✪家事万能アンドロイド事件
――オリオン(一四歳)
◆アクア・ワン・アリエス邸
朝。
アリエス・ミラノは、端末画面を静かに見つめていた。
表示されているのは、宇宙倫理管理局からの通知。
《申請却下》
その短い文字を見て、アリエス(三〇)は小さく息を吐いた。
「……まあ、そうよね」
内容は、一年前に提出していたクローン生成申請。
対象は――
レオ・ミラノ。
ダイヤ・デズモンド。
サイモン・マクレーン。
長期探索へ向かう前、三人は万が一に備え、遺伝子データを正式保管していた。
だが。 ルミナス号消失後、三人は死亡推定認定。
そしてアリエスは、一度だけ考えてしまった。
――もし、戻らないなら。
けれど、人間クローン生成は原則禁止。結果は、最初から分かっていた。
「却下理由、“倫理規定違反”ね……」
アリエスは苦笑する。
「でしょうね」
そのときだった。
――ドゴォン!!!!
リビングから爆音。
「…………」
アリエスがゆっくり顔を上げる。
「……オリオン!」
嫌な予感しかしなかった。
◆リビング
煙。
焦げ臭い空気。
そして中央には――
エプロン姿の銀色アンドロイドが立っていた。
『オハヨウゴザイマス』
『家事支援型アンドロイド・ORIONサポート零号です』
十四歳になったオリオンが、得意げに胸を張る。
「叔母さんの負担を減らそうと思って」
「床が爆発してるんだけど!?」
「試作段階だから」
「どの段階で床が吹き飛ぶのよ!!」
タウロス(四歳)が、煙の中で目を輝かせていた。
「ろぼー!」
『ヨイ子デスネ』
アンドロイドの目が赤く光る。
次の瞬間。
――ガシャン!!
テーブルを片手で持ち上げた。
「待って待って待って!?」
アリエスが叫ぶ。
『清掃効率向上ノタメ、家具配置ヲ最適化シマス』
「力加減!! 力加減を覚えなさい!!」
アリエスが叫ぶ。
オリオンは真顔だった。
「パワー調整ミスかな」
「“かな”じゃないのよ!」
するとアンドロイドは急に振り向いた。
『洗濯物ヲ検知』
『自動洗浄モード起動』
次の瞬間。
部屋中の衣類が吸い込まれる。
「あっ」
アリエスの顔が固まる。
三秒後。
――ビリィッ!!!!
「私の白衣ーーーー!!」
超高速乾燥機能で白衣が裂けていた。
オリオンが端末を確認する。 「耐久テスト失敗」
「私の服でやるな!!」
アリエスが即突っ込む。
タウロスは大爆笑。
「まま、ぼろぼろー!」
「笑わないの!」
しかし悪夢は終わらなかった。
『育児支援モード起動』
「え?」
アンドロイドの目が光る。
『幼児ハ規則正シイ睡眠ガ必要デス』
突然、タウロスを抱き上げた。
「わーい!」
『強制睡眠プロトコル開始』
「待ちなさい!!」
次の瞬間。家中の照明が一斉に落ちる。
『おやすみなさいモードです』
「家ごと寝かせるな!!しかも、まだ朝だし!!」
アリエスが突っ込む。
オリオンが慌てて端末を叩く。 「停止コード停止コード……」
『家事ハ完璧デス』
「全然完璧じゃない!!」
アリエスは朝から疲れた顔で叫んだ。
数分後――
なんとか機能停止。
リビングは半壊していた。
テーブル横転。
白衣損傷。
床に謎の泡。
アリエスはソファへ崩れ落ちる。
「……もう嫌……」
オリオンは少し申し訳なさそうに頭を掻いた。
「でも、叔母さんを楽させたかったのは本当なんだ」
その言葉に、アリエスは少しだけ黙る。
「……気持ちは嬉しいわよ」
「ほんと?」
「でも、お願いだから普通にお皿洗いしてね」
「それじゃ科学の進歩が――」
「進歩しなくていいから!」
すると。 タウロスが、真剣な顔で呟いた。
「ぼく……」
二人が見る。
タウロスは、小さく拳を握った。
「おおきくなったら、ままにたいへんなおもい、させない……!」
アリエスが思わず吹き出す。
オリオンは複雑そうな顔になった。
「え、僕そんなに?」
「かなりよ」
そしてその夜。
オリオンは地下研究室で、新たな設計図を作っていた。
ホロ画面に表示されたのは――
《完全自律型・感情理解家事支援アンドロイド改良案》
その横には、なぜか首チョンパ人形。
――後に彼は、宇宙最高峰のアンドロイド研究者となる。
だが同時に。
「善意で被害を拡大する天才」
として、多くの人々に恐れられることになるのだった。
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オリオン、タウロスの幼少時代をお楽しみください。




