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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【間章壱】宝石(星)の系譜/黒き兵士と夜の獣

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✮夜への警鐘

◆ルミナス号・船内

 低い振動を響かせながら、ルミナス号は黒い惑星の空を滑空していた。

 窓の外には、崩壊した都市群。割れた道路。

 だが、不気味な惑星の印象とは裏腹に、海そのものは異様なほど美しかった。

 漆黒の海面に、青白い光が筋のように揺れている。まるで海そのものが、星空を映しているようだった。


 結依が思わず声を漏らす。

「……綺麗」

 一瞬だけ、全員が黙る。


 ダイヤも窓を見たまま、小さく頷いた。

「前に来た時も思った」

「この星、見た目のわりに海だけはすごいんだよね」


 サイモンが苦笑する。

「海だけ見てると観光惑星なんだけどな」


「海以外が地獄すぎる」

 ダイヤが真顔で返した。


 その空気の中。

 アストラが静かに前へ出る。

『これを装着してください』

 五人へ差し出されたのは、小型のリング状デバイスだった。銀色の細い輪。中央には淡く青い光が灯っている。


 ルビィが少し目を細める。

「……懐かしいですね」


 結依が笑う。

「あー、アークスの時にずっと使ってたやつ!」


 レオが受け取りながら頷く。

「またこれのお世話になるのか」


 サイモンは指先でリングを回す。

「精度は相変わらず化け物級なんだろ?」


『誤差率〇・〇〇二パーセント以下です』

 アストラが即答する。


 ルビィは慎重に指へ装着する。 「でも、“解析完了後”なんだよね?」


『はい』

 一拍。


『現時点では、まだこの惑星の言語解析が完了していません』

『ですが、会話サンプルを収集できれば、翻訳機能を起動できます』

 アストラが淡々と説明した。


 レオが静かに頷く。

「つまり、接触できれば会話が可能になる」


 ダイヤが笑う。

「やっと交渉できるかもね」


 サイモンが苦笑する。

「前回は殴り合いしかしてねぇからな」


 そのとき。

 レオが前方モニターを見る。

「着陸地点は、前回と同じ港付近にする」


 ルビィが視線を向ける。

「理由は?」

 

 レオがモニターを見たまま答える。

「地形を把握している」

 一拍。


「それに、黒いやつらが現れた場所でもある」


 ダイヤが前へ身を乗り出した。 「あ、見えてきた」

 窓の向こう。

 崩壊した港湾地区。

 そして、その中央。


 ダイヤが前へ出て、モニターを指差した。

「ほら、あそこ」

 港湾跡地の立体映像。

 崩れた埠頭。巨大クレーン。

 そして、半ば海中に沈んだ黒い機械構造物。

「あの機械みたいなのの裏側」   一拍。


「たぶん地下に入れる扉がある」


結依が目を細める。

「地下施設……かな?」


 サイモンが腕を組んだ。

「前回、あそこへ近づいた瞬間だった」

 低い声。

「めちゃくちゃ強い黒いやつらが二回とも出てきた」


 ルビィが聞き返す。

「……二回も?」


「ああ、二回」

 サイモンが真顔で頷く。

「しかも強かった」


 ダイヤが軽く笑いながら言う。 「今思い出しても、普通に嫌」


 珍しく、レオまで小さく頷いた。

「あの戦闘能力は異常だった」


 その空気を切るように、  アストラの瞳が淡く光る。

『生命反応を確認』

 一瞬で全員の空気が変わる。


「数は?」

レオが即座に聞く。


『二体』

 一拍。


『高速接近中』

 アストラが出したホログラムに、二つの光点が表示される。

 かなり速い。


 結依が目を見開く。 「速っ!?」


 サイモンが眉を寄せる。

「黒いやつか?」


 アストラが淡々と答える。

『不明です』

 一拍。


『ただし移動速度から推定するに、生身ではありません』


 ダイヤが口元を歪める。

「乗り物だね」


 レオが静かに言う。

「車か、バイクか」


 ルビィの表情が緊張で固くなる。

「この惑星に、まだそんな文明が……」


ダイヤが少し笑う。

「迎えに来た?」


 ルビィは警戒を崩さない。

「まだ敵対か友好かもわかりません」


 サイモンが窓の外を見る。

「でも、こっちに真っ直ぐ向かってきてるな」


 レオが静かに言う。

「隠れる気はないらしい」


 アストラが続ける。

『着陸予定地点まで残り一分』

 機体がゆっくりと傾く。

 窓の外。

 崩壊した港湾都市が近づいてくる。割れた道路。沈んだコンテナ。朽ちた巨大船。


 だが、その奥に広がる海は、やはり美しかった。青白い発光が波間に揺れている。

 まるで、この惑星がまだ死にきれていないように。


 ダイヤが静かに呟く。

「……やっぱ、この惑星好きだな」


「理解できない感性してますよ」  結依が即答した。


 そのとき。

 機内へ、低い警告音が響いた。

『着陸シークエンス開始』

 ルミナス号が減速する。

 港湾跡地。

 前回と同じエリア。

 巨大な黒い機械構造物の近くへ、ゆっくりと機体が降下していく。


 ダイヤが目を細めた。

「あそこだね」


 サイモンも視線を向ける。

「間違いねぇ」


 レオは静かに周囲を観察する。

 そして。


 ルミナス号が、静かに着陸した。

 低い振動。

 機体が停止する。


 その――直後だった。

 ――ウォォォォォン……

 惑星全体を震わせるような、巨大なサイレン。


 空気が変わる。

 ルビィが反射的に窓を見る。 「え?」


 空が。急速に暗くなっていく。

 ほんの数秒前まで存在していた恒星光が、黒い霧のような粒子に覆われ、消えていく。


 昼が。一瞬で、夜へ変わる。


 結依の顔が青ざめた。

「うそでしょ……」


 アストラが即座に解析を始める。

『上空にナノマシン群を確認』

『恒星光遮断を開始』


 窓の外が、完全な黒へ沈んでいく。

 そして海だけが、青白く発光していた。


 サイモンが小さく舌打ちする。 「……最悪のタイミングだな」


 ダイヤも苦笑する。

「夜スタートだね……」


 レオは静かに周囲を見る。

「嫌な記憶しかない」


 前回。夜の直後に現れた、異形の群れ。

 虫。  獣。  海の怪物。


 この惑星の“本当の地獄”は、夜から始まる。


 そのとき。

『外部接近反応』

 アストラの声。


 モニターに映る。

 二つの高速反応が、すぐ近くまで来ていた。


 そして――

 ルミナス号のハッチが、ゆっくりと開き始める。


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