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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【閑話①】宝石(星)の系譜/アリエス子育て奮闘記

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✪主役不在の誕生日会



 ――サファイア(六歳)

◆アクア・ワン・アリエス邸

 四月一五日。

 本日の主役は――  

 タウロス・ミラノ・ゴールドバーグ、一六歳。


 アクア・ワン上層区画にあるミラノ家では、盛大な誕生日会が開かれていた。


「おめでとう、タウロス」

 祖父バルゴ・ミラノが、満足げに頷く。

 隣では、祖母リブラ・ミラノも微笑んでいた。

「もう一六歳なんて早いわねぇ」


 タウロスは少し照れたように頭を下げる。

「ありがとうございます、祖父さん、祖母さん」

 その姿は、もはや幼少期の面影が薄い。

 整ったスーツ。

 姿勢。

 落ち着いた口調。

 現在、タウロスは宇宙局士官育成コースへ向け、日夜勉強漬けだった。


 目標は明確。

 ――宇宙局最高司令官。


 そのため、戦術学。宇宙法。政治。外交。艦隊指揮理論。

 一六歳とは思えない知識量を持っている。


 バルゴが満足そうに言う。

「素晴らしい」

「政治理解も深い」

「視野が広い」

「将来が楽しみだ」


 リブラも頷く。

「この前の論文も読んだわよ」

「宇宙移民政策と安全保障の関係」

「本当に一六歳?」


「ありがとうございます」

 タウロスが真面目に答える。


 その横で。

 ――ボンッ!!

 小爆発。


「…………」

 タウロスが静かに目を閉じた。


 リビング隅では、二五歳のオリオンと、六歳のサファイアが、  何かを組み立てていた。


 嫌な予感しかしない。

 アリエス(四二)が即座に振り向く。 「オリオン」


「なに?」


「何してるの?」


 オリオンは真顔だった。

「サファイアの夢を応援してる」


 やはり、嫌な予感しかしない。

 サファイアが元気よく手を上げる。

「わたし、うちゅうひこうしになる!」


 バルゴが優しく笑う。

「おお、立派な夢だ」


 だが。アリエスだけは、少しだけ表情を曇らせた。

 サファイアは昔から身体が弱い。

 熱を出しやすい。

 重力変化にも弱い。

 長時間訓練への適性も低い。

 医療検査でも、宇宙飛行士適性には、不安要素が多かった。


 もちろん、本人にはまだ詳しく言っていない。


 アリエスは静かに言う。

「サファイア」

「無理はしちゃダメよ?」


 サファイアは頬を膨らませた。 「むりしてないもん!」


 アリエスが続ける。

「この前、三分走って倒れたでしょう」


「ころにーのじゅうりょくがわるい!」


「重力のせいにしないの」

 アリエスがため息をつく。


 すると。オリオンが突然立ち上がった。

「完成した」


 タウロスが即座に言う。

「兄さん、今度は何を作ったの?」


 オリオンが誇らしげに指差す。

 そこには、妙な銀色装置。

 背中には小型スラスター。

 腕部には安定翼。

 なぜか頭にアンテナ。

「宇宙飛行士支援用・簡易飛行補助スーツ《サファイアモデル》」


 全員沈黙。


 アリエスが真顔になる。

「……オリオン」

「なに?」

「六歳児を飛ばす気?」


 オリオンが即座に答える。

「安全性は考慮してる」


 アリエスがため息をつく。

「その台詞、毎回聞いてる」


 サファイアの目がキラキラ輝いた。

「すごーい!!」


 タウロスが即座に止める。

「サファイア、ダメ!」


「えー!」


「絶対ダメ」


 しかし。オリオンはすでにスイッチを押していた。


 ――ブォン!!

 スーツ起動。

 サファイアの身体が、ふわっと浮く。

「わぁぁぁ!!」


「オリオンーーーー!!」

 アリエス絶叫。


 サファイアは、リビング上空を低空飛行し始めた。

「おにいちゃん! とんでる!!」


「制御良好」

 オリオンが満足げに頷く。


「良好じゃない!!」

 タウロスが叫んだ。


 そして。

 ――ガゴン!!


 サファイア、天井へ激突。

「いたっ!」


「ほらぁぁぁ!!」

 アリエスが頭を抱える。


 タウロスは即座に状況分析を始めていた。

「推進出力過多」

「姿勢制御甘い」

「兄さん、右スラスター暴走してる」


 オリオンが青ざめる。

「え?」


「え?じゃないよ!!」

 タウロスが叫ぶ。


 次の瞬間。

 ――バシュゥゥゥ!!!

 サファイア、急加速。

「きゃぁぁぁーーー!!」


 リビング横断。

 シャンデリア回避。

 祖父母のテーブル通過。


 ――そして。

 ケーキ直撃。

 生クリーム爆散。


「…………」

 全員沈黙。


 サファイアだけは楽しそうだった。

「もういっかーい!」


「ダメーーー!!!」

 アリエスが叫ぶ。


 数分後。

 なんとか停止成功。


 リビングは半壊。

 誕生日ケーキ崩壊。

 壁に焦げ跡。

 なぜか首チョンパ人形も転がっていた。


 アリエスはソファへ崩れ落ちる。

「……なんで毎回こうなるの……」


 リブラが苦笑する。

「ミラノ家だからじゃない?」


 バルゴも静かに頷いた。

「諦めが肝心だな」


 その横で、サファイアがタウロスへ抱きついた。

「たうろす、おたんじょうびおめでとう!」


「あ、うん……ありがとう」

 本日の主役、ようやく思い出される。


 オリオンが真顔で言った。

「タウロス」

「次は艦隊指揮支援AI作る?」


「兄さんは少し黙ってて」

 タウロスは即答した。


 その空気に、皆が吹き出す。

 笑い声の中。


 アリエスは、少しだけサファイアを見る。

 無邪気な笑顔。

 宇宙へ憧れる目。

 その夢を、どこまで支えてあげられるだろう。

 そんな不安が、ほんの少しだけ胸をよぎる。


 だが次の瞬間。

 サファイアが元気よく言った。 「わたし、おおきくなったら!」 「だれでもかえってこれる、すごいうちゅうせんつくる!」


 オリオンが目を丸くする。

 タウロスも、静かに妹を見る。


 帰ってこれる宇宙船。


 それはきっと。失われた誰かのための夢だった。


 アリエスは優しく笑った。

「……ええ」

「楽しみにしてるわ」


 ――後に。

 サファイア・ミラノ・デズモンドは、宇宙船工学史を塗り替える天才設計者となる。


 そして彼女が作る船は、こう呼ばれることになる。

 ――“必ず帰還する船”と。


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