✮地獄の生存者たち
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
◆ラストライト前線基地・会議室
クレアは、しばらく無言のまま黒い惑星の地図を見つめていた。
モニターに映る黒い大地。その上を、幾つもの光点と警戒区域が静かに明滅している。
やがて、彼女は小さく息を吐いた。
「……もし、私たちの“夜”に対する認識そのものが間違っていたなら」
一拍。
「作戦は、根本から立て直しね」
その言葉に、テストが腕を組んだまま頷く。
「そうだな」
低い声が、静かに響いた。
「アリスベルたちも呼び戻すべきだ。今の情報を共有しないのは危険すぎる」
「そうね」
クレアが端末を操作する。
「今、二人に帰還コードを送ったわ」
ルビィが顔を上げる。
「そのアリスベルさんって人のことも、聞かせてください」
クレアは一瞬だけ視線を伏せた。
そして静かに端末へ触れる。
モニターが切り替わった。
黒い地図の上に、複数のマークが浮かび上がる。
細い線で繋がれた生存拠点。
補給ルート。
封鎖区域。
その中には、赤く点滅する危険区域も存在していた。
部屋の空気が、再び引き締まる。
クレアは画面を見つめたまま、静かな声で言った。
「次は――」
クレアの瞳に、疲労と覚悟が滲む。
「私たち、“ラストライト”について話すわ」
サンチェスは椅子へだらしなく腰掛けながら笑う。
「ようこそ、“地獄の生存者組織”へ〜」
アイダは呆れた顔をした。
「紹介の仕方が雑すぎる」
サンチェスはケラケラ笑う。
「だって実際そうだろ?」
テストはモニターへ視線を向けたまま言う。
「ラストライトは、地表人類のレジスタンス組織だ」
「ネメシスとも」
「アイオーンとも距離を置いてる」
レオは静かに尋ねる。
「両方に狙われているのか?」
クレアは静かに頷く。
「そうよ」
「冗談じゃなく、ホントに“地獄の生存者組織”よ」
クレアは少し目を伏せる。
「何もしなければ、どちらかに飲み込まれるだけ」
会議室の空気が少し重くなる。
ルビィは小さく呟いた。
「……ずっと戦い続けてるんですね」
クレアは静かに頷く。
「ええ」
サイモンは周囲を見回した。 「ここには、かなり人がいたよな」
クレアはモニターを操作する。
複数の部隊番号が表示された。
「ラストライトは現在、一五部隊で構成されている」
結依は驚いた。
「一五!?」
サンチェスはニヤニヤする。 「思ったより大所帯だったろ?」
クレアは端末を見ながら説明を続けた。
「ラストライトの各部隊は、番号ごとに大まかな役割が決まっている」
「奇数部隊は偵察、探索、攻撃を主任務とする前線部隊」
「偶数部隊は物資回収、避難誘導、防衛を担当する支援部隊」
「もちろん例外はあるけれど、基本はこの形で運用しているわ」
テストは低い声で補足した。 「全員が戦闘員じゃない」
「技術者もいれば」
「医療担当もいる」
アイダは鼻で笑う。
「まぁ、まともな医者なんてほとんど残ってないけどね」
結依は少し顔を曇らせた。
「この星、ほんとにギリギリで回ってるですね……」
クレアは静かに言う。
「それでも、生きるしかない」
モニターに、ラストライトの主要メンバー一覧が表示される。
クレアが順番に説明していく。
「テスト・ワルス」
「元軍人」
「現在は戦術責任者」
テストは軽く手を上げるだけだった。
サンチェスは横から笑う。
「こいつ、見た目通りクソ真面目だからな」
テストは無言で睨む。
サンチェスは即座に目を逸らした。
「はいはい、怖い怖い」
少し笑いが起きる。
クレアは続ける。
「アイダ・レイン」
「元傭兵」
「前衛戦闘と危険区域偵察を担当」
アイダはニヤッと笑う。
「危険な場所専門ってわけ」
ダイヤは興味深そうに見る。 「確かに、そんな感じする」
「だろ?」
アイダは楽しそうに笑った。
クレアは次を表示する。
「サンチェス・モール」
「武器整備、改造、補給管理」
サンチェスは得意げに胸を張る。
「元武器ショップ店主!」
サイモンは吹き出した。
「肩書きだけ聞くと平和だな」
サンチェスは真顔になる。
「平和だったんだよ、昔は!」
会議室に少し笑いが広がる。
クレアは静かに続ける。
「そして――アリスベル」
画面に、一人の女性の姿が映る。
少し暗い金髪。異様に青い瞳。どこか人間離れした雰囲気。
結依は息を呑んだ。
「この人が……」
アイダは腕を組む。
「アイオーン製の特殊人造人間」
テストは低く言う。
「戦闘能力は、ラストライトでも最上位だ」
サンチェスは苦笑する。
「正直、彼女が一人いるだけで戦況変わるレベル」
ダイヤは目を細めた。
「そんなに強いんだ」
アイダは即答する。
「強い」
「化け物みたいにな」
クレアは静かに続ける。
「でも、完全に感情を失っているわけじゃない」
「むしろ……」
「人間性を持ってしまったから、アイオーンから外れた」
ルビィは小さく呟く。
「悲しいですね……」
クレアは少しだけ表情を柔らかくした。
「今は、ある人物と一緒に別行動をしているわ」
画面が切り替わる。
一枚の画像が表示される。
今度は、鋭い目をした女性。
黒いジャケット。拳銃ホルスター。短めの黒い髪。無駄のない立ち姿。その視線だけで、場の空気が張り詰めるようだった。
クレアは淡々と告げる。
「ケイト・セレスティン」
「元刑事よ」
「刑事!?」
サイモンが思わず声を上げた。
ダイヤが画像をまじまじと見る。
「刑事さん、綺麗な人だね」
その横で、サンチェスが吹き出す。
「ああ、婆さまの言う通り、綺麗なんだがな……」
「でも、めちゃくちゃ怖ぇぞ〜?」
「尋問とかされると、マジで逃げ出したくなる」
テストが冷めた目でサンチェスを見る。
「お前の場合、逃げ出したくなる理由があるだろ」
「いやいや、誤解だって」
即座に否定するサンチェス。
だがテストは容赦なく続けた。
「コイツは、ただの武器ショップ店主じゃない」
一拍。
「武器密輸。違法改造。旧文明兵器の横流しまでやってた」
サイモンが口を開ける。
「お前、普通に犯罪者じゃねぇか!」
「“だった”だよ、“だった”!」
サンチェスが慌てて訂正する。
するとアイダが鼻で笑った。
「で、そのサンチェスと元刑事のケイトは、世界がこうなる前からの顔見知りらしい」
ニヤニヤしながら続ける。
「何回か、しっかり尋問されてたみたいだしな」
結依が呆れた顔になる。
「えっ……あれジョークじゃなかったの?」
「残念ながら実話だ」
サンチェスは遠い目をした。
「経験者が語るってやつさ……」
ぼそりと呟く。
「マジで目が笑ってねぇんだよ、あの女刑事……」
その瞬間。
クレアが静かに言った。
「ちなみに、今でもサンチェスを見ると疑いの目をしてるわ」
サンチェスが慌てて言う。
「やめろ!?その情報はいらないだろう!?」
部屋に小さな笑いが広がる。
だがモニターに映るケイトの鋭い視線だけは、まるで今も誰かを尋問しているようだった。
クレアは小さく苦笑する。
「判断力と追跡能力が高い」
「現在はアリスベルと行動している」
レオは静かに聞く。
「目的は?」
クレアの目が鋭くなる。
「ネメシス破壊のためよ」
室内の空気が変わった。
クレアはモニターに、巨大な赤い領域を表示する。
「現在、ラストライトの目的は二つ」
「ネメシスの破壊」
「そして――」
「アイオーンの停止」
結依は驚いた。
「両方!?」
クレアは静かに頷く。
「どちらかだけ残っても、この星は終わらない」
「ネメシスは人類を排除する」 「アイオーンは人類を管理する」
「結局、人類は自由を失う」
ダイヤは腕を組みながら呟く。 「究極の二択って感じだね」
「そう……そして、私たちはどちらも選ばない」
クレアは少し疲れたように笑った。
「でも問題がある」
モニターに地下都市の映像が映る。
まるで刑務所の様な施設。それでも、笑っている人々がいる。
ルビィは驚いた。
「えっ……」
「普通に暮らしてるの……?」
クレアは静かに言う。
「地下の人類は、管理されている代わりに安全よ」
「飢えも」「怪物も」「黒い夜もない」
サイモンは複雑そうな顔をする。
「それって……」
クレアは言葉を続けた。
「だから、そこを望んで入った人間もいるし、捕獲され入れられた人間もいる」
室内が静かになる。
レオは目を閉じた。
「自由か、安全か……か」
クレアは頷く。
「地下人類全員が、救助を望んでいるわけじゃない」
「中には、地上を“狂った世界”だと思ってる人もいる」
アイダは吐き捨てるように言う。
「実際、間違ってないけどね」
サンチェスは苦笑した。
「否定できねぇなぁ」
結依は少し俯く。
「難しいですね……」
クレアは六人を見る。
「だから、この戦争には単純な正解がない」
「でも、それでも」
「私たちは止まれない」
クレアの目には、長い戦いの意志が宿っていた。
「このままじゃ」
「人類は、どちらかの檻に閉じ込められたままになるから」
また遠くで、再びサイレンが鳴る。
まるでこの星そのものが、終わらない戦争の呼吸を続けているようだった。
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