★黒影との初交戦
◆黒い惑星――港
空気が張り詰めたまま、動いたのは――同時だった。
三つの黒い影が、音もなく地面を蹴る。
一直線に、サイモンへ。
「ちっ……来るか!」
サイモンが踏み込み、真正面から迎え撃つ。
振りかぶられた拳を、あえて受け止める。
――ドンッ!! 鈍い衝撃が腕に走る。
「……重っ!」
だが、そのまま腕を掴み――
「返すぞ!」
力任せに、一本背負いのように叩きつける。
地面が砕け、砂埃が舞う。
その間に、残り二体が左右へ展開。
「サイモン、囲まれる!」
レオが低く告げると同時に、前へ出る。
一体が踏み込んできた瞬間――
スッ、と半歩下がる。
拳がレオの頬をかすめる。
「遅い」
そのまま、腹へワンツー。
――ドッ、ドッ!
衝撃は入るが、手応えが軽い。
「……硬いな」
直後、黒い脚が跳ね上がる。
レオは体をひねって回避。
すれ違いざま――
「これでどうだ」
レオの左足がしなる。
――バシィッ!!
完璧な軌道の左ハイキックが、側頭部を捉える。
だが――
「……っ!?」
吹き飛ばない。
わずかに揺れただけで、黒い個体は体勢を保つ。
レオもすぐさま距離を取る。
「効いてはいるが……浅いか」
一方。
「よっと……!」
ダイヤは、三体目の攻撃を紙一重でかわし続けていた。
踏み込み。
横薙ぎの腕。
追撃の蹴り。
すべてを、最小限の動きで外す。
「速いけど……見える!」
跳んでくる拳をスウェイで避け、身体をひねり――
背後へ回る。
「今っ」
首元へ掌打。
――コンッ!
しかし、金属のような感触。
「……やっぱり硬い!」
直後、黒い尾が唸りを上げる。
「っ!?」
とっさに身を引くが、
――ブンッ!!
風圧だけでバランスを崩しかける。
「なにそれ……尻尾、反則じゃない!?」
戦場が、一気に混線する。
サイモンは一体を押さえつけながら、もう一体の蹴りを肩で受ける。
「ぐっ……!」
そのまま首を掴み、
「お前ら……軽くねぇな!」
力任せに地面へ叩きつける。
だが、
もう一体が背後から回り込む。
「サイモン!」
レオが踏み込み、割り込む。
拳と拳がぶつかる。
――ガンッ!!
「っ……!」
レオの顔が歪む。
「……威力、上がってるな」
その瞬間。
黒い影が、わずかに踏み込みを変えた。
「……っ?」
違和感。
次の一撃。
レオが焦る!
軌道が――読めない。
――ドゴッ!!
「がっ……!」
レオの頭部に、クリーンヒット。
視界が一瞬、白く飛ぶ。
膝がわずかに沈む。
「レオ!」
ダイヤの声。
だが、その隙を逃さない。
尾が、再び振り抜かれる。
「……くっ!」
レオは咄嗟に腕でガード。
――バキンッ!!
骨に響く衝撃。
「……ちっ、重い……!」
ダイヤが横から滑り込む。
「離れて!」
相手の腕をかわし、足払い。
わずかに体勢を崩させる。
その隙に、レオが引く。
「大丈夫!?」
「……問題ない。少しもらっただけだ」
だが、その目は鋭いまま。
「こいつら……」
呼吸を整えながら呟く。
「動きを学習してる」
サイモンが一体を抑え込みながら叫ぶ。
「野生じゃねぇな、これ!」
ダイヤも息を吐く。
「ねぇ……これ、“兵隊”じゃない?」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
三体が、同時に構え直す。
さっきまでより、無駄がない。
距離。 角度。 連携。
すべてが、洗練されていく。
「……来るぞ」
レオが低く言う。
再び激突――
その直前だった。
――ウゥゥゥゥン……
遠くで、低いサイレンのような音が鳴る。
三人の動きが止まる。
黒い三体も、同時に動きを止めた。
「……なんだ?」
サイモンが眉をひそめる。
音は、一定のリズムで響いている。
そのとき。
黒い個体の一体が、わずかに空を見た。
次の瞬間――
三体すべてが、後退。
「は?」
ダイヤが声を漏らす。
さらに距離を取り、
まるで最初から戦う気などなかったかのように、
影の中へ溶けるように消えていった。
静寂が戻る。
残されたのは、荒れた地面と、三人の荒い呼吸だけ。
「……逃げた?」
サイモンが呟く。
レオはゆっくりと立ち上がる。
「違うな」
一拍置いて。
「“戻った”んだ」
ダイヤが、黒い影が消えた方向を見つめる。
「……ねぇ」
小さく言う。
「やっぱり、この星……普通じゃないよ」
――三人の間に、重い沈黙が落ちた。
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