✮言葉なき邂逅
更新
月曜〜土曜の朝6時に新エピソード1話
※日曜・祝日はお休みです。
◆黒き惑星・港湾跡地
最後の野犬型サイボーグが、瓦礫の奥へ消えていった。
静寂。
港には、砕けた金属片と、海風の音だけが残った。
青白く発光する海が、ゆっくりと波打っている。
結依がライフルを下ろし、小さく息を吐いた。
「……終わった?」
サイモンが周囲を見渡す。
「ひとまずな」
その直後だった。
――ガラッ……。
崩れたコンテナの残骸が動く。
全員の視線が向く。
そこから、黒い兵士がゆっくりと立ち上がった。
ヘルメットが半分割れている。
片腕は損傷。
装甲も砕け、身体の各所から血らしき液体が流れている。
だが。
その赤い瞳だけは、まだ消えていなかった。
ルビィが思わず前へ出る。
「……生きてる!」
黒兵は、ゆっくりとこちらを見る。
警戒。敵意。だが同時に、困惑のような感情も見えた。
ルビィは慎重に近づく。
「あなた、大丈夫ですか?」
当然、言葉は通じない。
黒兵が低く声を発した。
「……ヴァル……レク……」
(なぜ助けた)
ノイズ混じりの低い声。
結依が小声で言う。
「……なんか喋った」
アストラの瞳が淡く光る。
『音声データ解析中』
『解析率、一〇パーセント』
『言語パターンを構築しています』
ルビィは、さらに一歩近づいた。
「私たちは敵じゃ――」
その瞬間。
遠くから、鋭い駆動音が響く。
――ギュォォォン!!
全員が振り向く。
港湾道路を、二つのライトが高速で接近してきた。
二台のバイク。
黒い車体が瓦礫を跳ね飛ばしながら、一気に港へ突入してくる。
そして。
急停止。
タイヤが火花を散らした。
乗っていたのは、二人。
ライフルを背負った男――テスト。
髪を後ろで束ねてる女性――アイダ。
テストは即座に黒兵へ銃口を向ける。
「レヴロスト――ゼルヴァクト!!」
(黒兵、動くな!!)
当然、誰にも通じない。
ルビィが呟く。
「レヴロスト?」
結依が目を瞬かせた。
「うわ、人間!?」
ダイヤも目を細める。
「この星、生存者いたんだ」
レオが静かに観察する。
「しかも戦闘慣れしている」
一方。
黒兵は、テストたちを見た瞬間。
反応した。
赤い瞳が鋭く細まる。
敵。
明確に、そう判断した。
損傷した身体を無理やり起こし、武器を構える。
ルビィが慌てる。
「ま、待って!」
だが、止まらない。
テストも即座に動く。
「――アイダ!ジムレルム、レヴロスト」
(アイダ!黒兵の右を取れ!)
「デェム!」
(了解!)
二台のバイクが同時に加速した。
黒兵が発砲。
蒼白い閃光が夜を裂く。
だが。
テストたちは高速で左右へ分散し、回避。
アイダがバイクを横滑りさせながら射撃する。
――ダンッ!!
黒兵の肩部装甲が弾け飛んだ。
それでも黒兵は止まらない。
高速移動。
瓦礫を蹴り、テストへ突進する。
しかし。
テストは真正面から突っ込んだ。
バイクごと急加速。
すれ違いざま。
――ガギィン!!
小さな棒のような物で頭部へ強烈な打撃。
壊れてたヘルメットが吹き飛んだ。
黒兵の身体が大きく傾く。
そこへ。
アイダの追撃。
――ダンッ!!
膝関節を撃ち抜かれ、黒兵が片膝をつく。
さらにテストが接近。
至近距離。
頭部に銃口を突きつける。
「――ヴァル」
(――終わりだ)
発砲。
黒兵の身体が崩れ落ちた。
静寂。
ルビィが呆然と立ち尽くす。
「……そんな」
アイダがバイクから降り、ルビィたちを見る。
「――ルクア・ゼア?」
(お前たちは何者だ?)
当然、通じない。
結依が困った顔をする。
「また何か言ってる……」
アストラの瞳が高速点滅する。
『解析率、二一パーセント』
『推測――』
一拍。
『相手に強い戦闘意思はありません』
レオが静かに言う。
「話しかけているようには見えるな」
ダイヤも頷く。
「交渉したそうな雰囲気はあるね」
しかし、ルビィの中では違った。 あの黒兵には、自分たちへの敵意は無かった。
そして何より――傷ついていた。
ルビィは唇を噛む。
「怪我してたのに……」
そして。
一歩、前へ出た。
結依が嫌な予感をする。
「……ルビィ?」
ルビィは、テストたちを真っ直ぐ見据える。
「あなたたち!」
当然、言葉は通じない。
だが、その怒気だけは伝わった。
テストが目を細める。
アイダが小さく構える。
結依が頭を抱えた。
「もうっ、ルビィってば!!」
だが結局。
ライフルを構え、ルビィの後ろへ駆ける。
サイモンが呆れたように言う。
「止めなくていいのか、これ」
ダイヤは、さらっと答えた。
「二対二だし」
一拍。
「相手の力も知りたいし、しばらくこのままでもいいんじゃない?」
レオも静かに頷く。
「致命傷になる前には止める」
そして。
ルビィが二人に近づく。
テストとアイダも同時に動く。
黒き惑星の港で。
港湾跡地に、冷たい風が吹き抜ける。
青白く発光する海。
崩れたコンテナ群。
新たな戦闘が始まる。
その中央で、四人が向かい合っていた。
結依は肩へ掛けていたライフルを外す。
そして。
カタン――……。
静かに地面へ置いた。
ダイヤが少し目を細める。
「へぇ」
結依は視線を外さず、ルビィへ言う。
「武器無しで行くよ」
ルビィは無言だった。
数秒。
そして。
腰のホルスターからガンを抜き――投げ捨てる。
ガラン、と金属音が響いた。
それを見た瞬間。
アイダが、ニヤッと笑う。
「――ルリスジル」
(――面白いじゃん)
そして、テストへ何か小声で言う。
テストは小さく息を吐き。
背中のライフルを外した。
さらに腰のハンドガンも捨てる。
アイダも同じように武器を地面へ放った。
これで。
誰も武器を持っていない。
サイモンが呆れ顔になる。
「始まったよ……」
ダイヤはどこか楽しそうだった。
「完全に喧嘩だね」
レオは四人を観察している。
「いや、探り合いだ」
一拍。
「互いの力量確認だな」
その瞬間。
アイダが先に動いた。
地面を蹴る。
速い。
結依へ一直線。
「うわっ!?」
結依は咄嗟に後退。
だがアイダは止まらない。
低い姿勢から回転するような蹴り。
結依が腕で受ける。
――ドッ!!
「っっ!?」
重い。
想像以上だった。
結依が数歩滑る。
「なにこの人、重っ!?」
アイダが笑う。
「――ヘリム!」
(まだまだ!)
連撃。
拳。 肘。 膝。
流れるような近接戦闘。
結依はギリギリで避け続ける。
「ちょ、速いって!」
一方。
ルビィとテスト。
こちらは対照的だった。
静か。
だが張り詰めている。
テストが低く構える。
ルビィも構えた。
次の瞬間。
同時に踏み込む。
――バシィッ!!
拳と拳が激突。
衝撃。
ルビィの目がわずかに見開く。
「……!」
重い。
人間とは思えないほど。
だがテストも驚いていた。
少女の細い腕。
なのに。
威力が高すぎる。
ルビィはすぐに追撃。
回し蹴り。
テストは腕で受け流し、逆に距離を詰める。
近い。
一瞬でルビィの間合いへ入ってくる。
レオが静かに言う。
「軍隊格闘術か」
ダイヤが頷く。
「無駄がないね」
テストの拳がルビィの脇腹へ迫る。
だが。
ルビィは身体を捻って回避。
そのまま肘打ち。
テストが後退。
お互い、距離を取り直す。
結依の方では。
「うわっ!?」
アイダの蹴りで、結依がコンテナへ叩きつけられた。
だが。
「ギア上げるよ!」
結依は笑いながら飛び出す。
フェイント。
低姿勢。
そして、予測不能な動きでアイダの側面へ回り込む。
アイダが目を見開いた。
「――!?」
結依の蹴りが脇腹へ入る。
アイダが数歩よろめく。
結依がニヤリと笑った。
「なかなかやるじゃん!」
その様子を見ながら、サイモンが呟く。
「結依ちゃん、適応早ぇな……」
ダイヤは楽しそうだった。
「直感型だからね」
一方。
ルビィとテスト。
二人は再び激突する。
拳。
蹴り。
受け流し。
反撃。
互いに一歩も引かない。
言葉は通じない。
なのに。
戦いの呼吸だけは、奇妙なほど噛み合っていた。
黒い惑星の夜。
港湾跡地で。
四人の戦いは、まだ続いていた。
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