✪未成年アンドロイド研究者、逮捕される
――オリオン(一六歳)
◆アクア・ワン・中央警備局前
「……で?」
アリエス・ミラノ(三二)は、こめかみを押さえながら聞いた。
「どうして、中央公共エリアの警備システムが停止したの?」
目の前には、宇宙警備局員。 その後ろでは、何故か天井から清掃ドローンがぶら下がっている。
局員は疲れ切った顔で言った。 「停止だけじゃありません」
「警備AIを書き換えられました」
アリエスの表情が曇る。
「…………」
「さらに、巡回ロボ二十三機が“お掃除パレードモード”へ移行」
「何そのモード」
アリエスが眉をひそめた。
「我々も初めて見ました」
アリエスはゆっくり目を閉じた。 嫌な予感しかしない。
「……オリオンは?」
局員が無言で奥を指差す。
◆中央警備局・保護拘束室
アリエスが拘束室に入るとすぐに、オリオン・ミラノ(一六歳)は真顔で言った。
「理論上は完璧だったんです」
「どこがよ!!」
アリエスのツッコミが即座に飛ぶ。
拘束室の机には、数枚の写真が並んでいた。
一枚目。公共施設へ侵入する銀色アンドロイド。
二枚目。警備ロボ集団が音楽を流しながら行進。
三枚目。噴水から大量の泡。
四枚目。なぜか踊る清掃ドローン。
オリオンは冷静に説明を始める。
「公共施設の警備AIに脆弱性があったから、僕はそれを――」
「侵入して証明したのね?」
「うん」
「それ、犯罪なのよ」
「でも事前に“侵入できます”って論文送ったよ」
「送ったからって侵入していい理由にはならないの!」
その横で、警備局員が静かに補足する。
「しかも、侵入用アンドロイドが非常に高性能でして……」
「でしょうね!!」
アリエスが頭を抱える。
「捕まえるのに四時間かかりました」
アリエスは呆れ顔で言う。
「何作ってるのあなた!?」
オリオンは少し誇らしげだった。
「自律潜入型アンドロイド《ORION−参式》」
アリエスは無言で頭を抱え込む。
すると。
――ガコン。
拘束室の換気口が開いた。
「……は?」
次の瞬間。
『オリオン様、救出に来ました』
小型アンドロイドが天井から降ってきた。
オリオンが叫ぶ。
「自律潜入型アンドロイド《ORION−肆式》遅いぞ!」
局員が絶叫する。
「まだいたのか!?」
アリエスも叫ぶ。
「増えてるじゃない!!」
『脱出ルート確保済みです』
「確保しなくていいのよ!」
アリエスかため息混じりに突っ込む。
さらに。
警備局の照明が突然赤く点滅した。
《警告》 《館内ネットワークへ不正アクセス》
「うそでしょ!?」
アリエスがまた頭を抱え込む。
局員たちが走り回る。
オリオンが小声で言った。
「……あ、バックアップAI起動した」
「停止しなさい今すぐ!!」
アリエスが叫ぶ。
数分後。
なんとか事態は収束した。
拘束室は半壊。
局員たちはぐったり。
そしてアリエスは、 人生で一番深いため息を吐いていた。
◆中央警備局・出口
夜。
外は静かだった。
オリオンは無言で歩く。
アリエスも、何も言わない。
しばらくして、オリオンがぽつりと呟いた。
「……ニュース、見た」
アリエスは黙って聞く。
「“ミラノ家の問題児”って」
「“危険思想の天才少年”とか」 オリオンは苦笑した。
「結構ひどい言われ方してた」
アリエスは静かに返す。
「実際、かなりひどいことしたもの」
「……うん」
オリオンは珍しく、素直だった。
少し間が空く。
オリオンは前を向いたまま言う。
「……なんで、迎えに来たの」
「普通、愛想尽かすよ」
「叔母さんにだって、迷惑ばっかりかけてるし――」
「オリオン」
アリエスが静かに遮った。
「あなた、勘違いしてるわ」
オリオンが顔を上げる。
アリエスは、まっすぐ彼を見る。
「迷惑かけるのなんて、家族なら当たり前でしょう」
オリオンの目が、少し揺れる。
「あなたのお母さんにも、お父さんにも頼まれてるの」
アリエスは少し笑った。
「“オリオンをよろしく”ってね」
風が吹く。
オリオンは俯いた。
「……僕」
「最近、ちょっと怖かったんだ」
声が小さい。
「父さんみたいになりたくて」 「母さんみたいになりたくて」 「でも、二人みたいに凄くなろうとすると」
「どんどん、おかしくなってく気がして」
アリエスは何も急かさない。
ただ隣を歩く。
オリオンは震える声で言った。
「……それでも」
「僕を見捨てないの?」
アリエスは即答した。
「見捨てるわけないでしょう」
優しい声だった。
「私はあなたを、一人にしない」
オリオンの目元が少し赤くなる。
そのとき。
「オリオーーーン!!!」
遠くから全力の声。
タウロス(六歳)が猛ダッシュしてきた。
「たいほされたの!?」
「ニュースでやってた!!」
「母さんが迎えに行ったあと、僕お菓子食べながら見てた!」
空気が一気に壊れる。
アリエスが頭を抱える。
「誰よ見せたの……」
タウロスはキラキラした目で言った。
「オリオン、すごかった!!」
「ロボいっぱいだった!!」
オリオンが思わず吹き出す。
久しぶりだった。 こんな風に笑ったのは。
アリエスが二人を見て、小さく息を吐いた。
「ほら、帰るわよ」
タウロスが元気よく手を上げる。
「はーい!」
そしてオリオンは、少しだけ迷ってから――
「……ありがとう、母さん」
アリエスの足が止まった。
一瞬だけ、目を見開く。
だが次の瞬間、彼女は優しく笑った。
「いいのよ、オリオン」
タウロスが不思議そうに首を傾げる。
「なんで今、“母さん”って?」
「気にしないの」
アリエスが笑う。
夜の宇宙ステーション。三人の背中が、ゆっくりと家へ帰っていく。
――後に。オリオン・ミラノは、宇宙史に名を残す天才アンドロイド研究者となる。
そして同時に。
「一六歳で公共施設へ自作アンドロイドを侵入させ逮捕された伝説の科学者」
としても、長く語り継がれることになるのだった。
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