✮海へ続く道
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
――A班。
◆崩壊都市・昼区域
――ブォォォォォォン……。
五台のセグダが、崩壊都市を駆け抜ける。
先頭は、アリスベルが運転するセグダ。
隣をケイトのセグダが並走し、その後部座席にはアシュリーが乗る。
少し後方では、レオのセグダにサイモンが同乗。
さらにその後ろを、テストとサンチェスのセグダが続いていた。
砕けた道路。崩れた高層ビル。 誰もいない街。
昼間なのにアイオーンの気配もない。
それが逆に不気味だった。
先頭を走るアリスベルの隣へ、ケイトが並ぶ。
「……妙ね」
「ああ」
アリスベルも短く答えた。
「静か過ぎる」
その後方を走りながら、テストは周囲へ鋭い視線を巡らせていた。
「……嫌な感じだな」
サンチェスも警戒するように辺りを見回す。
「アイオーンの兵士が全然いねぇ」
アシュリーも不安そうに周囲を見渡した。
「確かに……」
「昼なのに、レヴロストの姿も見当たりませんね」
ケイトが振り返った。
「アシュリー」
「はい?」
「無理してない?」
アシュリーが少し笑う。
「大丈夫です」
ケイトは呆れたように続ける。
「妹を心配するのは姉の仕事」
サンチェスが笑う。
「ケイト、お前そんなに過保護だったのか?」
「何か言った?」
ケイトが睨む。
サンチェスは即座に視線を逸らした。
「いえ何も」
「遅い」
ケイトの蹴りが飛んだ。
――ゴッ。
「痛っ!?」
サンチェスが悲鳴を上げる。
サイモンが豪快に笑った。
「ははははっ!」
「お前、毎回やられてるじゃねぇか!」
「笑い事じゃねぇ!」
サンチェスが即座に叫ぶ。
「ケイトの蹴り、マジで痛ぇんだぞ!」
サイモンはあっさり頷いた。
「だろうな」
すると、テストも平然と続ける。
「だから俺は怒らせない」
「裏切り者ぉぉ!」
サンチェスの悲痛な叫びが響く。
その様子に、アシュリーは思わず吹き出した。
「ふふっ……」
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
だが。
その直後だった。
レオの表情が変わる。
「一つ、気になることがある」
全員の視線が向く。
「赤いレヴロストと戦った後からだ」
一拍。
「何かに尾行されている」
サイモンの笑顔が消えた。
「……何?」
レオは周囲を見渡した。
「視線を感じる」
「だが姿は確認できない」
アリスベルが小さく頷く。
「よく気付いたな、異星人」
レオが視線を向ける。
「やはりいたか」
すると。
ケイトが横から口を挟んだ。
「正確には違うわ」
「元々は私とアリスベルを尾けてた連中よ」
アリスベルが引き継ぐ。
「ああ」
「もうしばらく前からだ」
「私たちを監視している」
テストが眉をひそめる。
「レヴロストか?」
「ああ」
アリスベルは頷く。
「だが、おそらく赤だ」
サンチェスが露骨に嫌そうな顔になる。
「ネメシス製のレヴロストか……」
一拍。
「アイツら強いんだよな」
サイモンが拳を突き上げる。
「大丈夫だ」
「俺が何とかする」
一拍。
「アリスベルもいるしな」
アリスベルは否定も肯定もしなかった。ただ静かに前を見つめながら言う。
「赤いレヴロストだけではない」
その言葉に空気が変わる。
「たぶん、ハウンドもいる」
ケイトが小さく息を吐いた。
「あの昼間に動いてた個体ね」
アリスベルが表情を変えずに返す。
「ああ」
「銀色が混じったハウンドだ」
サンチェスが嫌そうに顔をしかめる。
「聞けば聞くほど嫌な話だな」
レオも頷いた。
「進化しているネメシスか」
アリスベルは短く答えた。
「その通りだ」
風が吹く。
崩壊した街並みの向こう。
遥か先には青い海が見えていた。
そして、そのさらに先。
ネメシスの本拠地が存在すると噂される孤島。
五台のセグダは速度を落とさない。
知らぬ間に休戦状態へ入った空の下。
A班はなおも、ネメシスの領域へ向かっていた――。
――そして、B班。
◆地下研究室
「停止コードは現在も有効だ」
静寂。
誰もすぐには言葉を返せなかった。
やがて。
アイダが低い声で言う。
「アリスベルは、そのことを知ってるのか?」
アイオーン・ゼロは即答した。
「アリスベルは知らない」
一拍。
「停止コードの存在は伝達していない」
ルビィが眉をひそめる。
「どうしてですか?」
アイオーン・ゼロの感情のない返答をする。
「必要性が存在しなかった」
数秒の沈黙。
「アリスベルに関する情報を秘匿する理由は存在しない」
ダイヤが眉を上げる。
「なら、なんで今まで誰にも言わなかったの?」
「質問されなかったからだ」
アイオーン・ゼロはあまりにも機械的な返答だった。
その場にいた全員が微妙な顔になる。
アイダは額を押さえた。
「なるほどな」
「やっぱりお前、人間とは根本的に考え方が違う」
「その認識は正しい」
アイオーン・ゼロは否定しなかった。
そして。
話は終わったと判断したのか、少年の視線が全員を見回す。
「伝達事項は以上だ」
一拍。
「個体名クレアとの交渉を希望する」
「場所は?」
アイダが聞いた。
アイオーン・ゼロは即座に答える。
「ラストライト前線基地付近」
「元ホックシティ地下施設」
アイダが目を細める。
「ホックシティにも残ってるのか」
アイオーン・ゼロは続ける。
「存在する」
「ここと同様の管理施設だ」
「交渉の準備が整い次第」
「レヴロストを使者として派遣する」
「その案内に従ってほしい」
アイダが頷く。
「分かった」
「クレアには必ず伝える」
アイオーン・ゼロも小さく頷いた。
「感謝する」
そして。
少年の姿をした総合知性は最後に静かに告げる。
「ネメシスは変化を続けている」
一拍。
「残された時間は多くない」
その言葉だけを残し――。
ホログラムが揺らぐ。
青白い光が粒子となって崩れ始めた。
――交信終了。
ブゥン――。
投影装置の光が消える。
研究室は再び静寂に包まれる。
しばらく誰も口を開かなかった。
最初にため息を吐いたのはアイダだった。
「とんでもねぇ話ばっかりだったな……」
結依も頷く。
「頭の整理が追いつきません」
ルビィは少し困ったように笑った。
「休戦の話だけでも大事件なのに」
「アリスベルさんの件まで出てきたしね」
ダイヤは腕を組む。
「本人が知らないってのが一番びっくりだよ」
「だな」
アイダも同意した。
「まずはクレアに報告だ」
そのとき。
二体のレヴロスト・ヴェイルが前へ出る。
「案内を行います」
「出口はこちらです」
相変わらず感情のない声だった。
アイダは苦笑する。
「お前ら、本当に最後まで護衛するんだな」
「任務です」
レヴロストは即答した。
「でしょうね」
結依が苦笑した。
◆崩壊都市・昼区域
やがて。
一行は地下施設から地上へ戻っていた。
眩しい昼の光。
乾いた風。
崩壊都市の景色が再び広がる。
道路脇には停車させたままのバイクとセグダ。
アイダが愛車へ向かう。
「よし」
一拍。
「前線基地へ戻るぞ」
その背後で。
二体のレヴロスト・ヴェイルが静かに立っている。
一体が言う。
「また何かあれば」
「我々がコンタクトを取ることになります」
ダイヤが手を振った。
「了解」
アイダが呆れ顔になる。
「だからお前は敵に気軽すぎるんだよ」
「今は停戦中でしょ」
「まだ正式じゃねぇ」
そんなやり取りを交わしながら。
一行はバイクへ跨る。
エンジンが唸りを上げる。
すると結依がふと思い出したように言った。
「そういえば」
「前線基地へ戻るなら、アストラの手首を先に行かせなくても良かったんじゃないですか?」
だが。
アイダは首を横に振った。
「いや、それで正解だ」
一拍。
「俺たちが無事に帰れる保証はない」
結依が黙る。
アイダは続けた。
「帰り道で何が起きるか分からん」
「二回は夜を迎えるかもしれねぇしな」
「ネメシスと遭遇する可能性だってある」
ダイヤが苦笑する。
「この星だと普通にありそう」
「ああ」
アイダは頷いた。
「だから先に情報だけでも届けられるのは助かる」
ルビィも賛同する。
「私もそう思います」
「情報は早い方がいいですから」
「クレアさんなら、報告を受けた時点で準備を始められますし」
アストラも答えた。
『現在も前線基地へ向けて移動中です』
『到着予定時刻に変化はありません』
ダイヤが笑う。
「頼もしいね、手首」
『ありがとうございます』
アストラはいつも通り真面目に返答した。
アイダが小さく苦笑する。
「褒められてるのか、それ」
目指す先は前線基地。
クレアへ伝えるべき情報は、あまりにも多かった。
休戦。
交渉。
ホックシティ地下施設。
そして――アリスベルの停止コード。
それぞれが重い意味を持つ。
B班は荒野へ向けて走り出した。
この星の未来を大きく変える報告を携えて――。
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