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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【最終章】宝石(星)の系譜/五〇年後の約束

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☆ルミナス号とアクアの夢

◆中央コロニー・外縁管制ブース

 ダイヤがデータ端末を差し出した。視線は真っ直ぐで、動きに一切の無駄がない。

「アリエス。これ、ルミナス号を宙停させた座標」


 アリエスは端末を受け取り、表示されたデータへ視線を落とす。

「……へぇ」

 わずかに眉を上げた。

「これ、座標情報そのものを暗号化してるの?」


 そう言って、指先が高速で端末を走る。

 空中モニターへ次々と数式と座標列が展開されていく。


 ――約二分後。

 アリエスが小さく息を吐いた。

「解析完了」

 モニターに、航路と宙停ポイントが立体表示される。


 それを見たダイヤが、くすっと笑う。

「相変わらず早いね」

「やっぱりアリエスは有能だ」


 アリエスは口元をわずかに緩める。だが視線はモニターから外さない。

「褒めても何も出ないわよ」

 そう言ってから、ゆっくり首を横に振った。

「……でも、ルミナス号は今すぐ動かさない方がいいわね」


 結依がモニターへ視線を滑らせる。

「C-四七。航路外、重力干渉なし、悪くない隠れ場所ですね」


 サイモンが腕を組み、低く問いを投げる。

「ルミナス号の回収は誰が?」


 アリエスの視線が一瞬だけ鋭くなる。

「私側の者に回収してもらいます」

 そのまま言葉を重ねる。

「でも、カストルの件が完全に収束してからね」


 ダイヤはわずかな笑みが浮かべる。

「私たちは予定通り、未来へ行く。ルミナス号をよろしくお願いします」


 アリエスが頷く。

「後始末は、私が責任を持ちますね」

「だから、心配しないでね。そして、あなたたちはルミナール号で未来へ」


 ダイヤが笑顔で説明する。

「ルミナス号は長期宙停モード」

「自動防衛も起動してある」

「簡単には触れられないよ」


 サイモンが顎に手を当てる。

「落とせる者がいるとすれば?」

 一瞬の静寂。


 ダイヤの口元がわずかに歪む。

「……五〇年後のアンドロイドくらいかな」


 結依が思わず吹き出す。

「味方が一番怖いってやつですね」


 アリエスがかすかに笑う。

「だから座標は三重暗号化」

「しかも分割管理」

 そのまま、静かに言葉を置く。

「回収班は信頼できる」

「一年以内にすべて終わらせる」


 ダイヤが目を細める。

「一年以内に、ね」

 ほんの少し間を置く。


「ルミナス号は私が初めて船長をした船です、とても思い入れがあります」

 二人の視線が交差する。

 揺るがない意思。

「五〇年後の未来で、またルミナス号にまた会わせてね」


 アリエスの答えは迷いがなかった。

「必ず」

「カストルの事件も」

「残党も」

「ルミナス号も」

「全部、終わらせる」


 この言葉の後、誰もすぐには動かなかった。五〇年という時間が、静かにその場へ沈む。


 ダイヤが、ふとアリエスへ視線を向けた。

「……ライラ・オルセンってさ」

「どんな子だったの?」

 部屋の空気が、少し静かになる。


 アリエスは手元の端末を閉じ、ゆっくり椅子にもたれた。

「ライラ?」

 小さく笑う。

「一言で言えば――天才ね」


 結依が思わず顔を上げる。


 アリエスは続けた。

「私とライラは同い年。五歳くらいの頃には、もう学校で目立ってたわ」

「勉強ができるとか、そういうレベルじゃないの」


 少し懐かしそうに目を細める。

「人が思いつかない発想を、当たり前みたいに出してくるのよ」

「周りの大人が、“なんでそんな考え方になるの?”って本気で困るくらい」


 そして、ダイヤを見る。

「……正直、あなたに似てるわ」


 ダイヤが苦笑する。

「それ、褒めてる?」


「褒めてるわよ」

 アリエスは即答した。

「柔軟すぎる発想力とか、直感で答えに辿り着くところとか、本当にそっくり」


 サイモンが腕を組む。

「へぇ……ダイヤ級の天才か」


 アリエスは小さく頷いた。

「私とライラ、昔から仲良かったの。よく家に遊びに来てたわ」

 少しだけ笑う。

「その頃から、レオとも一緒に遊んでた」


 結依が驚く。

「え? じゃあ、レオさんとアクアさんって、その頃から知り合いだったんですか?」


 アリエスは首を横に振る。

「ううん。レオとアクアが出会ったのは、もっと後」

「たしか、私たちが一〇歳くらいの頃だったかな」


 ダイヤが軽く目を細める。

「じゃあ、ライラもレオの“幼なじみ”だったんだ」


「そうなるわね」

 アリエスは静かに頷いた。

 そして、その表情が少しだけ曇る。

「でも……突然だったのよ」


 サイモンと結依が黙る。


「ウイルス性の心臓病」

「発症してから、本当にあっという間だった」

 部屋が静かになる。


 アリエスは遠い記憶を見るように続けた。

「レオとサイモンが出会ったの、一八歳の頃でしょう?」

「だから……サイモンが私たちと会う、一年前には、もうライラはいなかったの」


 サイモンがゆっくり息を吐く。

「……そうだったのか」

 少し沈黙が落ちる。


 そのあと、アリエスはふっと小さく笑った。

「でもね」

「アクアには、昔から夢があったのよ」


 ダイヤが視線を向ける。

「自分が作った船を――ライラに任せること」


 結依が目を見開いた。


 アリエスは続ける。

「“いつか、ライラが私の船の船長になる”って、よく言ってたわ」

「嬉しそうにね」

 そして、静かにダイヤを見る。

「だから、たぶん……」

「アクアが、あなたをルミナス号の船長に推薦したのは」

 一拍。


「ライラを重ねてたからよ」


 ダイヤが、少しだけ目を伏せた。


 アリエスは優しく笑う。

「発想力も、空気を変えるところも、無茶するところも」


 サイモンが吹き出す。

「最後のは、褒めてないだろ」


 アリエスも笑った。

「ふふっ、どうかしらね」


 ――そのとき。

 遠くで、ルミナール号の出航灯が明滅する。

 結依がそちらへ視線を向ける。

「転移エネルギー、充填完了みたいですよ」


 ダイヤが息を整える。

「よし……そろそろだね」

 そしてアリエスを見る。

「ゴメンね、後始末お願いして」


 アリエスが顔を上げる。

 その瞳に迷いはない。

「任せなさい」


 未来へ向かう者と、

 この時代を片づける者。

 それぞれの役割が、静かに分かれていく。



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