☆第二惑星――砂と毒と雨
二つ目の惑星に着陸した瞬間、視界が一気に黄土色に染まった。
地平線の果てまで、砂、砂、砂。
空は白く霞み、太陽は容赦なく照りつけている。
「……暑い」
ルビィがヘルメットの中で顔をしかめた。
三人はバイクに跨り、慎重に調査を開始する。
砂煙を巻き上げながら進むが、景色はほとんど変わらない。
数分後――
「暑すぎる、ちょっと休憩!」
結依がたまらず叫んだ。
バイクを止める。
アストラが淡々と報告する。
『湿度ゼロ、気温四八度。砂漠率、九二%』
「聞くだけで余計暑くなるわね……」
結依が肩で息をしながらぼやく。
ルビィも小さく息を吐いた。
「植物反応は?」
『ほぼありません。確認できるのは、微細な菌類と――』
そのとき。
結依が足元を見て、眉をひそめる。
「……虫?」
砂の表面を、何かが高速で横切った。
小さく、だが明らかに“生きている”動き。
「やだ、いるじゃない。しかも絶対ロクでもないの」
結依が嫌そうに顔をしかめる。
三人は警戒しながら、ゆっくりと歩き始めた。
生命反応は少ない。
だが、ゼロではない。
こういう星ほど――危険なものが潜んでいる。
そのとき。
『気をつけてください』
アストラの声が、いつもより近い。
「え?」
ルビィが振り向こうとした、その瞬間。
アストラの前腕に、小さな影が跳ねた。
――チクッ。
一瞬の出来事。
「……今、刺された?」
結依が目を見開く。
「アストラ!?」
アストラは、ゆっくりと自分の腕を見下ろした。
そこには、針のような口器を持つ小型生物が張り付いている。
『毒性昆虫です』
「冷静すぎでしょ!」
結依のツッコミが即座に入る。
ルビィが焦った声を上げる。
「だ、大丈夫? 毒よ!? え、アンドロイドって毒……」
『影響ありません』
あっさりとした返答。
そして。
アストラはその昆虫を素早く摘み上げた。
『毒サンプル、回収しました』
「……え?」
ルビィが固まる。
その瞬間。
アストラの声のトーンが、わずかに上がった。
『非常に興味深い成分構成です』
結依がじっと見る。
「……今、喜んだ?」
『はい』
「喜ぶな!」
即ツッコミ。
ルビィも呆れた声を出す。
「普通そこ、痛がるとか怖がるとかでしょ!」
『私はアンドロイドですので』
「そうだけど、そうじゃなくて!」
アストラは気にした様子もなく、虫をケースに収める。
どこか満足げだった。
すると、
――ポツ。
ヘルメットに、小さな音が当たる。
「……雨?」
結依が空を見上げた。
次の瞬間。
――ジュッ。
砂に落ちた雨粒が、音を立てて煙を上げる。
白い蒸気が、じわりと広がる。
「……酸だ」
結依の声が低くなる。
アストラが即座に判断する。
『弱酸性ですが、長時間の暴露は危険です』
ルビィは即断した。
「撤退!」
「判断、早くて助かるわ!」
結依が叫びながら走る。
三人は一斉にバイクへ飛び乗った。
エンジンが唸る。
砂を蹴り上げ、一気に加速。
背後では、酸の雨が砂をじわじわと溶かしていく。
景色が歪む。
結依がバイクを走らせながら叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「この雨、ルミナール号は大丈夫なの!?」
アストラが即座に返答する。 『問題ありません』
『この程度の酸性雨であれば、ルミナール号の特殊コーティングに影響はありません』
ルビィが息を切らしながら振り返る。
「“この程度”って言った!?」
『はい』
『ルミナール号は恒星フレアおよび高腐食性惑星環境を想定して設計されています』
結依が思わずツッコむ。
「設計思想が怖いのよ!」
そのまま、全速力で宇宙船へ。
――帰還。
船内に入った瞬間。
三人は同時に息を吐いた。
「――短かったね」
結依がヘルメットを外しながら言う。
汗が額を伝う。
『ですが、必要なデータは取得済みです』
アストラはケースを見つめる。
『毒性生物、酸性降雨、極限環境』
淡々とした報告。
結依はじっと見た。
「……なんか、嬉しそうね」
『はい』
即答。
「だから喜ぶなって!」
ルビィは苦笑する。
「この星、長居しなくて正解ね」
『同意します』
アストラは、珍しくわずかな間を置いた。
『ですが、非常に良い惑星でした』
「評価基準そこ!?」
結依が思わず声を上げる。
こうして――
第二惑星の調査は、想定よりもはるかに短時間で終了した。
残る惑星は、あと三つ。
そして――
次からは、もう少し厄介になる。
そんな予感が、三人の間に静かに広がっていた。




