✮黒き惑星の再解析
◆ルミナール号 ブリッジ
進路を変更したルミナール号は連結したルミナス号と共に、静かに黒い惑星へ向けて航行を続けていた。
ブリッジ中央には、巨大なホログラム。黒い惑星の立体映像がゆっくりと回転している。
その不気味な星を見ながら、ルビィが深く息を吐いた。
「……では、改めて情報共有を行います」
視線をダイヤたち三人へ向ける。
「前回探索時の詳細を教えてください」
ダイヤが軽く頷く。
「了解、ルビィ船長」
その言い方に、ルビィは少しだけ複雑そうな顔をした。
結依が椅子に逆向きに座りながら笑う。
「ちゃんと、そこ従うんだ」
「船長だからね」
ダイヤは普通に返した。
サイモンが腕を組む。
「まず言っとく。あの惑星、かなり危険だ」
一気に空気が引き締まる。
ホログラムに、前回ルミナス号が撮影した映像が映し出される。 崩壊した都市。黒ずんだ建物。 割れた高架道路。朽ちた港。
結依の表情から笑みが消えた。 「……思った以上に終わってるね」
レオが静かに言う。
「文明崩壊から、かなりの年月が経過している」
サイモンが続けた。
「ただ、完全な死の星じゃない」
海の映像。わずかな植物。動く影。
「生命反応は普通にあった」
ルビィが眉を寄せる。
「でも、問題はそこからですよね?」
ダイヤが頷いた。
「うん。昼間に現れる黒いやつら」
ホログラムに、黒い人影の静止映像が表示される。
結依が目を細める。
「……これ、人間?尾がある」
「わからない」
レオが即答する。
「少なくとも、完全な機械ではない」
サイモンが補足する。
「戦った感じ、生物っぽさはあった」
「え、戦ったの!?」
結依が前のめりになる。
ダイヤが苦笑する。
「めちゃくちゃ戦ったよ」
レオの頭部へ攻撃が直撃した映像。サイモンが吹き飛ばされる瞬間。ダイヤの背後を尻尾が掠める記録。
ルビィの顔色が変わる。 「ちょっと待ってください……これ、生身でやったんですか?」
「そうだけど?」
ダイヤが普通に返す。
「正気ですか!?」
ルビィが少し呆れ顔で言う。
「うん。でも、黒いやつらも武装はしてたのに、武器は使ってこなかったからね」
ダイヤは笑顔で返す。
結依が吹き出した。
「この三人、やっぱり頭おかしい」
サイモンが苦い顔をする。
「笑い事じゃねぇぞ。武器無しでも、かなり強かった」
レオも頷く。
「戦闘技術が高い。連携能力もある」
ダイヤが付け加える。
「あと、途中から急に強くなった」
「強くなった?」
ルビィが聞き返す。
「目が光った瞬間」
ダイヤは自分の目元を指差した。
「そこから、速度もパワーも一段変わった」
アストラの瞳がわずかに光る。 『戦闘強化システムの可能性があります』
サイモンが頷く。
「しかも、戦闘では使わなかった武器の威力がヤバいんだよ」
海面が爆発する映像。
結依が目を見開く。
「うわっ!?」
ルビィの表情が固まる。
「あのサイズの武器で……?」
レオが低く言う。
「ルミナス号でも直撃は危険だった」
静寂。
そして、ダイヤが少し真面目な顔になる。
「でも、敵って感じでもなかった」
「え?」
ルビィが視線を向ける。
ダイヤはホログラムを操作しながら言う。
「地下施設っぽい入り口を守ってた」
映像には、港。謎の機械。隠し扉。
「そこに近づいた時だけ、黒いやつらは出てきた」
サイモンが続ける。
「最後は、武器の威力を見せて、帰れって感じだったな」
レオも頷く。
「排除より、警告に近かった」
結依が興味深そうに呟く。
「地下施設か……」
アストラが静かに言う。
『前回データを再解析します』
ホログラムが切り替わる。
惑星全体のスキャン。
数秒後。
『解析結果を更新』
全員の視線が集まる。
『惑星表面の異常な黒色化は、鉱物由来ではありません』
サイモンが眉を寄せる。
「え?じゃあ、何なんだ?」
アストラは補足する。
『大気中および地表より、高濃度の機械粒子を検出』
一拍。
『ナノマシン残留物と判断します』
ブリッジが静まり返る。
「……ナノマシン?」
結依が小さく呟く。
アストラは続ける。
『現在も活動状態にある可能性が高いです』
その瞬間、ダイヤが何かを思い出したように顔を上げた。
「サイレン……」
レオも気づく。
「なるほど」
ルビィが二人を見る。
「何かわかったんですか?」
レオがホログラムを見ながら言う。
「前回、サイレン直後に急激な夜間化が発生した」
サイモンが続く。
「夕焼けも無しで、一気に暗くなった」
アストラが即座に計算を始める。
『仮説を構築』
一拍。
『サイレン後、ナノマシン群が上空へ拡散』
『恒星光を遮断』
『疑似夜間環境を形成』
結依が思わず言う。
「……なにそれ」
ルビィの表情が強張る。
「つまり、この惑星の夜は……自然現象じゃない?」
アストラが即答する。
『その可能性が高いです』
静寂。
サイモンが低く呟く。
「まだ戦争が、まだ終わってねぇみたいだな……」
誰も否定しなかった。
そして、ダイヤが空気を切り替えるように言う。
「で、問題はここから!」
「夜になると、別の連中が出る」
ホログラムに映る。
大量の虫。 群れる野犬。海面から伸びる巨大触手。
数秒後。
「無理無理無理無理!」
結依が素で叫んだ。
ダイヤが指をさす。
「虫、四〇センチくらいある」
珍しく、ルビィまで少し引いていた。
「キモ!?」
「しかもサイボーグ」
「最悪!!」
サイモンが真顔で言う。
「数がやばい」
レオも頷く。
「夜間行動は危険だ」
ダイヤが笑いながら言う。
「だけど今回は前回と違う」
ホログラムが切り替わる。
組み立て式バイク三台。
携行型転送装置。
超身体能力強化薬。
結依が目を輝かせた。
「うわ、ジュラシックアースの時の!?」
「フェザー製……違うね、元祖フェザー製」
ダイヤがニヤッと笑う。
「かなりチート」
「きゅ」と、フェザーが鳴いた。
ルビィが頭を押さえる。
「嫌な予感しかしません……」
レオが冷静に話を戻す。
「ルミナール号は軌道上待機がいい」
ルビィが頷く。
「私もそう思います」
サイモンが腕を組む。
「危険すぎる。万一を考えりゃ母艦は残すべきだ」
結依が不満そうに言う。 「えー、私も降りたい」
「降りるよ、みんなでルミナス号でね」
ダイヤが即答した。
「やった!」
結依が即座に返す。
「やってません」
ルビィはすぐに反応する。
ブリッジに少しだけ笑いが戻る。
だが、そのとき。
『黒い惑星、接近中』
アストラの声。
ホログラムに、ゆっくりと巨大化する黒い星が映る。
前回より不気味だった。
そして。
『微弱信号を受信しています』
一瞬、空気が止まる。
アストラが続ける。
『発信源――ダイヤさんが前回設置した発信信号と一致します』
静寂。
ダイヤが、小さく笑った。
「……まだ、生きてる」
黒い惑星が、静かに迫っていた。
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