✪三年ぶりの父親帰宅事件
――サファイア(三歳)
◆アクア・ワン・アリエス邸
――ピンポーン。
朝。
珍しく静かなミラノ家に、来客音が響いた。
リビングでは、アリエスが書類整理。
タウロス(一三歳)はニュース端末を眺めながら朝食中。
そして。二三歳になったオリオン・ミラノは、なぜか床に寝転がりながら、小型ドローンを分解していた。
その横で。三歳のサファイア・ミラノ・デズモンドが、工具箱を漁っている。
「サファ、それ触っちゃダメ」 タウロスが即座に止める。
「むー」
サファイアが頬を膨らませた。
その瞬間。
――バチッ!!
「うわっ!?」
オリオンのドローンが爆発した。
煙が上がる。
サファイア、拍手。 「わぁー!」
タウロスが頭を抱える。
「もう朝から嫌な予感しかしないよ……」
すると。玄関の方から、アリエスの驚いた声が聞こえた。
「……え?」
数秒後。リビングへ、一人の男が入ってくる。
長身。
日に焼けた肌。
作業用ジャケット。
疲れた顔。
だが、その目だけは鋭い。
「久しぶりだな」
レグルス・ゴールドバーグ(四二)だった。
タウロスが椅子から立ち上がる。
「父さん!?」
「おう」
レグルスが少し笑う。
三年ぶりの帰宅だった。
アリエス(三九)が呆れ半分に言う。 「急に帰ってくるとかある?」
レグルスがニヤッと笑う。
「予定より工期が早く終わった」 「コロニー建設班が優秀だったんだよ、コロニー建設の責任者なんてやるもんじゃない!全然、帰ってこれないわ」
「家庭の責任者が三年も帰ってこない現場って、普通に地獄だったんですけど」
アリエスは深いため息をついた。
そのときだった。
サファイアが、じーっとレグルスを見上げる。
「だれ?」
空気が少し止まる。
レグルスは、少しだけ困った顔をしたあと、しゃがみ込んだ。
「……タウロスの父親だ」
サファイアは数秒考え一言いう。
「たいへんそう!」
タウロスが吹き出す。
アリエスも笑いを堪えている。
レグルスは真顔になった。
「まだ三歳だよな?」
「かなり空気読むのよ、この子」 アリエスが遠い目をする。
その横で。オリオンがじっとレグルスを見ていた。
「……レグルスさん」
「久しぶりだな、オリオン」
レグルスの目が少し柔らかくなる。
「背、伸びたな」
「そっちは老けましたね」
「二三歳に言われたくない」
軽口。でもそこには、少しだけ懐かしい空気があった。
レグルスは、レオ・ミラノとサイモン・マクレーンの同級生だった。
若い頃は三人で、散々問題を起こしていたらしい。
そして。オリオンを見るたび、レグルスは時々、レオを思い出す。
特に――面倒事を起こした時。
レグルスが床の焦げ跡を見る。 「……ちなみに、これは?」
オリオンが即答。
「新型浮遊型工具支援ドローン」
「成功したのか?」
「理論上は」
「失敗したんだな」
「うん」
タウロスが静かに補足する。 「兄さんの“理論上は成功”は、九割爆発する時の言葉だよ」
「タウロスは、一三歳で学習しきってるな……」
レグルスは苦笑いした。
するとサファイアが、突然オリオンの鞄をごそごそ漁り始めた。
「あっ」
オリオンの顔が変わる。
次の瞬間。
ぽん。
取り出されたのは――
例の首チョンパ人形。
レグルスが固まる。
「……まだ持ってたのか、それ」
オリオンは少しだけ真顔になった。
「父さんの形見だから」
一瞬だけ、空気が静かになる。
レグルスは小さく笑った。
「レオも士官生の時、首が飛ぶ人形持ってたんだよ」
「え?」
オリオンが驚く。
レグルスは続ける。
「そのとき、首飛ばして教授にぶつけてた」
「最低じゃない?」
アリエスが真顔で言う。
「しかもサイモンが巻き込まれて怒られてた」
「想像できる……」
アリエスが呟く。
オリオンは、少し嬉しそうだった。自分の知らない父の話。それを聞ける人は、もう多くない。
すると。サファイアが人形を掲げた。
「くびー!」
オリオンが焦る。
「待ってサファイア、それ改造して――」
――スポォン!!!!
首が発射された。
高速回転。
一直線。
そして。
――ガシャァァン!!!!
窓際の高級空気清浄機へ直撃。
爆発。
煙。
「…………」
全員沈黙。
レグルスがゆっくり言った。
「……帰る家、間違えたか?」
「毎日こんな感じよ」
アリエスが死んだ目で答える。
オリオンが頭を抱える。
「だから触っちゃダメって言ったのに……」
サファイアは大笑い。
「とんだー!」
オリオンは慌てて煙の中へ突っ込んだ。
「待って、二号機の制御装置が!!」
「また増やしてたの!?」
アリエスが叫ぶ。
レグルスはその光景を見ながら、ふっと笑った。
「……ほんと、レオそっくりだな」
オリオンが振り向く。
レグルスは静かに続けた。
「お前の父ちゃんも」
「面倒で」
「研究となれば、危なっかしくて」
「でも、放っとけない奴だった」
オリオンは少しだけ目を伏せる。そして小さく笑った。
「……それ、褒めてます?」
「半分な」
レグルスは笑った。
その横で、サファイアがレグルスへ抱きついた。
「おじちゃん!」
「まだ、おじちゃんじゃねぇ」
レグルスが苦笑する。
アリエスが笑う。
「三年で結構老けたわよ」
タウロスが静かに言う。
「父さん、頑張って」
「この家、かなり難易度高いから」
ミラノ家の朝は、今日も騒がしい。
爆発音。
怒鳴り声。
子供たちの笑い声。
失われた人たちがいても。 帰ってこない時間があっても。
それでも家庭は、いつも温かい。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
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