✪暴走する首チョンパ人形
――オリオン(一三)
◆テセウス第三宇宙ステーション・ミラノ家本宅
通称=テセウス・スリー。
政財界の重鎮たちも暮らす巨大宇宙ステーション。その上層区画に、ミラノ家本宅は存在していた。
本日、ミラノ家では小規模な祝賀会が開かれている。
主役は―― オリオンの祖父である政治家のバルゴ・ミラノ。
宇宙議会における長年の功績が表彰されたのだ。
「おじいちゃん、おめでとう!」
三歳になったタウロスが、満面の笑みで抱きつく。
バルゴは目尻を下げた。
「はっはっは! ありがとう、タウロス!」
政治家としては厳格で知られる男だが、孫にはとことん甘い。
その隣では、妻のリブラ・ミラノが穏やかに微笑んでいた。
「アリエス、少し痩せたんじゃない?」
「ちゃんと寝てる?」
「寝れてないわね……」
アリエス(二九)が遠い目をする。
その視線の先。
オリオンが、会場隅の高性能給仕ロボを真顔で観察していた。
「……叔母さん」
「この機体、旧世代AIベースだよね?」
「お願いだから今日は分解しないで」
「まだ何もしてない」
「“まだ”って言ったわね、今!」
リブラが小さく笑う。
「レオそっくりね」
その言葉に、一瞬だけオリオンの動きが止まった。
だが、すぐにいつもの顔へ戻る。
「父さんなら、もう分解終わってると思う」
「そこ張り合わなくていいのよ」
アリエスが頭を押さえる。
そのときだった。
タウロスが、オリオンの鞄をごそごそ漁り始めた。
「あっ」
オリオンが止める前に――
ぽん。
例の首チョンパ人形が取り出される。
タウロスの目が輝く。
「くびー!」
「待ってタウロス、それ改造中――」
――スポン!!!
勢いよく首が発射された。
真上へ。
高速回転。
そして。
祝賀会用シャンデリアへ直撃。
――ガシャン!!!!
「…………」
会場が静まり返る。
高級ガラス片が、キラキラと降り注いだ。
政治家たちが固まる。
給仕ロボ停止。
沈黙。
そして。
バルゴがゆっくり振り向く。
「……オリオン」
「はい」
「説明してくれるかな」
オリオンは真顔で答えた。
「新型推進機能付き首チョンパシステムです」
「聞きたいのはそこじゃない」
アリエスが即座にツッコむ。
タウロスは床を叩いて大爆笑。
「もういっかーい!」
「ダメ!!」
アリエスが即突っ込む。
その横で、リブラが落ちた首を拾い上げ、しげしげと観察していた。
「……これ、妙に精巧ね」
オリオンの目が少し輝く。
「磁気加速式」
「十三歳で何作ってるの?」
「父さんの設計メモ、少し参考にした」
オリオンが満面の笑みで答えた。
その言葉に、アリエスとリブラが一瞬だけ黙る。
“レオの名前”
今でも、この家では少し空気が変わる。
だが次の瞬間。
バルゴが深々とため息をついた。
「……アリエス」
「はい」
「この子、本当に大丈夫か?」
アリエスも遠い目になる。
「最近、私もそれ考えてます」
オリオンは反省した感じもなく言う。
「叔母さん失礼じゃない?」
「シャンデリア壊した子に言われたくない」
するとタウロスが、また首チョンパ人形を持ち上げた。
「くび、とばす!」
「返せよ!!」
オリオンが慌てて追いかける。
三歳児、逃走。
十三歳児、追跡。
その後ろをアリエスが全力疾走。
「二人とも待ちなさい!!」
祝賀会場を走り回る三人。
バルゴはその光景を見ながら、 静かに笑った。
「……賑やかになったな」
リブラも優しく目を細める。
「ええ」
「レオがいた頃みたいね」
一瞬だけ、 部屋の空気が柔らかくなる。
そして。
――バゴォン!!!
再び何かが爆発した。
アリエスの絶叫が響く。
「オリオンーーーー!!!」
後に彼は、宇宙最高峰のアンドロイド研究者となる。
そして同時に。
ミラノ家歴代でも屈指の問題児として、親族会議で語り継がれることになるのだった。




