★簡易発信機と沈黙の監視者
◆ルミナス号船内
ダイヤがふと顔を上げる。
「……ねぇ」
二人の視線が向く。
「簡易的に発信機でも作ってさ」
少しだけ楽しそうに続ける。
「あの黒いのに、つけちゃう?」
一瞬、沈黙。
レオがわずかに眉をしかめる。
「……戦闘を仕掛けて、つけるのか?」
ダイヤはあっさり頷く。
「そう」
サイモンが苦笑する。
「さらっと言うなぁ」
ダイヤは真面目な顔に戻る。
「まずは交渉してみる」
一拍。
「それでダメなら……戦闘になるでしょ」
レオは何も言わず、じっとダイヤを見る。
ダイヤは続ける。
「そのときに、発信機つける」
サイモンが腕を組む。
「つまり……最初から保険かけとくってわけか」
ダイヤが笑いながら言う。
「だって、絶対一回でうまくいかないでしょ、これ」
レオが小さく息を吐く。
「……合理的ではあるな」
一瞬だけ間を置いて、
「だが、接近する時点でリスクは高い」
ダイヤは笑う。
「今さらでしょ?」
その一言に、サイモンが吹き出す。
「確かにな」
◆ルミナス号の作業スペース
散らばった工具の中で、ダイヤが小さな基板を手に取りながら言った。
「……発信機、作ろうか」
サイモンが顔を上げる。
「発信機?レーダーはどうすんだよ」
ダイヤは迷いなく答える。
「レーダーは無理。部品が足りない」
一拍。
「でも、発信機ならいける。位置を出して、それを受信するアンテナ作って――ホログラムに飛ばす」
サイモンが苦い顔をする。
「……言ってることは分かるけどよ、それ簡単に言う内容じゃねぇぞ」
ダイヤは手を動かしながら続ける。
「構造は単純だよ。出力弱めにして、位置だけ拾えればいいし」
少し顔を上げる。
「私は発信機やるから、転送の調整、レオお願いできる?」
レオはコンソールに視線を落とす。
「できるとは思う」
一呼吸置いてから、
「ただし、その構成だとホログラムに出る位置に時差と誤差が出る」
ダイヤは軽く笑う。
「簡易だし、そこは割り切るよ」
サイモンがぼやく。
「ほんと、現場判断が雑だな」
ダイヤが即座に返す。
「柔軟って言って」
――四〇分後。
ダイヤの手の中で、小さな発信機が微かに光る。
「完成した」
サイモンが覗き込む。
「早ぇな……」
レオはホログラムを立ち上げる。
「受信アンテナ、接続完了。データも拾えてる」
ダイヤが発信機を軽く持ち上げる。
「じゃ、テストいくよ」
ダイヤは船内を歩き回る。
数秒後、ホログラム上に一点の光が浮かび、少し遅れて移動する。
サイモンが頷く。
「……ちゃんと出てるな」
レオが補足する。
「位置は多少ずれるが、追跡には使える」
ダイヤが満足そうに言う。
「うん、十分」
一拍。
「じゃあ――交渉、いってみようか」
ハッチが開く。
三人は外へ出た。
灰色の空気。
静まり返った廃墟。
サイモンが周囲を見回す。
「……来ないな」
ダイヤも視線を巡らせる。
「いつもなら、どこかにいるのにね」
レオが低く言う。
「監視はされているはずだ。だが ――接近してこない」
ダイヤが一歩前に出る。
「おーい!」
声が広がる。
「話したいんだけど!」
反応はない。
サイモンが小声で言う。
「……ガン無視か?」
ダイヤがもう一度呼びかける。
「敵じゃないよー!」
静寂。
風が廃墟の隙間を抜ける音だけが響く。
レオが周囲を警戒しながら言う。
「出てこない理由がある」
ダイヤが振り返る。
「理由?」
「こちらを“必要と判断していない”か――」
一拍。
「あるいは、近づく理由が無いか……」
サイモンが顔をしかめる。
「感じ悪ぃな、おい」
ダイヤは少し考え込む。
「……じゃあ」
二人を見る。
「どうやったら、近づいてくるかな?」




