★夜を越える者たち
◆黒い惑星―海岸
触手からの一撃を避けた直後、三人はほぼ同時に駆け出していた。
「戻るぞ!ここはダメだ!」
レオの声に、ダイヤとサイモンが頷く。
背後では、海から伸びる触手が地面を叩き続けている。
だが、それ以上追ってくる様子はない。
「……助かった、のか?」
サイモンが振り返りながら呟く。
レオは首を振る。
「分からん。ただ、“ここまで”って感じだな」
ダイヤは息を整えながら言う。 「じゃあ、別の意味で縄張りってことか……」
そのまま三人は、廃墟の奥へと走り込んだ。
やがて、崩れかけた建物の一つにたどり着く。
入口は半壊し、内部は暗い。
だが――
「……入れるな」
レオが周囲を確認しながら言う。
ダイヤが不安げに覗き込む。 「中、なんかいそうじゃない?」
サイモンが軽く笑う。
「外よりマシだろ」
短く判断し、三人は建物の中へ滑り込んだ。
――静かだった。
外の気配が、嘘のように遠い。
ダイヤが小さく呟く。
「……来ないね」
レオも頷く。
「少なくとも、さっきの連中はな」
そのとき、サイモンが足元を見て止まる。
「……おい」
二人が振り向く。
床に、何かが転がっていた。
白い――
「……骨?」
ダイヤが声をひそめる。
人の形をしていた。
完全ではないが、腕、肋骨、頭蓋の一部。
「人型だな……」
レオがしゃがみ込み、静かに観察する。
そのすぐ近くに、もう一つ。
黒い物体。
ひび割れ、半分ほど砕けている。
サイモンが拾い上げる。
「……これ」
ダイヤが覗き込む。
「ヘルメット……?」
レオが低く言う。
「間違いないな。黒いやつらの頭部と一致する」
ダイヤが目を細める。
「じゃあ……やっぱり装備なんだ」
サイモンがぽつりと呟く。
「中身は……どうなんだろうな」
一瞬、沈黙が落ちた。
外で、何かが擦れる音。
三人は同時に顔を上げる。
カサ……カサ……
遠くで、まだ“何か”が動いている。
レオが立ち上がる。
「ここで夜をやり過ごす」
ダイヤが頷く。
「うん……あの数は無理」
サイモンも同意する。
「交代で見張りだな」
簡単な配置を決め、三人はその場に腰を下ろした。
長い夜が始まる。
――
どれくらい時間が経ったのか。
レオは一人、入口付近で外を見張っていた。
闇は相変わらず濃い。
だが、あの触手も、虫も、獣も、ここには近づいてこない。
「……避難場所、ってとこか」
小さく呟いた、そのとき。
――ウゥゥゥゥン……
サイレンが鳴った。
レオの目が細くなる。
そして――
空が、戻った。
さっきとは逆に、一瞬で明るさが差し込む。
「……切り替わったか」
レオはすぐに振り返る。
「起きろ」
ダイヤとサイモンを軽く揺する。
「朝だ」
ダイヤがぼんやり目を開ける。 「……はや」
サイモンも体を起こす。
「助かったな……」
外を見ると、もう夜の気配はない。
静かな廃墟の朝。
ダイヤが立ち上がる。
「……じゃあ、これ持って帰ろう」
指差したのは、骨とヘルメット。
そして――
入口付近に転がっていた、小さな虫の死骸。
「え、これも?」
サイモンが眉をひそめる。
ダイヤは真剣な顔で頷く。
「重要なサンプル!」
一拍。
そして、ダイヤが顔をしかめる。
「……うわ、私は無理だけど」
レオが小さく笑う。
「じゃあやめるか?」
「やるよ!!」
ダイヤは半泣きで回収する。
「やっぱ無理ぃぃぃ!」
「ゴリにぃ……持ってって……」
「必要だから!」
サイモンも嫌な顔しながら。
「わかった、持ってくよ」
嫌がりながらも、しっかり確保するあたりはさすがだった。
準備を終え、三人は建物を出る。
ルミナス号へ向けて、歩き出す。
しばらく進んだところで――
サイモンが足を止めた。
「……なぁ」
二人も止まる。
「気づいてるか」
レオが静かに答える。
「……ああ」
ダイヤが振り返る。
遠く。
瓦礫の影。
黒い影が、一つ。
こちらを見ている。
「……尾行してるね」
ダイヤが小さく言う。
レオが目を細める。
「距離を保ってる」
サイモンが低く笑う。
「見張られてるってことか」
影は、それ以上近づいてこない。
だが、確実に“いる”。
ダイヤが少し不安そうに言う。 「……ルミナス号、大丈夫かな」
レオは前を向いたまま答える。 「行って確かめるしかない」
三人は、歩みを早めた。
背後からの視線を感じながら。
ルミナス号を目指して――。




