✮黒き惑星への再選択
【間章零】ep135〜145がプロローグで、その続きの【間章壱】になります。
間章は壱、弍、参……と続きます。
楽しんでもらえると嬉しいです。
この物語は、本編【第七章】と【第八章】の間の物語です。【第八章】のEpisode.117の☆五〇年……の途中から、枝分かれします。
本編では語られなかった、もう一つの惑星での物語です。
◆ジュラシックアース宙域
巨大な惑星を背に、ルミナール号はゆっくりと減速し、ルミナス号の隣へと滑り込むように宙停し、ルミナール号により自動で連結される。
ルミナール号のブリッジは、今後どうするか話し合いが進んでいた。
そして、沈黙が続く中、ルビィが静かだが、揺るがない声で切り出す。
「ひとつ、はっきりさせます」
全員の視線が集まる。
ルビィはダイヤ、レオ、サイモンを見る。
そして、一呼吸おき話し始める。
「“救援された”三人――あなたたちは、救助された時点で、私の指揮下です」
一瞬、空気が止まる。
ルビィは背筋を伸ばし、まっすぐに前を見据える。
「私は、この船――ルミナール号の船長です」
足元で、白い毛玉がぴたりと動きを止めた。
その宣言に、誰も異を唱えなかった。
ダイヤが静かに問いかける。
「それで……ルビィ船長は、どちらを選ぶ?」
ルビィはわずかに目を伏せる。
短い沈黙のあと、顔を上げた。
「私は、二人のルミナールのクルーの結依とアストラを信頼しています」
結依へ視線を向ける。
「結依は、探索を続けたい」
「私は……リトス銀河に帰りたい。本部の判断を聞く義務がある……でも何より、母サファイアにおばあちゃんを会わせたい」
小さく息を吸う。
「意見は割れました。だから、三人目の意見で決めます」
最後に、ルビィはアストラを見据える。
「アストラ。あなたは、どうするべきだと思いますか?」
アストラは動かない。
だが、その視線だけがわずかに揺れる。
数秒の沈黙。
『私の結論を述べます』
淡々とした声が、空間に落ちる。
『この状況において、最優先すべきは不確定要素の解消です』
五人へ視線を巡らせる。
『五〇年の時間差は、単なる理論問題ではありません』
『社会構造、勢力図、技術倫理――いずれも、未知のまま行動を続けるリスクが高すぎます』
一拍。
『予定していた二つの未探索惑星は、待てます。しかし、私たちの不確定要素の解消の方が急務と判断します』
アストラは、ルビィへ視線を向ける。
『よって、最適解は――』
わずかな間。
『リトス銀河の宇宙ステーションへ帰還することです』
そして、ほんの少しだけ間を空ける。
『……船長の判断と一致しています』
静寂。
やがてルビィが、深く頷く。
その動きには、迷いはなかった。
「決まりですね」
ルビィは正面を見据える。
「ルミナール号、進路をリトス銀河へ。ルミナス号と連携し、帰還準備に入ります」
その声が、確定した未来を告げる。
レオは目を細め、次に待つ現実を思い描く。
サイモンは一度だけ目を閉じ、ゆっくりと開いた。
結依は小さく肩を回し、気持ちを切り替える。
アストラは静かにログを更新する。
ルビィは、まっすぐ前を見続けた。
そして、ダイヤは静かに息を吐き、遠くの星を見つめる。
ブリッジの外、無数の星々がゆっくりと流れていく。
その中で――
「……あ」
小さく、漏れる声。
ダイヤの視界の端に、ひとつの星が入る。
黒い。
光をほとんど反射しない、あの異様な惑星だ。
無意識に、身体がわずかに前へ傾いた。
「……ねぇ」
誰にともなく、呟く。
レオが横目で見る。
「どうした?」
ダイヤは、指を上げる。
「あれ」
全員の視線が、ゆっくりとその方向へ向く。
一拍。
サイモンが、目を細める。
「……おいおい」
口元がわずかに歪む。
「まさかとは思うが……」
ダイヤが、はっきりと言う。
「前に行った黒い惑星」
沈黙が落ちる。
ルビィの表情が、わずかに強張る。
「あの黒い惑星、何かあるんですか?」
サイモンが食い気味に言う。
「……偶然とは思えねぇな!」
レオが静かに言う。
「軌道計算上、再接近はあり得る」
ダイヤは、視線を外さない。
「……行きたい!」
一言。
空気が、わずかに変わる。
ルビィがすぐに返す。
「却下です」
即答だった。
ダイヤは振り返る。
「でもさ――」
「ダメです」
ルビィの声は静かだが、強い。
「先ほど決定した通り、私たちは帰還します」
サイモンが、ふっと息を吐く。
「……いや」
一拍。
「正直、俺もあの惑星は気になってた」
全員の視線がサイモンへ向く。
「戦って終わりじゃなかっただろ」
腕を組む。
「あいつら、敵じゃなかった気がする」
ダイヤが小さく頷く。
「でしょ?」
「中途半端で終わるの、一番気持ち悪い」
「だから、あそこだけはやり切りたい」
レオは黙っていた。
だが、ゆっくりと口を開く。
「あの惑星だけ、完結していない」
一拍。
「中途半端なまま帰るべきではない」
ルビィが視線を向ける。
「レオさんまで……?」
レオは続ける。
「他の惑星は、危険も含めて結果が出ている」
一拍。
「あそこだけは違う」
静かに言い切る。
「……決着がついていない」
ダイヤが、ニヤッと笑う。
「いいね、それ!」
結依が腕を組みながら頷く。
「私は最初から探索続行派だし」
一歩前に出る。
「行くなら全然大賛成!」
ルビィの視線が鋭くなる。
「結依も……」
結依は真っ直ぐ見る。
「伝説の三人が、“未知”を残したままの惑星でしょ?面白そうじゃん」
沈黙。
ルビィはアストラを見る。
「……アストラ」
短く呼ぶ。
アストラは静かに応答する。
『現状の判断は既に提示済みです』
一拍。
『帰還が最適解です』
ルビィが小さく頷く。
「……ええ」
だが。
アストラは続ける。
『ただし』
その一言で、全員の意識が向く。
『行動意思の分布を再評価します』
視線が順に巡る。
『ダイヤ、サイモン、レオ、結依――四名が再探索を希望』
一拍。
『ルビィ船長と私は帰還を優先』
静かな声。
『多数決的観点においては、再探索が優勢です』
ルビィの表情が固まる。
「……それは」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「船長の判断を、多数決で覆すということですか?」
アストラは即答しない。
ほんのわずかな間。
『最終決定権は船長にあります』
一拍。
『ですが、現場意思の無視はリスク要因にもなります』
静寂。
重い空気がブリッジを満たす。
ダイヤが、静かに言う。
「お願い、ルビィ」
一歩、前に出る。
「なんか敵がいてさ、そいつらの一人に発信機をつけてきたよ」
「今なら、追える」
サイモンが続く。
「でもさ」
少しだけ真面目な顔で。
「たぶん、敵じゃなかったろ、あいつら」
レオも言う。
「交渉の余地がある可能性が高い」
結依が笑う。
「えー!なにそれ、やっぱり面白そうじゃん。ルビィ、一つだけで良いから寄ろうよ」
四人の視線が、ルビィに集まる。
ルビィは――目を閉じた。
静かに、息を吸う。
そして、吐く。
ゆっくりと目を開ける。
「……わかりました」
小さく、だが確かに言う。
「その惑星だけですよ」
一拍。
「再探索を許可します」
ダイヤの表情が明るくなる。
「よし!」
サイモンが軽く拳を握る。
「決まりだな!」
レオは短く頷く。
「了解」
結依が笑う。
「面白くなってきた」
ルビィは視線を前に戻す。
その顔には、覚悟があった。
「進路変更」
一拍。
「目標――黒い惑星」
アストラが即座に応答する。
『航路を再計算します』
進路が、わずかに曲がる。
ルミナール号とルミナス号。
二隻は、ゆっくりと向きを変えた。
あの黒い惑星へ向かって。
――再び。
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