✮黒と赤の群れ(前編)
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
◆ラストライト前線基地・会議室
重苦しい沈黙が、会議室を包んでいた。
黒い惑星。
終わらない戦争。
管理と自由。
誰もが、それぞれ思考を巡らせていた――その時だった。
――ピッ、ピッ。
通信端末が鳴る。
クレアが視線を向け通信にでる。
「ストラウスだ」
ノイズ混じりの男の声が響く。
『前線監視班より報告!』
『ハウンドの大群が、前線基地正面へ集結しています!』
室内の空気が、一瞬で変わった。
クレアが低く問う。
「色は?」
『黒が大多数!』
『奥に赤い個体も数匹確認!』
アイダの表情が少し険しくなる。
クレアが続けて聞いた。
「青は?」
『現在確認しているのは、黒と赤のみです!』
わずかに、室内の空気が緩む。
サンチェスが肩を回しながら呟いた。
「青が無しなら、まだマシか……」
ルビィが小さく首を傾げる。
「ハウンドって、色の種類があるんですか?」
会議室を出ながら、アイダが答える。
「お前たちが港で戦ってたのは、黒いハウンド」
一拍。
「赤の方が、黒より速くて強い」
サイモンが歩きながら聞く。
「じゃあ、青は?」
サンチェスが珍しく真面目な声で言った。
「生物兵器だよ」
その言葉に、結依の顔が曇る。
「……生物兵器?」
テストが無機質な声で続けた。
「青は危険だ」
「我々も、よほどの事がない限り戦闘を避けるよう、クレアが決めている」
アイダが前を向いたまま言う。
「リスクがあるんだよ、青は」
一拍。
「噛まれると、ウイルス感染で一時間も保たずに死ぬ」
一瞬。
空気が凍る。
ルビィが息を呑んだ。
「そんな……」
ダイヤが眉をひそめる。
「完全に対人兵器じゃん……」
レオは静かに呟く。
「ネメシスらしい兵器だな」
アストラが淡々と補足した。
『生体侵食型ウイルス兵器の可能性があります』
『感染速度から推測するに、極めて高い致死性を持つと思われます』
サンチェスが苦笑する。
「だから青だけは、全員マジで嫌がるんだよ」
そのまま一行は、基地内部を早足で進んでいく。
通路では既に兵士たちが動き始めていた。
弾薬箱が運ばれ。
ライフルが配られ。
防壁上では照明が点灯していく。
遠くで警報音が響いていた。
結依が小さく呟く。
「本当に、急に戦場になるんですね……」
アイダは鼻で笑う。
「ここじゃ日常だよ」
やがて一行は、巨大な第一ゲートへ到着した。空は暗くなっていた。
分厚い防壁。
無数の照明。
高所に並ぶ機銃座。
テストはそのまま金属階段を上がり、監視台へ向かう。
双眼鏡を覗き込み――低く言った。
「……一二〇から一五〇」
サンチェスが目を剥く。
「多いなオイ……」
テストは冷静に続けた。
「無理に全滅させる必要はない」
一拍。
「数が多すぎる。追い払う事を優先しろ」
防壁の下では、武装した兵士たちが次々と集結していた。
クレアが歩きながら指示を飛ばす。
「〇二と〇六部隊は東側防壁へ!」
「〇七部隊は正面迎撃準備!」
「狙撃班は上へ!」
兵士たちが一斉に動き出した。
その中で、クレアはアイダへ視線を向ける。
「アイダ」
「新しい六人は、今はアンタの指揮下に置く」
アイダがニヤッと笑った。
「了解」
そのとき。
アストラが静かに割って入る。
『私は戦闘不向きのアンドロイドです』
『後方待機を推奨します』
ルビィがすぐに言った。
「私たち五人は、アイダさんの指揮下へ入ります」
一拍。
「アストラは情報収集向きのアンドロイドなので」
アストラは静かに頷いた。
『後方支援へ移行します』
クレアは短く答える。
「頼むわ」
やがて。
巨大な内門が開き始めた。
――ゴゴゴゴゴ……。
重い駆動音。
外へ続く通路が姿を現す。
兵士たちが次々と外へ出ていく。
ルビィたちも、その後へ続いた。
そして――内門が閉鎖される。
アイダが前方を見据えたまま言う。
「よし」
「外門を開けろ!」
次の瞬間。
基地正面の巨大外門が、ゆっくりと左右へ開き始めた。
暗黒の街。
崩壊した道路。
そして――。
無数の赤い眼光。
低いうなり声が、闇の中から響く。
そこにいたのは。
黒い装甲を纏った、野犬型サイボーグ――ハウンドの大群。
その奥には。
黒よりも大型で、赤い装甲を持つ個体の姿も見えていた。
結依が小さく息を呑む。
「……うわ」
サイモンが笑う。
「歓迎会にしちゃ、派手すぎるな」
赤い眼光の群れが、一斉にこちらを見た。
そして。
――――グルルルルルル……。
夜の戦場が、始まろうとしていた。




