✮蒼き指揮官
更新日を変更のお知らせ。
【毎週平日の月曜と金曜の朝6時】
今後ともよろしくお願いします。
――A班。
◆崩壊都市外縁部・夜
――オォォォォォォン!!
蒼き銀狼の遠吠えが夜空へ響く。
直後。
黒いハウンド。
赤いハウンド。
青いハウンド。
三五体の群れが一斉に動いた。
その進路上にいたレオは身構える。
だが。
違和感。
群れは速度を落とさない。
真っ直ぐ走る。
そして――。
レオの横を通り過ぎた。
「なっ……?」
レオの目が見開かれる。
次の瞬間。
全てを理解した。
「また、この作戦か……」
一拍。
「俺じゃない」
群れの狙いは。
さらに奥。
二体の赤いレヴロストと戦うサイモンだった。
後方からアシュリーが叫ぶ。
「このパターン!」
一拍。
「〇八部隊が壊滅した時と同じです!!」
サンチェスも顔色を変える。
「囮だ!」
「レオを囮に使いやがった!」
すでにハウンドの群れはサイモンへ向かっていた。
赤。
黒。
青。
三五体。
まるで濁流だった。
――ダダダダダダッ!!
サンチェスがライフルを連射する。
数体が倒れる。
アシュリーも続く。
――パンッ!!
――パンッ!!
黒いハウンドと赤いハウンドの頭部が吹き飛ぶ。
だが。
足りない。
数が多すぎる。
「くそっ!」
サンチェスが叫ぶ。
「止まらねぇ!」
テストも状況に気付いた。
「レオが銀狼とハウンドの群れに挟まれたんじゃない!」
一拍。
「最初からサイモン狙いだ!」
ケイトが舌打ちする。
「くそっ!」
「間に合わない!」
その頃。
アリスベルも全力で駆けていた。
だが。
群れから三体の青いハウンドが飛び出す。
進路を塞ぐ。
完全な足止めだった。
アリスベルの目が細くなる。
――バンッ!!
一体。
さらに。
――バンッ!!
二体目。
だが。
三体目が飛び掛かる。
わずかに時間を奪われる。
その一瞬が致命的だった。
◆崩壊都市外縁部・中央
サイモンは二体の赤いレヴロストを相手に戦っていた。
拳を受け流す。
蹴りを避ける。
反撃する。
だが余裕はない。
そのとき。
レオの叫びが聞こえた。
「サイモン!!」
サイモンが反射的に振り返る。
「あ?」
そして。
見た。
押し寄せる三〇体のハウンド。
「えー!?」
一拍。
「なんだよアレ!?」
「俺狙いかよ!!」
顔が引きつる。
二体の赤いレヴロスト。
三〇体のハウンド。
完全な包囲。
絶体絶命だった。
だが――。
その瞬間。
サイモンとハウンドの間へ。
三つの黒い影が降り立つ。
――ドゴォォォン!!
重い着地音。
土煙が舞う。
黒い装甲。
黒い光学眼。
レヴロスト。
「なに……?」
サイモンが目を見開く。
そして。
離れた場所でアリスベルが呟いた。
「アイオーン……」
三体の黒いレヴロストがハウンドの群れへ突撃する。
拳。
蹴り。
銃撃。
先頭のハウンドたちが次々と吹き飛んだ。
さらに。
別方向から二体の黒いレヴロストが現れる。
そして。
二体の赤いレヴロストへ攻撃を開始した。
――ガァァァン!!
鋼鉄同士の激突。
火花が散る。
戦場の構図が一変した。
テストが思わず呟く。
「五体のレヴロスト……」
ケイトが目を細める。
「助けてくれてるのか?」
だが。
誰にも答えは分からなかった。
そのとき。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
再びサイレンが鳴る。
全員が空を見上げた。
夜空が変わる。
闇が消える。
光が戻る。
朝ではない。
だが。
夜の終わりだった。
同時に。
銀狼が天を仰ぐ。
そして。
もう一度だけ遠吠えを上げた。
――オォォォォォォォォン!!
命令だった。
その瞬間。
ハウンドたちが反転する。
撤退。
一切の迷いがない。
赤いハウンド。
黒いハウンド。
青いハウンド。
全てが瓦礫の向こうへ消えていく。
さらに。
二体の赤いレヴロストも後退を始めた。
追撃する黒いレヴロスト。
だが追いつかない。
驚異的な速度で距離を離されていく。
最後に残ったのは。
蒼き銀狼だった。
銀狼は振り返る。
蒼い瞳がレオを捉える。
数秒。
互いに動かない。
静かな睨み合い。
やがて。
銀狼はゆっくりと背を向けた。
そして。
赤いレヴロストたちの後を追うように去っていく。
レオは黙ってその背中を見送った。
一拍。
「……覚えられたな」
小さく呟く。
その言葉を聞いた者はいなかった。
戦場には静寂が戻る。
残されたのは。
A班。
そして。
五体の黒いレヴロストだけだった――。
誰も動かない。
奇妙な緊張が漂っていた。
そんな空気を破ったのは――。
サイモンだった。
「おーい!」
大きく手を振る。
「助かったぞ!」
「ありがとな!」
テストが顔をしかめた。
「あいつ……」
ケイトも呆れたように額を押さえる。
「相変わらず警戒心がゼロだな」
それでも二人はセグダを降りる。
拳銃を構えたまま。
警戒しながら黒いレヴロストへ近付いていく。
サンチェスとアシュリーも射線を維持したまま様子を見守る。
そのときだった。
レオの横を黒い影が駆け抜ける。
一瞬だった。
「――ッ!」
レオが目を見開く。
アリスベルだった。
凄まじい速度。
一直線。
黒いレヴロストへ向かっていく。
レオが慌てて叫んだ。
「ま、待っ――」
言い終わるより早い。
アリスベルが跳んだ。
身体を捻る。
そして。
鋼鉄すら砕く蹴りを放った。
狙いはレヴロストの頭部。
――バゴォッ!!
凄まじい衝撃音が響く。
地面が震える。
だが。
黒いレヴロストは吹き飛ばなかった。
アリスベルの蹴りは止められていた。
全員の目が見開かれる。
「なっ……!?」
サンチェスが絶句する。
アシュリーも言葉を失った。
テストとケイトも驚愕する。
ブロックしていたのは。
黒いレヴロストではなかった。
サイモンだった。
両腕を交差させ。
アリスベルの蹴りを受け止めている。
「ほぉぉぉぉぉっ……」
サイモンの顔が歪む。
「いてぇぇぇぇ……」
一拍。
「めちゃくちゃ痛ぇ……」
腕をぶらぶら振る。
サンチェスが思わず呟いた。
「おいおい……アリスベルの蹴りを止めたぞ、アイツ……」
アシュリーも唖然とする。
「普通なら腕ごと持っていかれてますよ……」
アリスベルの蒼い瞳が細くなる。
「どけ」
「異星人」
低い声だった。
だが。
サイモンは引かない。
「いやいや」
痛そうに腕をさすりながら言う。
「助けてくれたんだぞ?」
一拍。
「敵なのは分かってる」
「アリスベルちゃんがアイオーンを憎んでるのも分かる」
真っ直ぐアリスベルを見る。
「でもさ」
一拍。
「少しくらい話してからでもいいだろ?」
沈黙。
風が吹く。
瓦礫の隙間を抜けていく。
アリスベルの眉がわずかに動く。
アイオーン。その名だけで怒りが込み上げる。
だが。
目の前の黒いレヴロストは攻撃してこない。
ただ。
蒼い瞳は黒いレヴロストを睨み続ける。
そして。
ゆっくりと視線をサイモンへ移した。
数秒。
沈黙が続く。
やがて。
アリスベルが口を開いた。
「……分かった」
「少しだけだぞ」
サイモンの顔に笑みが浮かぶ。
「よし」
「交渉成立だな」
その言葉に。
ケイトが呆れたようにため息を吐いた。
「誰も交渉なんて言ってねぇだろ……」
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