☆自然の摂理
静まり返った洞窟に、重い足音が響く。
倒れた若い戦士たちの向こう。
奥から現れたのは――
明らかに“格”の違う存在だった。
大きな体躯。分厚い皮膚。
そして、全身から滲み出る支配者の気配。
「……なるほど」
低い声。
「少しはやるようだな、異星人」
その態度は、傲慢そのものだった。
アストラが静かに訳す。
結依が一歩前に出ようとするが――
ルビィが腕で制した。
「ここは私が」
一歩前へ。
視線がぶつかる。
長は鼻で笑う。
「弱い者は支配される。それが自然だ」
洞窟内の空気が、ぴんと張り詰める。
ルビィは、ため息をついた。
「……じゃあ、自然に従おうか」
一瞬で二人の距離が消えた。
――バコッ!!!
鈍い音。
長の体が宙に浮き、そのまま地面へ叩きつけられる。
「がっ……!」
完全に、動きが止まる。
圧倒。
ルビィは淡々と言う。
「これが、今の“自然”」
沈黙。
残っていた戦士たちが、一斉に後ずさる。
そのとき。
洞窟の奥から、ゆっくりとした足取りで一体の老いた両生類族が現れた。
深く刻まれた皺。
だが、その目には理性があった。
「……やめよ」
低く、静かな声。
空気が変わる。
アストラが翻訳する。
『私の責任だ、とのことです』
老いた個体は続ける。
『引退してから、秩序を保てなかった』
ルビィは静かに頷く。
結依も、ゆっくりと息を吐いた。
張り詰めていた怒りが、ようやく収まっていく。
その後の交渉は――
アストラの通訳により、進められた。
魚人族と両生類族。
長い沈黙。そして――
両者は、互いに干渉しないこと。
支配関係を解消すること。
その合意が、結ばれた。
洞窟に、初めて“静かな空気”が戻る。
アストラはすでに別の分析を行っていた。
『この惑星の知的生命体は、両生類族と魚人族のみと確認されました』
結依が振り向く。
「じゃあ、あのクラーケンぽいのは?」
『グラスダーと呼ばれています。知性は低く、野生生物です』
ルビィは小さく頷いた。
「最初の敵が、一番単純だったのね」
結依が苦笑する。
「次は、もう少し楽な惑星がいいな」
アストラが即座に告げる。
『残り、四つの惑星です』
「現実を突きつけるのやめてくれる?」
三人は、洞窟を後にする。
その背後で――
魚人族と両生類族は、静かに向き合っていた。
争いのない、初めての時間。
そして。
ルミナール号へと戻る三人。
水の惑星には、確かに“変化”が残された。
――平和。
ルミナール号の探索は始まったばかり。
次の惑星で待つものは――
まだ、誰も知らない。
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