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【第八章】 因果の果て ②

2026年3月20日に完結します。

おそらく、個人的な理由で、この小説の公開は2026年4月1日から一時的に非公開にします。


☆アクアとアリエス


艦内の緊張が、わずかにほどけたあと。

ルビィが端末を操作しながら言った。

「まず、アリエス博士に会うには、宇宙ステーションに入る必要があります」


スクリーンに、巨大な円環構造のステーションが映し出される。

研究区画と議会区画を併せ持つ、リトス銀河でも屈指の中枢施設。


結依が首をかしげた。

「でも、ルミナス号って……有名すぎない?」


『はい』

アストラが即答する。

『ルミナス号は、現在この時代において、行方不明の船です。近づけばすぐに、監視と照会が同時に行われるでしょう』


サイモンが星を眺めながら呟く。

「そりゃそうだ。そんな船が、いきなり帰ってきたら大事件だ」


ルビィは頷いた。

「そうね、ルミナス号はここの宙域で待機。6人でルミナール号で向かいます」


ダイヤが片眉を上げる。

「でも、ルミナール号って、この時代に登録ないでしょ?」


アストラは、さらりと言った。

『はい、ありません、今から作ります』


一瞬の沈黙。


結依が思わず聞き返す。

「……作る?」 


『はい、私は未来のアンドロイドです。50年前のデータの改ざんは簡単です』

『“民間所有・超富裕層向け個人船” として登録します』


サイモンが吹き出す。

「ははっ、金持ち設定かよ」


『最も不審に思われません』

アストラは淡々と続ける。

『目的不明、滞在短期、身元非公開。この時代のセキュリティは、富裕層に甘い』


結依が呆れたように言う。

「完全に犯罪者の発想じゃない」


『合理的です』即答。


そのやり取りを聞いて、ダイヤがふっと笑った。

「ねぇ、レオ」


レオが顔を上げる。

「なんだ?」


「アストラは、完全にオリオンと同じ思考してる」


一瞬の間。


結依が噴き出し。

サイモンも声を押し殺して笑う。

ルビィも耐えきれず、くすっと息を漏らした。


レオは、苦い顔で黙っている。

「あいつも、こんな感じなのか」


アストラは気にした様子もなく続ける。

『次に、個人識別です』

6人分のホログラムが立ち上がる。

『全員に電子偽IDを作成します。

職業、経歴、滞在理由――すべて整合性を取ります』

『そして、ルミナス号の3人は有名人ですので、変装が必要です』


ダイヤ「え?変装?」


数分後。


まず、レオ

コードネーム:リゲル

落ち着いた色のローブに、縁なしの情報グラス。

髪は後ろで一つに束ねられ、雰囲気は完全に“無口な資産家の護衛”。

レオは鏡を見て、眉をひそめた。

「……俺、こんなに無愛想に見えるのか?」


『違和感ないです』

アストラが言う。


結依「落ち着いた感じで、カッコいいですよ」


次に、サイモン。

コードネーム:ウィリス

派手な柄のジャケットに、過剰な装飾リング。どこからどう見ても、成金。

「ちょ、待て待て!」

サイモンが抗議する。

「俺、こんな趣味じゃない!」


アストラは淡々と。

『記録によれば、この時代の富裕層男性は、“わかりやすい装飾”を好みます』

ダイヤが大笑いした。

「ゴリにぃ、似合ってる似合ってる!」

ルビィも結依も笑っている。


最後に、ダイヤ。

「はいはい。どうせ私も地味に――」

表示された姿を見て、ダイヤが固まった。

髪は短くまとめ帽子をかぶる。

ゆるいジャケット。

首元まで閉じたシャツ。

どう見ても、少年だった。

「……は?」


サイモンが吹き出す。

「ちょ、待て。誰だこの爽やか系イケメン」

結依「可愛い男の子じゃん」 


アストラは淡々と言う。

『少年に偽装することで、識別率を63%低減できます』


ダイヤは鏡の前に立つ。

髪をまとめられ、帽子をかぶる。

いつもより目が大きく見えた。

「……嘘でしょ」


ルビィ

「おばあちゃん、悪くないよ〜」


ダイヤ「悪くない!? 私だよ!?」


『声帯補正を行います。少し低めに』ダイヤは咳払いする。

「……えーと」


アストラ

『もっと短く。語尾を落としてください』


ダイヤ「…俺…」


サイモンが両手で口を押さえ笑った。

「やば。完成度高ぇ」


ダイヤは睨む。

「笑うな、ゴリにぃ」


サイモン

「いやいや、むしろ俺よりモテそうなんだが」


レオが小さく言う。

「自然に歩け。腰を落とせ。肩を開くな」


ダイヤは姿勢を変える。

少し足を広げ、ポケットに手を入れる。鏡の中には、見知らぬ少年がいた。

「……これで、バレない?」


アストラの返答は即答だった。

『はい。“ダイヤ” は存在しません』


ダイヤは、ゆっくり息を吐いた。

「じゃあ、今日から俺は?」


アストラが新しいIDを表示する。

『コードネーム:ラルド』


サイモンが笑う。

「お、強そう」


ダイヤ――いや、ラルドは小さく頷く。

「了解。任務、開始だ」


フェザーはというと。

首元に小さなタグが装着される。

〈希少保護動物・個人所有〉

「……きゅ?」

フェザーが首をかしげる。


アストラは言う。

『フェザーには、正式な飼育許可証を発行しました』

『この時代では、動物の方が審査が厳しい場合があります』


ダイヤが抱き上げて、頬ずりした。

「偉くなったねぇ、フェザー」


最後に、アストラ自身。

『私の身分は』

淡々と宣言する。

『“次世代研究用アンドロイド・試作機”。この時代より50年先の技術で製造された、という設定です』


結依が目を丸くする。

「……それ、信じられるの?」


『疑われても問題ありません』

アストラは即答した。

『技術検証には、数十年単位の時間が必要です』


ダイヤがため息混じりに言う。

「もう隠す気ないでしょ?」


『ありません』


そうして、ルミナール号は宇宙ステーションへと進路を取る。

通信が入る。

『こちら、中央第一宇宙ステーション管制。未登録船籍を確認。目的を述べよ』


ルビィが、落ち着いた声で応答した。

「民間船ルミナール。短期滞在。研究区画への入港許可を要請します」


一拍。


『……確認。着陸許可を発行する。指定ドックへ進入せよ』

巨大なステーションが、ゆっくりと迫ってくる。


ダイヤはフェザーを撫でながら、小さく呟いた。

「さあ……ここからが本番だね」

ルミナール号は、静かに減速し――歴史が動き出す場所へと、降りていった。



☆アリエスとの再会


ルミナール号を降りた6人と1匹は、入港手続きを簡単にパスして、宇宙ステーション内部でも限られた者しか立ち入れない区画へと向かった。


アストラが説明もなく、簡単に扉のセキュリティをクリアした。


結依は笑った。

「もはや、大怪盗だね、平気で法に犯すなんで、アストラの中身はやっぱりオリオン博士だわ」


それを聞いて、レオは苦笑いしかできない。


ステーション外周に隣接する居住ブロック。そこは、司令官級、研究責任者級といった上層関係者のみが暮らす、静かで整然とした空間だった。


目的地は、その一角。

アリエス・ミラノ博士の自宅兼研究室。


しばらく歩くと――

家の前に到着した。


その時だった。

「あ……」

レオが、思わず足を止める。


家の外、透明ドームの下。

芝のような人工植生の上で、ひとりの女性がしゃがみ込んでいた。

少しピンクがかった金色の髪。見覚えのある横顔。


そして――

「ほら、タウロス。そこ、危ないわよ」

よちよちと歩く赤ん坊を、両手で支えながら笑っている。


「……大きくなったな」

レオが、無意識にそう呟いた。

最後に会ったのは、ルミナス号出航前、9ヶ月前だ。

まだ首もすわりきっていなかった赤ん坊は、いまや1歳ちょっと。


まだ、おぼつかない足取りで、アリエスの周りを歩き回っている。


いきなり声をかけるのは、さすがにまずい。そう判断したルビィと結依が近づき声をかける。

「失礼します、アリエス・ミラノ博士?」

アリエスが顔を上げる。

「……?」

一瞬、警戒した表情。

だが、すぐに礼儀正しく立ち上がった。

「はい。どちら様でしょうか?」


「私たちは――」

ルビィが名乗ろうとした、その時。

「たー!」

赤ん坊が、よろけながらルビィの足元に突進してきた。

「わっ……」

反射的にしゃがみ込むルビィ。


アリエスが苦笑する。

「ごめんなさい。この子、人見知りしないの」


「いえ、大丈夫です」

ルビィが微笑んだ、その瞬間。

赤ん坊が、ルビィの指をぎゅっと掴んだ。


「タウロス、やめなさい」

アリエスは赤ん坊を抱き上げた。


「……タウロス?」

結依が、ぴくりと反応する。

「え?」「今、タウロスって……」


アリエスは何気なく答えた。

「ええ。この子の名前です。タウロス・ミラノ・ゴールドバーグ」


その瞬間。


ルビィと結依が同時に固まった。

「……え?」「……あの?」

2人の視線が、赤ん坊とアリエスを何度も往復する。


「ちょ、ちょっと待って」

結依が思わず声を上げる。


「そのタウロスって……」

ルビィも、真顔で続けた。

「将来、宇宙ステーション最高司令官になる?」


「……は?」

アリエスが、完全に困惑する。


「口髭のめちゃくちゃ怖い人……」

「私たちに、異銀河探索の極秘辞令、出してきた」

赤ん坊は、そんなルビィたちをよそに、「たー!」と笑いながら手を叩いた。


沈黙。


ルビィが、肩を震わせる。

「これが、あのタウロス司令官?」

結依がぼそっと言う。

「信じられい……」


アリエスは状況が飲み込めないまま、首を傾げた。

「……えっと。何の話?」


その時だった。

「……アリエス」

低く、懐かしい声。


アリエスが、はっと振り返る。

「……レオ?」


一瞬、思考が止まり――


次の瞬間、目を見開いた。

「……レオ!?」「なんで……!?」

その後は、言葉にならなかった。


室内に招き入れられ、6人と1匹は、ようやく腰を落ち着ける。


アリエスはサイモンを見て、吹き出した。

「ちょっと、サイモンその格好なに? 成金? ウケるんだけど」


「俺の趣味じゃないからな! 全部アストラだ!」


レオが小さくため息をつく。


アリエスは次にダイヤを見る。

そして目を丸くした。

「……え? ダイヤ?」

少年姿のダイヤは、少し低めに。

「……俺」

『語尾を落としてください』

「……俺だよ」

 

サイモンが覗き込む。

「やば、普通に男の子だな。しかもそこそこイケてる」


「うるさいゴリにぃ」


アリエスは笑いながら頷く。

「全然わからなかったよ。完全に男の子ね」


ダイヤは小さく息を吐く。

「……バレないよね?」


レオが即答する。

「問題ない」

その声に、ダイヤは静かに頷いた。


再会の会話も落ち着き…

そして、すべてが語られた。


ルミナール号の存在。

50年後の未来。

サファイアのこと。

ルビィと結依。

オリオンが、未来でアストラを生み出したこと。


そして――

アクア・ミラノが、近い将来、暗殺されるという事実。

その後、アリエス自身も狙われること。


黒幕となる組織の存在。


アリエスは、途中、一言も挟まずに聞いていた。話が終わると、深く息を吐き、静かに言った。

「……なるほど」


そして、視線がアストラへ移る。

「あなたが……未来のアンドロイド?」


アストラが頷く。


次の瞬間。

「すごい!」

アリエスの目が、子供のように輝いた。

「この構造……この制御系……」 「え、ちょっと、ここ触ってもいい?」


フェザーにも気づく。

「何この生き物」

「かわいい……でも、この皮膚密度、異常じゃない?」

フェザーは、「きゅ」と鳴いた。


ダイヤ「兄妹そろって、科学オタクだね」


レオは、苦笑するしかなかった。


アリエスは、ふっと真剣な表情に戻る。

「……で?」 「未来から来た皆さんは、私に何を求めてるの?」


ルビィが答える。「協力です」


アリエスは、ゆっくりとうなずいた。

「いいわ」 「じゃあ――」

視線が、全員を見渡す。

「今後の作戦を、考えましょう」


その言葉とともに、

物語は――“暗殺を止める側”として、動き出した。


アリエスがアクアに連絡を入れると、返事はすぐだった。

「アクアさんは今、ここの宇宙ステーションで仕事中だけど……終わったら、すぐにここに来るそうよ。それに、今日は元々、アクアと私と夕飯の約束もしてたしね」


アクアが来るまでの時間、部屋はそれぞれの過ごし方で満たされた。


アリエスの科学オタクスイッチが完全に入る。

「ねぇアストラさん、内部構造ちょっと見せて!」


アストラは、どこか得意げに自分の腕部を分解・再構築してみせた。


ルビィと結依は、タウロスを囲んで「あらあら」「よしよし」と完全に保育モード。


サイモンは床に座り込み、小さなフェザーと追いかけっこをしている。


レオだけが、窓の外に浮かぶ宇宙ステーションを見つめ、静かに考え込んでいた。


それから、だいたい3時間後。

ドアが開き、懐かしい声がした。

「ごめん、遅くなった」

入ってきたアクアの姿を見た瞬間、レオの思考が止まる。


「アクア……?」


アクアも同じように立ち尽くし、次の瞬間、息を呑んだ。


「レオ……?生きてたの?」


2人の距離が、ゆっくりと縮まる。言葉は多くなかったが、それで十分だった。


「オリオンは?」とレオが聞くと、「学校行事で、5日ほどいない」とアクアは答えた。


そのあと、アクアはダイヤとサイモンの顔を順に見て、目を見開く。

「……まさか。3人とも、生きてたなんて」

その場の空気が、少しだけ温かくなる……が……。


結依(……これが、アクア・ミラノ。思ったより、ずっと穏やかな人だ)


アクアは2人を見て、

ふっと笑った。

「サイモン、その宝石……歩く広告塔みたいね」


「やめてくれ、俺だって好きでやってるわけじゃない!」


視線がダイヤに移り、アクアはくすりと笑う。

「それと――ダイヤ?」

「可愛い息子が増えたみたい」


「可愛いは余計!」


サイモンが吹き出す。

「ほらな、やっぱ可愛い枠だって」


アクアは楽しそうに頷く。

「ええ。頼りにしてるわよ、“坊や”」


「坊や言うな!」


落ち着いたところで、レオが切り出した。


これまでのこと。

暗殺計画、タイムマシーン…

長い説明は省かれ、要点だけが静かに伝えられた。


アクアは眉をひそめ、そして視線をアストラへ向ける。

「そのアンドロイド……」

やはり、そこが一番気になるらしい。


「私たちが乗ってきたルミナール号って船、きっとアクアさん、興味あると思うよ」

ダイヤの一言で、少しだけ科学の話になる。

技術、設計思想、時代差、新型のワープ理論。


ルビィが軽く咳払いをした。

「そろそろ、本題に入りましょう」


レオが静かに頷く。


アストラを中心に、全員が集まり、作戦会議が始まった。



☆作戦会議


◆アリエス邸


静かな部屋に、全員が集まっていた。そして、作戦はアストラの情報を元に話が進められていた。


アクアが意外にも笑顔で言った。

「私が暗殺される7月19日の14時は、【星間平和協定10周年記念式典】の日」

「射殺場所は壇上ではなく、会場入りの時。車から降りて間もなく、中央コロニー広場ね」


「……なら、私はここで囮になるべきね」

声は落ち着いていた。覚悟を決めた人間の、それだった。


レオが一瞬、言葉を詰まらせる。 「アクア……」


「大丈夫よ」

アクアは微笑んだ。

「歴史では、私はこの日に死んでる。だったら――

使えるものは使わないと」


ルビィは拳を握りしめた。

「ただし、完全な無防備にはしません」


アストラが頷いた。

『警護を増やせば、暗殺者は警戒します。よって、同行者は私1名のみ』


結依が補足する。

「撃たれた瞬間、どこから撃たれたか。角度、距離、弾道……」


少し言葉を切る。


「アストラが1番、正確に判断できる」


『その通りです』

アストラは淡々と続けた。

『私のセンサーで、射撃位置を即時特定します』


ダイヤが腕を組む。

「で、アクアさんの“表向きのボディガード”は」


その瞬間。

「きゅっ」テーブルの下から、白くてふわふわした毛玉が顔を出した。

「フェザーでいいの?」ダイヤが苦笑する。


アストラが説明する。

『地下都市ルナストンで、正式に護衛訓練を受けています。皮膚強度は通常ライフル弾を無効化可能』

『ペットを抱いて歩いてる科学者なんて、誰も怪しまないでしょう』


結依がフェザーを見て言う。 「完璧すぎない?」


フェザーは誇らしげに胸を張った。

ルビィがホログラムを指す。

「射撃可能地点は、4カ所」


映像が切り替わり、4つの高所が表示される。


「そこに――」

ルビィは、はっきり言った。

「レオさん、ダイヤさん、結依、私がそれぞれ配置につきます」


レオが低く頷く。

「フェザーのボディガードを信用して」

「撃った瞬間、確保する」


「逃がさない」

ダイヤの声は短く、鋭い。


結依は一瞬、拳を握った。

「……零間二射」


アリエスが口を挟む。

「私は?」


アストラが答える。

『サイモンさんと一緒に待機です』

『アクアさんが撃たれた後、“死亡偽装”が必要になります』


サイモンが小さく息を吐いた。

「やっぱり、そこは俺の出番か」


レオは、しばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと口を開いた。

全員の視線が、レオに向く。

「……アクアの死は、歴史通りに扱う」


アクアが静かに目を伏せる。

「だから……」

レオは続けた。

「その日以降、オリオンとは会えない」

空気が張りつめる。


「オリオンは、歴史通りアリエスが育てる」

視線を妹に向ける。

「その未来があるからこそ、アストラが生まれた」


アストラが補足する。

『オリオン博士の人格形成、研究分野、アンドロイド開発―― いずれも、アリエス博士の影響が決定的です』


結依が、そっと聞いた。

「……じゃあ、アクアさんは、その後どうするの?」


レオは迷わなかった。

「俺たちと一緒に行く」


一拍。


「50年先の未来へ」


アクアは、ゆっくりと微笑んだ。 「……ええ。生きれる未来があるなら、そっちを選ぶわ」


ルビィが深く頷く。

「では、決まりです」


決定事項。作戦は、以下のように定められた。


ホログラムがでる。


《アクア・ミラノは、歴史通り暗殺予定日に行動し、囮となる》


《同行者はアストラ1名のみとし、警護の増強は行わない》


《表向きの護衛として、フェザーが常にアクアの傍につき、射撃時フェザーは弾道上に割り込み、防弾するがアクアは血糊を使い倒れる》


《射撃可能と想定される4地点には、レオ、ルビィ、ダイヤ、結依がそれぞれ配置につき、発砲と同時に暗殺者を確保する》


《アリエスとサイモンは現場外で待機し、射撃後、アクア死亡の偽装処理を実行する》


《暗殺実行後、歴史上アクアは死亡扱いとなり、本人はルミナール号と共に未来へ移動する》


実行日までの行動は3班に分かれる。


①レオ、アリエス、アクア、アストラ、ダイヤは、暗殺計画を主導した犯罪組織の摘発に向け、裏から動く。


②結依はフェザーと共に、零間二射を想定した護衛訓練を行う。


③ルビィとサイモンは、暗殺者の有力容疑者2名について、徹底的な調査を行う。


作戦は決まった。

あとは――

運命の日を待つだけだった。



☆ふたりの容疑者


◆リトス宇宙ステーション・下層居住区


人通りの多い通路を、ルビィとサイモンは並んで歩いていた。

服装は地味だが、2人とも目だけは鋭い。


「で、候補はこの2人か」

サイモンが小声で言う。


ルビィは、手元の端末を軽く操作した。

「うん。アストラが絞った2名。年齢、経歴、射撃記録……どっちも“おかしい”」


サイモンが苦笑する。

「“上手すぎる”って意味でな」


暗殺実行犯・候補①

エリオ・ヴァンス(28)

元・外縁宙域警備隊。

長距離射撃専門。

【零間二射照準訓練】の修了者。


暗殺実行犯・候補②

ノア・カルディナ(30)

民間警備会社出身。

宇宙防衛射撃大会・優勝。

【連続即応射撃】異常な成功率。


「どっちも“二射”をやってる」

ルビィが言った。


サイモンが続ける。

「“頭と胸”を、ほぼ同時に。

これ、教わらなきゃ無理だ」


ルビィは、少しだけ言葉を探してから言った。

「結依のお父さんと、同じだよね」


サイモンは黙って頷いた。


清水獠。未来で、軍と警察、そしてコロニー防衛を統合した射撃教官。結依が子供の頃、遊び半分で“基礎”だけ教えられた技術。


「個人の発想じゃない」

サイモンが言う。

「流派だ。教えた人間がいる」


そのとき。

「――あれ?」

不意に、聞き覚えのある声。

2人が同時に足を止める。

 

前方、露店の並ぶ通路の角。

小さな影が、首チョンパ人形を抱えて立っていた。


「……オリオン?」


ルビィが、思わず名前を呼びそうになって、口を押さえた。


サイモンは即座に柱の影へ。

「俺は顔が割れてる。隠れる」

ルビィだけが、自然な歩調で近づいた。


――オリオン・ミラノ(幼少期)

子供のオリオンは、床に座り込んでいた。

両手に抱えているのは、例の人形だ。首がくるりと回る、少し怖い顔をしたそれを、大事そうに抱えている。


ルビィがしゃがみ込む。

「それ、首チョンパ人形?」


オリオンは誇らしげに頷いた。

「うん。パパがくれた」


ルビィが微笑む。

「面白いね。ちゃんと考えてる顔してる」


オリオンは目を輝かせた。

「ほんと?」


ルビィが、ぽつりと言った。

「ねえ。もしさ」

「それが動いたら、どうなると思う?」


オリオンは、しばらく人形を見つめてから言った。

「……友だち、かな」


ルビィは、静かに笑った。

「じゃあ、またね…」(50年後に…)ルビィはオリオンの頭を撫でる。


オリオン「うん、またね」



そして、オリオンと別れた後、ルビィとサイモンは静かに通路を進む。


目標はエリオ・ヴァンス。

アクア情報では、彼はこのコロニーに昨日の偽のIDで午後に入管手続きしており、暗殺に向けて犯行現場の高所を下見している可能性がある。


「……あれ、エリオじゃない?」

ルビィが小声で言う。

サイモンは頷き、2人は柱や看板の陰に身を潜める。


エリオは広場近くの路地を抜け、古い観測ビルに向かう。手元には小さなデータ端末。周囲を警戒しながら、屋上の構造や射線を確認している。


「……あれ?」

ルビィが息を飲む。視界の先にもう1人の影、ノア・カルディナだった。


ノアもまた、慎重に周囲を見回し、視線が一瞬交わると軽く頷く。


ルビィは端末越しに囁く。

「……やっぱり知り合いみたい。明らかに連携してる」


サイモンも頷く。

「共犯ってことか?」


2人は路地や建物の影を伝い、観測ビルの屋上までの動きを追う。

ルビィは息を潜めてメモを取り、サイモンは2人の動きを確認する。


「共犯だって、事前に分かって良かったな」

サイモンが小声で言う。


「1人だと思ってたら、守りがもっと大変になるところだった」

ルビィも同意した。


エリオとノアは高所を下見し、広場や周囲のビルの視界を確認している。

ノアは端末でビルの構造をスキャンし、エリオも視線と距離を確認。小型の光学スコープケースからライフルを取り出す様子も記録される。


「ほら……これだ」

ルビィも端末で確認する。

「2人とも暗殺用の装備持ってる。共犯は間違いない」


その後、2人は建物の別の側面に移動し、観測ビルや周囲の屋上の下見を続ける。


ルビィとサイモンは、その会話と行動を録画し、証拠として確保。


「これで2人の共犯関係も証明できる」

サイモンが言った。


「零間二射の技術を持つスナイパーが2人……アクア暗殺阻止も準備万端だね」

ルビィは小さく笑った。


録画が完了すると、2人は建物から離れ、証拠を安全な場所に送信。

「よし、あとは実行日まで暗殺阻止をどうするかだな」サイモンが端末を閉じる。


ルビィも頷き、次の作戦の準備を心に決めた。


――これで、暗殺実行犯2人の共犯証拠が手に入った。アクアの暗殺阻止に向けて一歩前進したのだった。



◆リトス宇宙ステーション・アリエスの研究室


ルビィとサイモンが追跡の結果を報告する。


「アクアさん暗殺実行犯、まさかの2人だった」

サイモンが端末を見せながら言う。


ルビィも補足する。

「歴史上は1人だと思われてたけど、2人だった。これでアクアさんを守るハードルがさらに上がったわ」


そこへ結依が、フェザーを連れて部屋に入ってきて言った。

「凄いよ、フェザー!」

フェザーは少し胸を張るようにして、ぴょこんと座る。

結依はニコニコしながらフェザーを撫でる。

「零間二射のガードも完璧!ほんとに凄いペットだわ。ルナストン市民が番兵やボディガードにするの、納得だよ」


アクアを守る作戦について、ルビィは慎重に話を切り出す。

「でも……実行犯、2人の可能性もあるの」


サイモンが頷く。

「零間二射の技術を持つスナイパーが2人……アクアさんを守るの、本当に大変になった」


レオが即座に言った。

「何のための2人だ?予備なのか?」


結依が眉をひそめる。

「それとも1人1射ずつ撃つの?2人で4射?」


その問いに、アストラが落ち着いた声で答える。

『歴史上では、同じ入射角から2射撃ちされています。なので、実行犯は1人と考えられます』


結依が少し安心するが、アストラは続ける。

『もう1人は、邪魔が入った場合の予備でしょう。でも、どちらにしても、当日は2人をマークする必要があります』


ルビィが小さくため息をつく。

「なるほど……スナイパーが2人……」


フェザーが小さく鼻を鳴らし、ルビィたちを見上げる。

(うん、私が守るから大丈夫だよね)と言いたげな様子に、みんなが少し微笑む。


結依は再び端末を確認しながら、覚悟を決めたように言った。

「よし、2人を同時に監視しながら、アクアさんを安全に守る。準備は万端にしておきましょう」


レオも頷く。


アクアを守る作戦はさらに具体的になったのだった。



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