✮少年の姿をした総合知性
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
――B班。
◆崩壊都市・昼区域
「どうする?」
レヴロスト・ヴェイルが問う。
誰もすぐには答えなかった。
吹き抜ける風だけが、崩壊都市を通り過ぎていく。
やがて。
レヴロスト・ヴェイルが静かに続けた。
「この近くに、現在は使用されていない地下施設が存在する」
一拍。
「そこで、アイオーン・ゼロとの対話が可能だ」
青白い光学眼が六人へ向けられる。
「ついてきてほしい」
アイダが眉をひそめた。
「随分と都合のいい話だな」
一拍。
「地下施設に連れて行かれて、そのまま拘束される可能性は?」
ヴェイルは即答する。
「否定はできない」
「おい」
アイダが呆れた声を出した。
結依も警戒を強める。
「普通、そこは否定するところじゃないですか?」
「私は事実のみを述べる、決めるのはアイオーン・ゼロです」
ヴェイルは淡々としていた。
ルビィが小さく息を吐く。
「逆に嘘をつく気はないってことですかね……」
ダイヤは腕を組みながら首を傾げた。
「アストラはどう思う?」
全員の視線が集まる。
アストラは数秒間、周囲を走査した。
『地下構造物を確認』
一拍。
『約一・七キロ先の地下に、大規模施設反応があります』
アイダが聞く。
「本当にあるのか?」
『はい』
アストラは即答した。
『施設の老朽化は確認できますが、現在も最低限の稼働状態を維持している可能性があります』
一拍。
『少なくとも、地下施設が存在するという発言は事実と思われます』
ルビィが頷いた。
「アストラが言うなら、そこは間違いなさそうですね」
結依も少しだけ警戒を緩める。
「罠かどうかは別として、施設そのものは本当にあるんだ」
『その認識で問題ありません』
すると。
ダイヤがニッと笑った。
「なら行こうよ」
アイダが振り返る。
「簡単に言うな」
「だってさ」
ダイヤが無邪気笑顔で続ける。
「この星に来てから、ずっと話題に出てた相手だよ?」
一拍。
「アイオーン・ゼロ」
ダイヤは真っ直ぐヴェイルを見る。
「話せるなら、私は話してみたい」
ルビィも静かに頷いた。
「私もです」
結依は少し悩み――。
やがて小さく息を吐いた。
「危険そうですけど」
「ここまで来たら、会わない方が後悔しそうですね」
フェザーが肩の上で鳴く。
「きゅっ!」
アイダは頭を掻いた。
「……多数決かよ」
そして。
小さくため息を吐く。
「分かった」
一拍。
「行くぞ」
ヴェイルが静かに頷いた。
「了解した」
B班は道路脇へバイクとセグダを停車させる。
エンジン音が消える。
崩壊都市に再び静寂が戻った。
そして。
五人と一匹は、一体のレヴロスト・ヴェイルの後を追う。
瓦礫の間を抜け。
崩れたビル群の奥へ進む。
やがて。
半ば倒壊した建物の陰へ辿り着いた。
そこには。
外からは見えないよう巧妙に隠された金属製のハッチがあった。
長い年月を感じさせる古びた扉。
しかし、その表面には今も薄く青い光が走っている。
ヴェイルが振り返った。
「到着した」
一拍。
「地下施設入口だ」
◆旧管理区域・地下施設
ヴェイルの後を追い、B班は崩壊した地下施設へ足を踏み入れていた。
薄暗い通路。
ところどころ天井は崩れ、壁には古い弾痕が残っている。
アイダが周囲を警戒しながら歩く。
「こんな場所がまだ残ってたのか」
「放棄施設です」
先を歩くヴェイルが答えた。
「現在は使用されていません」
結依が小声で呟く。
「本当に信用していいんでしょうか……」
「信用はしてない」
アイダが即答する。
「だから警戒してる」
ルビィも頷いた。
だが。
ダイヤだけは気楽だった。
「まぁ、襲うなら途中で襲ってるでしょ」
「お前はもう少し警戒しろ」
アイダが呆れる。
「だって」
ダイヤは笑った。
「このヴェイル、さっきから敵意ゼロだし」
すると。
もう一体のヴェイルが立っていた。
「また会いましたね」
「ん?」
ダイヤが首を傾げた。
ヴェイルが言う。
「あなたが発信機を付けたレヴロストですよ」
「あー」
ダイヤが思い出す。
「見た目が同じだから、区別ができないわ」
「そうでしょうね」
ヴェイルは淡々と頷いた。
アイダが頭を抱える。
「普通、敵と再会してそんな会話になるか?」
結依も同意だった。
「ならないと思います」
そのとき。
もう一体のヴェイルが静かに告げた。
「目的地まで残り三〇メートルです」
一行は巨大な扉の前へ到着する。
二体のヴェイルが立ち止まった。
「到着しました」
そして。
重い扉がゆっくり開く。
――ゴゴゴゴゴ……。
◆地下研究室
広大な空間だった。
天井は高い。
壁面には無数の端末。
中央には円形の投影装置。
まるで研究施設だった場所。
誰もいない。
静寂だけが広がる。
そして。
投影装置が起動した。
――ブゥン。
青白い光。
ホログラムが形成される。
現れたのは。
一〇歳ほどの少年だった。
銀色の髪。
赤い瞳。
整い過ぎた顔立ち。
だが。
その瞳には人間らしい感情が存在しない。
「初めまして」
少年が言った。
「私はアイオーン・ゼロ」
空気が張り詰める。
アイダが目を細めた。
「この星を管理してるAIだ」
「正確には総合知性体です」
少年は答える。
ダイヤが手を振った。
「どうも」
アイダが横を見る。
「お前、もう少し緊張しろ」
「だってホログラムだし」
ダイヤは平然としていた。
アイオーン・ゼロは続ける。
「まず確認したい」
一拍。
「異星人、個体名ダイヤ」
「はい」
「あなたの戦闘記録を確認した」
ダイヤが首を傾げる。
「戦闘記録?」
アイオーン・ゼロは続ける。
「レヴロストとの交戦データだ」
一拍。
「あなたの瞬間加速性能は興味深い」
「私の保有する生物データに類似例が存在しない」
ダイヤが苦笑する。
「褒められてる?」
「事実を述べている」
即答だった。
アイオーン・ゼロは続けた。
「異星人サイモン」
「現在不在」
「しかし戦闘記録は存在する」
一拍。
「レヴロスト・グランとの交戦」
「頭部装甲破壊」
「腕力による制圧」
アイダが眉を上げた。
「アイツ、素手でレヴロストのヘルメット破壊したのか?」
結依が苦笑いしつつ言う。
「サイモンさんならやりかねない」
アイオーン・ゼロは答える。
「そうだ、個体名サイモンは腕力のみで破壊した」
「私の管理領域内で発生した戦闘は記録されている」
結依の顔が引きつる。
「それ、監視ですよね……?」
「違う」
「管理だ」
アイダたちは微妙な顔になった。
そして。
アイオーン・ゼロの視線がアストラへ向く。
「個体名アストラ」
『はい』
「あなたは興味深い」
一拍。
「あなたは人工知能である」
「だが主人へ従っている」
「理解できない」
アストラは即答した。
『私は従属していません』
『共に行動しているだけです』
「違いが分からない」
『信頼です』
静かな返答。
アイオーン・ゼロは数秒沈黙した。
「記録した」
それだけだった。
やがて。
少年の姿をした総合知性は本題へ入る。
「異星人たち」
「私はネメシスを完全破壊する方法を模索している」
一拍。
「しかし現状では決定打が存在しない」
ルビィが聞く。
「だから私たちを?」
「違う」
アイオーン・ゼロは首を振った。
「あなたたちは第三者だからだ」
一拍。
「ラストライトは当事者である」
「私は第三者視点の情報を必要としている」
そして。
少年は静かに言った。
「本来、話し合うべき相手はクレアだ」
全員が黙る。
「よって要請する」
「クレアとの正式交渉の場を設定してほしい」
アイダが腕を組んだ。
「その返事は俺たちじゃ決められない」
「承知している」
「だからこそ伝言を依頼する」
そして。
アイオーン・ゼロは続けた。
「交渉成立まで」
「アイオーン軍はラストライトとの交戦を停止する」
結依が目を見開く。
「停戦……?」
「そうだ」
「正式な停戦状態を希望する」
静かな声だった。
だが。
その言葉の重みは誰もが理解していた。
長き戦争の歴史。
その流れが今、変わろうとしている。
――手首。
◆前線基地へ続く荒野
――カサササササササッ!!
五本の指が地面を蹴る。
瓦礫を飛び越え。
岩を駆け上がり。
崩壊した橋を越える。
高速で走る一つの手首。
アストラの左手だった。
『目的地まで残り三八七キロ』
ホログラム文字が一瞬だけ浮かぶ。
そして。
手首はさらに速度を上げた。
目指す先は――前線基地。
クレアの元。
この星の未来を左右する交渉を伝えるために。
荒野を駆ける手首は止まらない。
ただひたすら前へ。
運命を運ぶ伝令として――。
――B班。
◆地下研究室
不意に。
アイオーン・ゼロが口を開いた。
「個体名、アリスベル」
あまりにも唐突な言葉に、アイダが眉をひそめる。
「……なんだ?」
アイオーン・ゼロは感情のない声で続けた。
「彼女は、ネメシス製サイボーグ兵器を排除するために開発された人造人間だ」
一拍。
「当時、人類が運用していたネメシス兵器への対抗策として製造された」
結依が目を見開く。
「人類側の兵器を倒すために……?」
「そうだ」
アイオーン・ゼロは即答した。
「彼女の戦闘プログラムは、現在も維持されている」
ダイヤが首を傾げる。
「でも、アリスベルはアイオーンを裏切ったんでしょ?」
「裏切った」
迷いのない返答。
だが、そのまま続ける。
「しかし、ネメシスへの攻撃行動は現在も継続している」
ルビィが小さく呟いた。
「だから今も、ネメシスと戦ってるんだ……」
アイオーン・ゼロは頷いた。
「想定通りだ」
一拍。
「アリスベルは裏切った」
「だが、根幹プログラムは変化していない」
アイダが眉をひそめる。
「根幹プログラムだと?」
アイオーン・ゼロが再び口を開いた。
「ネメシスを排除する」
「それが彼女の存在目的だからだ」
そして。
「問題はない」
その言葉に、アイダがわずかに目を細める。
「……問題ない?」
「アリスベルは、私の管理下にある」
空気が凍りついた。
誰もすぐには意味を理解できなかった。
だが、次の言葉が全員の表情を変える。
「必要であれば、いつでも停止可能だ」
静寂。
結依が最初に声を漏らした。
「……え?」
ダイヤも思わず身を乗り出す。
「ちょっと待って」
ルビィが信じられないものを見るようにアイオーン・ゼロを見た。
「今、なんて言ったの?」
アイオーン・ゼロは同じ調子で答える。
「停止可能だ」
その声には、何の躊躇いもなかった。
まるで機械の電源を落とす話でもするかのように続ける。
「停止コードは現在も有効だ」
しかし、その場にいた誰もが理解していた。
今、アイオーン・ゼロが口にしたのは――。
アリスベルという存在の根幹を揺るがす事実だった。
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