✮停戦の使者
更新日を変更のお知らせ。
【毎週平日の月曜と金曜の朝6時】
今後ともよろしくお願いします。
――A班。
◆崩壊都市外縁部・中央
誰も動かない。
瓦礫の街に静寂が広がる。
残されたのはA班。
そして五体の黒いレヴロストだった。
アリスベルは拳銃を下ろさない。
サンチェスとアシュリーも射線を維持している。
テストとケイトも警戒を解いていなかった。
そんな中。
黒いレヴロストの一体が前へ出た。
「まず誤解を訂正する」
機械的な声が響く。
「我々は諸君らを攻撃するために現れたのではない」
サンチェスが鼻で笑う。
「信用できると思うか?」
「理解している」
レヴロストは即答した。
「だが事実だ」
一拍。
「我々は現在、ラストライトとの停戦に向けて動いている」
その言葉に全員の表情が変わる。
アシュリーが眉をひそめた。
「停戦……?」
レヴロストは続ける。
「総合知性体アイオーン・ゼロの命令だ」
「今回の行動も、その一環である」
サイモンが首を傾げた。
「だから助けてくれたのか?」
レヴロストは頷く。
「そうだ」
「諸君らが壊滅することは、休戦交渉において望ましくない」
ケイトが腕を組む。
「それで夜が急に終わったのか?」
レヴロストは空を見上げた。
「その通りだ」
「アイオーン・ゼロへ連絡し、ナノマシン制御によって夜の終了時刻を前倒しした」
テストが小さく呟く。
「やっぱりお前たちか」
「夜が終わるのが早かった」
黒いレヴロストは頷く。
全員が違和感を覚えていた。
今回の夜は短かった。
レヴロストは続ける。
「ハウンドの群れは明るい時間を嫌う」
「そのため撤退した」
レオが静かに聞く。
「つまり俺たちを助けるためにやったと?」
レヴロストは答える。
「その認識で問題ない」
その瞬間だった。
「ふざけるな」
低い声。
アリスベルだった。
全員の視線が集まる。
蒼い瞳に怒りが宿っている。
「助けた?」
アリスベルが一歩前へ出る。
「誰のせいで人類がこんな状況になったと思っている」
レヴロストは答えない。
アリスベルの声がさらに低くなる。
「街を壊し」
「人を殺し」
「人を保管し」
「今さら助けただと?」
空気が張り詰めた。
レオですら口を挟まない。
普段のアリスベルなら感情を表に出さない。
だが今は違った。
怒っている。
本気で。
ケイトが肩を掴む。
「アリスベル」
「落ち着け」
「今ここで壊したら話は終わりだ」
アリスベルはレヴロストから目を離さない。
「離せ、ケイト」
ケイトの肩を掴む力がつよまる。
「嫌だね」
「今は話を聞け」
アリスベルがケイトを見る。
「……」
ケイトは低い声で言う。
「殴るのは後でもできる」
数秒の沈黙。
やがてアリスベルは舌打ちした。
「……続けろ」
レヴロストが再び話し始める。
「個体名アイダを仲介により」
「現在、個体名クレアとの接触を試みている」
レオが反応した。
「クレアと?」
レヴロストは軽く頷く。
「そうだ」
「ラストライトとの休戦交渉を希望している」
サイモンが感心したように言う。
「へぇ、本気なんだな」
するとアリスベルが聞いた。
「アイダは認めたのか?」
レヴロストは首を横に振る。
「私は個体名アイダとは直接会っていない」
一拍。
「だが個体名アイダは、この件を個体名クレアへ一任したと聞いている」
アリスベルの眉がわずかに動いた。
完全には納得していない。
だが意外だった。
アイダが反対しなかったことが。
そのときだった。
サイモンがレヴロストを見ながら言う。
「それにしても」
「お前、めちゃくちゃ喋るんだな」
レヴロストは沈黙する。
代わりにサンチェスが答えた。
「昔はこんなもんだった」
全員が見る。
サンチェスは懐かしそうに言った。
「戦争初期のレヴロストは結構喋ってた」
「最近の奴らが無口なだけだ」
ケイトが吹き出す。
「サンチェス」
「なんだ?」
「お前もアイオーンでレヴロストにしてもらえば静かになるかもな」
サンチェスがニヤリと笑った。
「お前もな」
次の瞬間。
――バゴッ!!
鈍い音。
ケイトの蹴りがサンチェスの脇腹に突き刺さった。
「ぐはっ!?」
サンチェスが痛がる。
アシュリーが額を押さえる。
「始まった……」
ケイトが続ける。
「誰が改造なんてされるか」
「冗談だろ!?」
サイモンが笑う。
テストが呆れる。
アシュリーはため息を吐く。
だが。
アリスベルだけは笑わない。
蒼い瞳は黒いレヴロストを睨み続けていた。
そんな騒がしい光景を前に。
五体の黒いレヴロストは黙って立っていた。
まるで。
人類という生き物を観察するかのように――。
アリスベルは腕を組んだままレヴロストを睨む。
「仮の休戦状態だと言うなら」
一拍。
「情報共有くらいしろ」
冷たい声だった。
「聞きたいことがある」
レヴロストが頷く。
「何だ」
アリスベルの蒼い瞳が細くなる。
「あの蒼い銀狼は何だ」
空気が変わった。
レオも視線を向ける。
サンチェスも。
アシュリーも。
全員が答えを待った。
レヴロストは数秒沈黙する。
そして答えた。
「ネメシスが新たな兵器開発を進めている」
一拍。
「恒星の光の下でも活動可能なサイボーグだ」
サイモンが眉を上げる。
「つまり」
「あの銀狼もそうなのか?」
「そうだ」
レヴロストは即答した。
「蒼き銀狼」
「そして赤いレヴロスト」
「どちらも恒星エネルギー対応型だ」
テストが顔をしかめる。
「面倒な話だな……」
今までアイオーンも人類は明るい時間を利用して戦ってきた。
その優位性が崩れる。
レヴロストは続ける。
「特にお前たちのいう蒼き銀狼は危険だ」
その言葉にレオが反応した。
「強いからか?」
「それもある」
レヴロストは頷く。
「速度」
「出力」
「戦闘能力」
「全て高水準だ」
一拍。
「だが最も危険なのは知性だ」
その場の全員が黙る。
「知性?」
アシュリーが聞き返す。
レヴロストが説明する。
「蒼き銀狼は言語による会話を行わない」
「しかし報告がある」
一拍。
「直接、意識へ語りかけてくる」
ケイトが眉をひそめた。
「なんだそれ」
サンチェスも嫌そうな顔になる。
「気味が悪ぃな」
レオは黙る。
(だからか……)
あのとき。一瞬だけ。何かを感じた気がした。
レヴロストは淡々と説明を続けた。
「現在確認されている個体は、一体のみだ」
一拍。
「おそらくプロトタイプだろう」
アシュリーが不安そうな表情を浮かべる。
「プロトタイプってことは……」
「今後はもっと強い個体が出てくるんですか?」
レヴロストは少し考えるような間を置いた。
「単純な性能なら強くなるが、戦略には知能は欠かせない」
全員の視線が集まる。
「知能を与えられた個体は、自ら成長を始める」
「個性が生まれ、感情が芽生える」
「そして、命令に従わなくなる個体も現れる」
そう言って、前にいるのアリスベルへ視線を向けた。
「そこのアリスベルのようにな」
アリスベルの蒼い瞳が細くなる。
「……余計な説明だ」
低い声だった。
テストが苦笑する。
「否定しねぇのかよ」
「事実だからな」
アリスベルはそれだけ答えた。
サンチェスが腕を組む。
「つまり、頭が良くなりすぎると勝手なことを始めるって話か?」
「そうだ」
レヴロストは頷いた。
「制御を重視した完成型より、自由度の高いプロトタイプの方が予測不能な行動を取る」
ケイトが眉をひそめる。
「それ、兵器として失敗作じゃないのか?」
「兵器としては失敗だ」
レヴロストは即答した。
「だが、敵としては厄介だ」
一拍。
「命令よりも、自らの判断を優先するからな」
その言葉に、その場の空気が少し重くなる。
テストが低く呟いた。
「なるほどな……」
「だから、あの銀毛のハウンドは嫌な動きをしてたのか」
サンチェスも顔をしかめる。
「あいつ、ただ強いだけじゃなかったからな」
レヴロストは静かに頷いた。
「完成型は制御されている」
「だが、プロトタイプは違う」
「だからこそ、厄介な個体が多い」
その言葉に、誰も反論しなかった。
レオは黙っていた。
あの蒼い瞳を思い出していた。
獣というより。
何か別の存在。
そんな感覚があった。
レヴロストはさらに続ける。
「そして赤いレヴロストも危険だ」
「現時点で我々アイオーン製レヴロストを上回る性能を有している」
テストが思わず舌打ちする。
「あれより強い奴が出てくるってことか」
「その可能性は高い」
レヴロストは空を見上げた。
「ネメシスは進化を続けている」
一拍。
「おそらく今後」
「さらに性能向上型のレヴロストが投入されるだろう」
誰も軽口を叩かなかった。
冗談では済まない話だった。
戦場の空気が重くなる。
そのとき。
レヴロストが再び空を見上げた。
「今回の明るい時間は短い」
一拍。
「またすぐに暗くなる」
レヴロストは四体の仲間を見る。
「我々は撤収する」
そして最後に言った。
「個体名クレアとの交渉が成功した場合」
「再び接触する」
そう言い残し。
五体の黒いレヴロストは背を向ける。
ゆっくりと。
だが迷いなく。
瓦礫の街の奥へ消えていった。
誰も追わない。
ただ見送る。
やがて。
最後の黒い機影も見えなくなった。
静寂。
残されたA班の誰もが考えていた。
蒼き銀狼。
赤いレヴロスト。
そして――休戦。
戦いは終わっていない。
むしろ。
これから新たな局面へ進もうとしていた――。
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