★黒の正体と歪んだ進化
◆ルミナス号船内
ルミナス号へ戻った三人は、まず無言で周囲を確認した。
外装、ハッチ、足場――
異常はない。
……はずだった。
サイモンが低く言う。
「……いや、待て」
ダイヤが振り向く。
「なに?」
サイモンはハッチの縁を指でなぞった。
「これ、擦れてる。俺たちが出たときには無かった傷だ」
レオも近づく。
「……誰か入ったな」
一瞬、空気が張り詰める。
ダイヤがすぐに中へ入る。
「急ごう」
三人は慎重に船内へ戻った。
――結果。
何もない。
機器も、データも、物資も、すべて無事。
サイモンが船の周囲を確認しつつ言う。
「……何しに来たんだよ」
レオは短く答える。
「偵察だろうな」
ダイヤが小さく呟く。
「“確認”かもしれないね……私たちを」
沈黙。
そして、ダイヤが手を叩く。 「よし、調べよっか」
切り替えが早い。
サイモンが苦笑する。
「だな。せっかく拾ってきたんだしな」
レオは小さく息を吐いた。
「……順番にやるぞ」
まずは、骨。
ダイヤが簡易解析装置にセットする。
青白い光が骨をスキャンしていく。
ダイヤは画面を睨みながら呟く。
「……これ、普通じゃないね」
サイモンが覗き込む。
「人間じゃないのか?」
ダイヤは首を振る。
「ううん、構造は違う。どっちかっていうと……」
一瞬考え、言う。
「爬虫類に近い」
レオが眉をひそめる。
「だが、完全一致じゃないな」
「そう。そこなんだよね」
ダイヤが画面を指差す。
「骨密度が異常に高いし、関節の作りも不自然。自然進化じゃこうはならない」
サイモンがぼそっと言う。
「……改造?」
ダイヤはゆっくり頷く。
「うん。遺伝子操作されてる可能性が高い」
一拍。
そして、少しだけ声を落とす。
「……あくまで仮説だけど」
レオとサイモンが視線を向ける。
ダイヤが言った。
「あの黒いやつの“中身”かもしれない」
沈黙。
サイモンが顔をしかめる。
「マジかよ……」
レオは静かに言う。
「……だとすると、“装備”じゃないな」
「うん」
ダイヤが頷く。
「“一体化してる”」
次はヘルメット。
サイモンが工具を広げながら座り込む。
「さて……こっちは俺の担当だな」
外装の割れ目から内部を覗き込む。
数分後。
「……ダメだな」
ダイヤが振り返る。
「早くない?」
サイモンは苦笑する。
「いや、構造は見える。でも理解が追いつかん」
レオが腕を組む。
「そんなに違うのか」
「ああ。根本から違う」
サイモンは部品を軽く叩く。
「リトス銀河の技術は、エネルギー制御が中心だろ?でもこいつは……」
言葉を探す。
「……もっと“生体寄り”だ」
ダイヤが興味深そうに身を乗り出す。
「生きてる感じ?」
「そこまでじゃないが、機械とも言い切れない」
サイモンは頭をかく。
「電源も死んでるし、修理するにしても時間かかるな。部品も足りねぇし」
レオが短く言う。
「解析優先だ。無理はするな」
「はいはい」
そして、問題の――虫。
テーブルの上に置かれた小さな死骸。
ダイヤとサイモンは、明らかに距離を取っている。
「……やだ」
「俺もやだ」
即答だった。
レオが無言で見る。
二人が同時に指差す。
「「お願い」」
レオは深くため息をついた。
「……あとで文句言うなよ」
手袋をはめ、虫を持ち上げる。
外殻を軽く叩く。
――カンッ
乾いた音。
「……硬いな」
ダイヤが顔をしかめる。
「だから触りたくないんだって」
レオは無視して、ナイフで表面をわずかに削る。
内部が露出する。
一瞬、三人とも黙る。
レオが低く言った。
「……なるほどな」
サイモンが身を乗り出す。
「なんだ?」
レオは虫を裏返す。
そこには――
微細な金属構造。
配線のようなもの。
だが同時に、筋肉組織のようなものも見える。
ダイヤが小さく呟く。
「……うそでしょ」
レオが結論を出す。
「この虫……ロボットか?」
一拍。
すぐに訂正する。
「いや、違うな」
サイモンが眉をひそめる。 「どっちだよ」
レオは静かに言う。
「正確には――サイボーグだ」
沈黙。
ダイヤの声が少し震える。
「……虫を?」
「元が虫なのは間違いない」
レオは淡々と続ける。
「だが、能力を底上げするために改造されている。装甲、筋力、恐らく感覚器官も強化されているな」
サイモンが呟く。
「……誰がそんなことを」
ダイヤがぽつりと続ける。
「この星……全部それかもね」
外を見る。
遠く、黒い影が一つ。
じっと、こちらを見ている。
レオが低く言った。
「……監視されてるな」
サイモンが肩を回す。
「歓迎はされてねぇな」
ダイヤはその影を見つめたまま、静かに言った。
「でもさ――」
一拍。
「めちゃくちゃ面白いね、この星」
レオが呆れたように息を吐く。 「……その感想は変わらないのか」
サイモンが笑う。
「船長だしな」
外では、黒い影が微動だにせず、そこに“いる”。
まるで――
次の行動を、待っているかのように。
ルミナス号の簡易ラボ。
回収してきた虫の残骸と、ヒビの入った黒いヘルメットが無機質な光の下に並んでいる。
ダイヤが腕を組んだまま、モニターを睨んでいた。
「……夜に出てきたのは、虫と動物だけ」
サイモンが椅子にもたれながら言う。
「しかも全部サイボーグ。あの数だぞ?」
レオは静かに頷く。
「人型はいなかったな」
一瞬の沈黙。
ダイヤがぽつりと続ける。
「交渉するなら……昼間の“黒いやつ”だよね」
サイモンが顔をしかめる。
「でもよ、あいつら……喋んなかったぞ?」
レオが淡々と返す。
「呼びかけには無反応だったな。少なくとも言語的な意思疎通は確認できていない」
サイモンが少し身を乗り出す。
「じゃあさ、逆にあいつらを尾けるのはどうだ?アジトとか、拠点に戻るだろ」
ダイヤが視線を上げる。
「……後を尾けるってこと?」
サイモンが頷く。
「そう。向こうがどっから来てるか分かれば――」
その言葉を、レオが途中で切る。
「無理だな」
即答だった。
サイモンが眉をひそめる。
「即答かよ」
レオは視線をモニターから外さない。
「この地形、俺たちはまだ把握しきれていない。遮蔽物も多いし、高低差もある」
一拍置いて、続ける。
「それに、あいつらは単独行動じゃない可能性が高い。監視は交代制……あるいは複数で網を張ってる」
ダイヤが小さく頷く。
「……うん、あの動き、そんな感じだった」
レオが淡々と結論を出す。
「“撒く”ことはできる。だが、“尾ける”のは別だ」
サイモンが腕を組む。
「戦闘した感じ、ってやつか」
「ああ」
レオは短く答える。
「感知能力が高い。視覚だけじゃない。気配、振動……何か別のセンサーも使ってる」
ダイヤが息を吐く。
「じゃあ、追跡はナシか……」
しばらく誰も喋らない。
その静けさを破るように、ダイヤがぽつりと言う。
「でもさ」
二人が視線を向ける。
「夜のあれ……虫」
モニターに映る分解データを指差す。
「全部、サイボーグだったよね」
サイモンが苦い顔で笑う。
「見たくねぇ現実だな」
ダイヤは続ける。
「数……異常だった」
一拍。
「自然にサイボーグがあんな数になるわけない」
レオが静かに言う。
「……意図的に増やされている」
ダイヤが頷く。
「うん」
ゆっくりと、言葉を選ぶように。
「これ、どこかで“作ってる”よね」
サイモンが顔を上げる。
「……生産ライン、か」
ダイヤ即答する。
「じゃなきゃ説明つかない」
レオが腕を組み、少しだけ視線を落とす。
「虫だけじゃない。あの黒いやつも含めて考えれば――」
一拍の間。
「この星、まだ“動いてる”」
その一言で、空気が変わる。
サイモンが低く呟く。
「終わった星じゃねぇってことか……」
ダイヤが小さく笑う。
「むしろ、めちゃくちゃ“現役”だね」
レオはゆっくりと顔を上げた。
「……なら」
二人を見る。
「どこかに“中枢”がある」
誰も否定しない。
――ただ、その場所に近づくことの意味だけが、重く沈んだ。
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