✮恒星の光
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
◆ラストライト前線基地・会議室
アストラの報告が終わった直後。会議室の空気は凍りついていた。
恒星に異常。
その短い一言だけで、全員の表情が変わる。
この惑星にとって、恒星は昼夜そのものを支配する存在だ。
もし異変が起きているのなら――その影響は計り知れない。
最初にアイダが声を上げる。
「……は?」
結依も顔をしかめる。
「また爆発するとかじゃないよね?」
『いいえ』
アストラは即座に否定した。
『少なくとも、恒星そのものが爆発する兆候は観測されていません』
その言葉に、わずかに安堵の空気が流れる。
だが――。
アストラの表情は変わらなかった。
「なんだよ、紛らわしい言い方しやがって……」
サンチェスが胸を撫で下ろす。
だが、アストラは続けた。
『これまで皆さんは、“アイオーンが夜を作っている”と認識していました』
「違うのか?」
テストが低い声で問う。
アストラはモニターへ複数の波形を表示した。
『正確には逆です』
その言葉に、クレアの眉がわずかに動く。
「……逆?」
アストラが続ける。
『アイオーンは、“明るい時間”を維持しています』
沈黙。
誰も、すぐには意味を理解できなかった。
サイモンが小さく呟く。
「おいおい……待てよ」
アストラは淡々と続ける。
『上空に展開されているナノマシンは、明るい時間の時は空の模様を形成しています。そして、暗くなっている間に集めた恒星のエネルギーを増幅し、地上へと放射しています』
ダイヤは眉をひそめた。
「じゃあ、昼間に見えている空は……偽物なの?」
『そうです』
アストラは即答した。
『私たちは、すでに宇宙からこの惑星が黒いナノマシンに包まれている姿を確認しています。陸地から見れば、明るい空の時間帯であっても、この惑星は宇宙から見れば黒いままです』
ダイヤは腕を組み、考え込んだ。
「なるほどね……。じゃあ、簡単に言えば、明るい時間は部屋のライトを点けているのと同じってこと?」
『その通りです。ナノマシンが光を放射することで、地上では昼間のような明るさが保たれています。空に見える景色も、ナノマシンによって再現されたものです』
ダイヤはモニターを見つめたまま、静かに呟いた。
「……つまり、私たちが見ている空そのものが、作り物だったわけね」
モニターに、黒い雲のようなナノマシン粒子層が映し出される。
『そのエネルギーは、精密機械へ干渉を与えます。電子制御の乱れ、反応速度低下、回路誤作動。長時間暴露すれば、高度機械化個体ほど活動効率が低下するでしょう』
クレアが息を呑んだ。
「……ネメシス」
『はい』
アストラが頷く。
『ネメシスのサイボーグは、“夜に強い”のではありません。“明るい時間を避けている”可能性が高い』
部屋の空気が変わる。
テストが腕を組み、ゆっくり目を細めた。
「だから……昼間は廃墟や地下に潜んでいたのか」
アイダが少し声を荒げる。
「じゃあ、夜は?……何故、暗くする?」
ルビィが呟く。
「エネルギー切れなの?」
『正確には、再充填フェーズです』
アストラは淡々としていた。
『恒星エネルギーを維持散布するには、膨大な演算と蓄積が必要です。アイオーンは定期的に散布を停止し、ナノマシン群を充電状態へ移行させているのでしょう』
ダイヤが顔を上げる。
「その結果が……夜ね」
『はい』
モニターの光がアストラの瞳に反射する。
『つまり、“夜を作っている”のではありません』
一拍。
『“明るい時間を維持した結果”、夜が発生している』
静寂。
サンチェスが乾いた笑いを漏らした。
「冗談だろ……」
アイダは舌打ちする。
「じゃあ何か?あの黒い空、俺達を閉じ込めるためじゃなく……ネメシスを押さえつけるためだったってのか?」
『その可能性は高いでしょう』
「……クソが」
アイダは壁を殴りつけた。
『じゃあ、あいつら本当にこの星守ってるってのかよ』
『守っています』
アストラは即答した。
だが、その声に感情は無い。
『ただし、“人類の自由”ではなく、“惑星環境と管理秩序”を』
クレアは静かに目を閉じた。
「……なるほどね」
疲れたように息を吐く。
そしてアストラは、さらに続けた。
『また、アイオーン製の人造人間には、恒星エネルギーによる機能低下が確認されていません』
テストの目が鋭くなる。
「耐性を持たせてるのか」
『おそらくは、最初から恒星環境下での運用を前提に設計されています』
クレアが顔を上げる。
「……レヴロスト」
その名に、アイダも反応した。
「あの黒い連中……」
「ええ」
クレアはゆっくり呟く。
「奴らは、前に明るい時間に潜伏しているネメシス狩りをしていた……」
『その行動は合理的です』
アストラが肯定する。
サンチェスが青ざめた顔で笑う。
「じゃあ俺達、昼も夜も化け物同士の戦場の真ん中にいたってことかよ……」
誰も否定しなかった。
重苦しい沈黙が、会議室の中を支配していた。
誰もが、今聞かされた真実を飲み込みきれていない。
そんな空気の中。
ルビィがふと、アストラへ視線を向けた。
「……ねえ、アストラ」
『はい』
「あなたは平気なのか?」
ルビィはモニターに映る恒星波形を指で示した。
「ここの恒星の光。機械に影響あるでしょ?」
一瞬だけ、室内の視線がアストラへ集まる。
アストラは静かに答えた。
『私は問題ありません』
『私の関節構造は分離式です』
アストラは自分の腕を軽く持ち上げる。
『私の構造には、オリオン博士による未発表技術が使用されています』
レオが眉をひそめた。
「あ……そうだったな」
『はい。私は各駆動部位が独立制御されています。そのため、高エネルギー干渉による全身伝達障害が発生しません』
結依が目を丸くする。
「オリオン博士すごっ、ホントにバラバラになるのが役に立ってる」
アストラは続けた。
「逆に、関節が固定された一体型アンドロイドは、影響を受けている可能性があります」
テストが低く呟いた。
「……だから旧文明の機械が、使えなくなってたのか」
するとレオが、何か思い出したように笑った。
「そういや、惑星アークスの恒星の時も、七八は普通に動いてたしな」
ダイヤが顔をしかめる。
「あー……確かに」
少し呆れたように天井を見上げた。
「オリオン……何の技術で関節作ったんだ?」
アストラは答えない。
代わりに、サイモンが吹き出した。
「ははっ……」
皆の視線が向く。
サイモンは肩を揺らしながら言った。
「AIだの、ネメシスだの、アイオーンだの散々聞かされた後でアレだけどさ」
一拍。
「宇宙で一番ヤバいの、オリオンなんじゃねぇか?」
一瞬。
空気が止まり。
次の瞬間。
ダイヤが噴き出した。
「違いないね!」
結依まで笑い始める。
「分かるわそれ!」
ルビィも小さく口元を緩めた。
ダイヤが笑う。
「本人がいない所で、どんどん評価がヤバくなってくね、オリオン……」
――重かった空気が、ルミナス号の六人の会話で、ほんの少しだけ軽くなっていた。




