
手首がビシッと敬礼した。
沈黙。
オースティンが言う。
「敬礼したぞ」
エディが目を丸くする。
「しましたね」
二人は数秒間真顔だった。
そして。
オースティンがため息を吐く。
「連れて行くぞ」
「了解」
◆前線基地内部
基地の兵士たちがざわついていた。
「何だあれ」
「手首じゃねぇか」
「なんで歩いてるんだ?」
オースティンとエディが後ろを歩く。
アストラの手首は気にしない。
カサカサ。
カサカサ。
堂々と基地内を進む。
やがて。
司令室前へ到着した。
オースティンが扉を開く。
「クレアさん」
部屋の中で書類を見ていたクレアが顔を上げた。
「どうしたの?」
オースティンは少し考えた。
そして諦めた。
「説明が難しいんですが」
エディが真顔で言う。
「手首を連れてきました」
クレアは沈黙した。
「……は?」
その足元で。
アストラの手首が静かに敬礼していた。
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