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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【最終章】宝石(星)の系譜/五〇年後の約束

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☆Back to Our Future

◆ルミナール号・船内

 発進の振動が船体を伝う。

 エンジンの低い唸りが、床から足へと響く。


 ブリッジ窓の向こう。コロニーの光が、ゆっくりと遠ざかっていく。

 誰も、まだ言葉を出さない。


 レオは操縦席の後ろに立ったまま、腕を組んでいる。

 視線は外――離れていく光を追っている。


 ダイヤはフェザーを抱いたまま、静かに座っている。


 ルビィは端末を開いているが、視線はほとんど画面に向いていない。


 サイモンが小さく息を吐く。

 空気を変えるように、あえて軽く口を開いた。

「……静かだな」


 結依が窓の外を見つめたまま、ぽつりと落とす。

「さっきまであんなに騒がしかったのに」


 笑いは起きない。

 全員が、同じものを胸に抱えている。


 ――アクアを、置いてきた。


 サイモンがわざとらしく肩を揺らし、声の調子を少し上げる。

「まぁ、タイムマシーンなら五〇年なんてあっという間だ」


 ルビィも結依も、答えない。


 ダイヤがフェザーの頭を指先で軽くつつく。視線は落としたまま。

「なぁフェザー」


 フェザーが小さく鳴く。

 「きゅ」


 ダイヤの口元に、ほんのわずか笑みが浮かぶ。

「五〇年後の未来で、落ち着いたらさ。ジュラシックアースにも遊びに行こうね」

「ガストが大統領になってるかもよ?」

 空気が、ほんの少しだけ緩む。


 そのとき――

 ブリッジに、無機質な声が響く。

『タイムジャンプの準備完了です』

 ホログラムが展開される。

 光の文字が浮かび上がる。

《時空転移シーケンス》

《目的座標》

《L.C.四七八年一二月七日一三時》


 サイモンがその表示を見つめ、息を漏らす。

「本当に未来にいくんだな」


 レオが短く返す。

 視線はまだ外のまま。

「ああ」

 迷いのない声。


 アストラが続ける。

『注意事項です』

『時間跳躍時、船体に強い衝撃が発生します』

『全員、衝撃固定を推奨します』


 サイモンが口の端を上げる。

「どれくらいの衝撃だ?」


 ダイヤが何も言わず、ベルトを引き寄せる。

 カチリと音が鳴る。


 結依も座席に身を預け、固定する。


 ルビィがゆっくり息を吸い、吐く。


 レオだけが、まだ立っている。

 その視線は後方――

 過去の空に、わずかに残る光へ。

 そして、静かに口を開く。

「……行くぞ」

 レオが席に座り、ベルトを締める。


 アストラの声が重なる。

『カウント開始します』

『5』

 船体の光が脈打つ。


『4』


 フェザーが羽を震わせる。


『3』

 ダイヤが腕を伸ばし、フェザーを押さえる。

「暴れないで」


『2』


 ルビィが目を閉じる。


『1』


 レオの唇がわずかに動く。

「アクア……」


『0』


 世界が――歪んだ。

 轟音。


 そして、数秒後――衝撃。

 船体が上下左右に引き裂かれるように揺れる。


 結依がシートを握り込む。

 歯を食いしばる。

「うわっ!」


 サイモンが声を張り上げる。

「うおおおおお!!」


 警告灯が赤く点滅する。

 窓の外。

 時空の光が流れる。


 白。

 黒。

 また白。


 船体がきしむ。

 重力が乱れる。


 サイモンが歯を食いしばる。

 額に汗が滲む。

「これ……想像以上だな!!」


 アストラの声は変わらない。

『正常範囲内です』


 さらに衝撃。

 全員の体がシートへ叩きつけられる。


 そして――

 突然。

 すべてが、止まった。


 静寂。


 警告灯が、ゆっくりと消えていく。

 エンジン音も落ち着く。


 窓の外。

 そこにあるのは――深い宇宙。

 星の配置が、わずかに違う。

 誰も動かない。


 サイモンが最初に口を開く。

 呼吸を整えながら。

「……生きてるか?」


 結依が背もたれに体を預ける。

「なんとか」


 ダイヤが腕の中を覗き込む。

 フェザーはぐったりしている。

「おい」

「死ぬな」


 フェザーがかすかに鳴く。

「きゅ……」


 ルビィがゆっくりと窓へ視線を向ける。

「……本当に」

 声は静かだった。

「五〇年後に帰ってきたの?」


 レオがゆっくり立ち上がる。

 窓の前へ。

 遠くに見える光。

 巨大な人工構造物。

 広がる宇宙。

 低く、静かな声。

「ここが――五〇年後の未来か」


 誰もすぐには答えない。

 だが、その沈黙はもう違う。


 悲しみではない。

 未知へ踏み込む、静かな高揚。


 ルビィが端末を開く。

 口元に、わずかな笑み。

「さて」

「歴史の亡霊たちが帰ってきたわ」


 サイモンが、体のこわばりを解くように肩をまわす。

「五〇年ぶりの社会復帰か」


 結依がほっとした表情を見せる。

「帰ってこれたんだよね?」


 ダイヤがフェザーを持ち上げる。

「とりあえず、この時代にも美味しいご飯あるといいね」


 サイモンが笑い混じりに返す。

「緊張すると、腹減るよな」


 その一言で、全員がわずかに笑った。


 レオがブリッジを歩く。

 視線は前方。声は落ち着いている。

「七八」


アストラが答える。

『はい、なんでしょう?』


 レオが宇宙の光を見ながら続ける。

「現在の日時と座標を確認しろ」


『確認中』

 数秒の沈黙。

『日時と座標特定完了』

『全て予定通りです』

 アストラが淡々と答えた。


 レオが短く息を吐く。

「よし!」


 ルビィが深く息を吸う。

 五〇年後の世界へ――帰ってきた。

 レオは窓の前に立ったまま。

 宇宙を見つめる。

 静かだ。

 だが――どこか違う。


 ダイヤがゆっくりと近づく。

「……ねぇ、宇宙って――こんなに明るかった?」


 サイモンも外を見る。

 遠くの星の間に、細い光の線。

 幾重にも走る。

「交通整理でもしてんのか?」


 そのとき。

 レオの視線が止まる。

 遠くの宇宙に、巨大な光の輪。

 目を細める。

「……おい」

「なんだあれ」


 それはコロニーではない。

 円環構造。

 だが、規模が違う。

 サイモンが思わず笑う。

「いやいや」

「デカすぎるだろ」


 ダイヤが息を呑む。

「コロニーの何倍ある?」


 レオが静かに答える。

「何倍どころじゃない」


 その会話を背後で聞いていたルビィが、落ち着いた声で口を開く。

「リング都市です」


 ダイヤが振り向く。

「……都市?」


 ルビィは端末を操作しながら続ける。

「直径およそ三万キロ」


 サイモンが固まる。

「待て、それ惑星サイズだろ」


 結依が窓の外を見つめたまま言う。

「五〇年前はまだ建設前だったんです、ルミナス号の出航後、間もなく建設が開始されたはずです」


 ダイヤの目が大きく開く。

「これ、五〇年で作ったの?」


 ルビィが頷く。

「ええ、今はもう稼働してる」


 アストラが補足する。

『遠くの恒星の周囲に――同様のリング構造体が複数建設中です』

『現在視認されているのは第一号』

『人口はすでに三〇億に到達しています』


 サイモンが息を漏らす。

「……マジか」


 ダイヤが頭に手を当てる。

「私たちがいた頃」

「宇宙コロニーでやっとだったよね?」


 レオが腕を組む。

 視線は宇宙のまま。

「五〇年か」


 ルビィが少し笑う。

「五〇年あれば」

「人類は結構やるんですよ」


 結依が続ける。

「ここが、あなたたち三人が暮らす新しい時代です」


 ダイヤがフェザーを持ち上げる。

「聞いたかフェザー」

「私たち、完全に田舎者だぞ」

 フェザーが鳴く。

 「きゅっ」


 サイモンが窓の外を見ながら言う。

「宇宙が都会になってる」


 レオも同じ方向を見たまま、静かに言葉を落とす。

「……いいじゃないか」

 一拍。


「追いつけばいいさ」


 そのとき。

 ルビィが振り向き、全員に声をかける。

「これより、アクア・ワンへ帰還許可申請――」

 わずかに息を整え、続ける。

「通信を開始します」

 その一言で。

 船内の空気が、静かに引き締まった。


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