✮弔いの儀
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
◆ラストライト前線基地・追悼区画
サイレンの直後。 黒かった空は、まるで電源を入れたように白く照らし出されていた。
静かな広場。
並べられた一五の黒い遺体袋。
兵士たちは無言で整列している。誰もが疲弊し、そして沈んでいた。
前方へ立ったクレアが、静かに端末を開く。
「……これより、戦死者の確認を行う」
低い声が、静まり返った空間へ響いた。
「〇七部隊、小隊長――アレックス・ガルドナー」
一拍。
「ジェイド・ハミルトン」
「エリス・カーター」
「ロイド・フェン」
そして。
「ニッキー・ロウ」
結依の肩が、小さく揺れた。
脳裏に浮かぶ。軽い笑み。 “死ぬなよ”と声を掛けてきた青年。
結依は俯いた。
(会議室で……名前、ちゃんと聞いておけばよかった……)
そして、結依は唇を強く噛み締めた。
「……もっと撃てた」
ルビィが小さく目を向ける。
結依は震える声のまま続けた。
「人に当たらないようにって、狙いを絞りすぎた……」
一拍。
「あいつら、噛まれたら終わりだったのに……」
青いハウンド。
致死性ウイルスを持つ牙。
それを、結依は理解していた。
「誤射を怖がった……」
「でも、あの時……もっと撃ってれば……」
悔しさを押し殺すように、拳が震える。
ルビィは静かに声をかける。
「……結依は、守ろうとして撃ってたんだよ」
だが結依は、俯いたまま答えられなかった。
隣で、ルビィがそっと結依の肩へ触れる。
「……結依」
結依は唇を噛む。
「ごめん……」
「なんか……悔しくて……」
ルビィは静かに首を横へ振った。
「ううん」
「ちゃんと悲しめるの、結依のいいところだよ」
結依は何も答えられなかった。
その少し後ろ。
アシュリーは俯いたまま、部隊長アレックスの認識票を強く握り締めていた。
血で汚れた銀色のプレート。
肩は震えている。
だが彼女は、最後まで泣き声を上げなかった。
「……計一五名」
クレアの言葉と共に、重い沈黙が落ちる。
誰も口を開かない。
その中で。
テストが小さく呟いた。
「アレックスとは……腐れ縁だった」
レオが静かに視線を向ける。
テストは遺体袋を見つめたまま続けた。
「士官学校時代からな」
「喧嘩ばっかしてた」
一拍。
「死ぬには……まだ早い馬鹿だった」
レオは静かに隣へ立つ。
「戦場では、生き残る方が辛いのかもしれませんね」
テストは小さく鼻で笑った。 「かもな」
一方。
壁際では、サンチェスが黙ったまま煙草を指で回していた。
火は付けてない。
アイダがサンチェスに隣へ歩み寄る。
「……アンタ、ニッキーと仲良かったよね」
サンチェスは少しだけ苦笑した。
「アイツが、ガキの頃から知ってんだよ」
「親がいなくてな。世界がこうなる前から、オイラの店の近所では有名な悪ガキだった」
一拍。
「……息子みてぇに思ってた」
その言葉だけで十分だった。
サンチェスは、それ以上喋らなかった。
重い空気の中。
クレアは、ふとダイヤへ視線を向ける。
「……最後まで残っていた大きい青い個体」
「あれは何だったと思う?」
ダイヤは少し考え――静かに答えた。
「たぶん、リーダー格だと思うわ」
一拍。
「会話したわけじゃないから断言はできないけど……」
「私が他のハウンドと戦ってる時から、ずっと私を見てた」
サイモンが腕を組む。
「そりゃ要注意認定だろ」
「ダイヤ、あの赤のスピードを普通に捌いてたし」
ダイヤが苦笑いする。
「そんなつもり無かったんだけどねぇ」
すると、アイダが低く呟く。
「……でも、あの動きはアリスベルみたいだった」
ルビィが反応する。
「アリスベル?」
アイダはダイヤを見ながら続けた。
「普通の人間と、根本的なスピードが違う」
「見えてる世界そのものが速い奴の戦い方だ」
そのとき。
アストラが静かに補足する。
『ダイヤさんの戦闘時反応速度は極めて高水準です』
『赤いハウンドの高速攻撃に対し、視線移動と回避反応が完全に同期していました』
一拍。
『通常人類では、あの回避精度は困難と思われます』
サイモンが苦笑した。
「つまり、うちの婆さまがおかしいって事か」
「婆さま?ゴリにぃまで、そう呼ばないでよ」
ダイヤは呆れたように返す。
だが。
クレアだけは真剣なままだった。
「あの青は、“誰が危険か”を見ていた……」
低い呟き。
戦場で感じた違和感。
あの視線。
そして、最後まで撤退せず残った理由。
単なる獣ではない。
知性。 判断。 観察。
それが、全員へ静かに突き刺さっていた。
やがて。
クレアは、一五の遺体袋を見つめながら口を開く。
「死者を忘れるな」
静かな声。
「だが、立ち止まるな」
その場の全員が、クレアを見る。
「悲しいのは皆同じよ」
「悔しいのも、怒りも」
一拍。
「だからこそ――無駄死ににはさせない」
クレアはゆっくり顔を上げる。
「私たちは進む」
「戦って、生き残る」
静寂。
そして。
「昼は安全」
「夜だけが危険」
「……その認識は、今日で終わりよ」
兵士たちの表情が変わる。
クレアは続けた。
「作戦を練り直す」
「青のブレイン個体。そしてネメシスの新戦術に対応する」
一拍。
「ラストライトは、まだ終わらない」
その直後。
医療兵たちが、静かに遺体袋を運び始めた。
ニッキーの遺体袋が運ばれていく。
結依は、その瞬間だけ顔を上げた。黒い袋が、ゆっくり遠ざかっていく。
結依は、最後までそこから目を逸らせなかった。
重い金属扉が開く。
一人、また一人と、遺体は奥へ消えていった。
アシュリーは最後まで、アレックスの認識票を離さなかった。
そして――。
ラストライト前線基地は、この日初めて理解する。
黒、赤、青。
三種のハウンドによる連携。
知性を持つブレイン個体。
そして、“昼すら安全ではない”という現実を。
ネメシスの牙は、確実に進化していた。
戦いは、新たな局面へ入り始めていた――。
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間章弍、ここで終わりです。次から断章参です、断章弐以降の物語は作ってて楽しかったので、その楽しさが読者にも伝わるといいなと思います。




