☆真実は消せない
アクア緊急速報が流れた。
《アクア、搬送先で死亡確認》
その一文が、全コロニーを貫いた。
広場は沈黙。
泣き崩れる人々。
祈る者。
アクアが倒れた映像が繰り返し流れる。
誰かの嗚咽。
平和の象徴は、撃ち落とされた。世界は、そう信じた。
◆別のコロニー・上層区画
薄暗い部屋。
巨大な窓の向こう、都市の光。
そこに立つ男。
首謀者、カストル・ヘルナンデス。
彼の前のホロ画面に、死亡速報が流れる。
数秒の沈黙。
そして――
「――終わりだな」
口元が、ゆっくり歪む。
グラスを持ち上げる。
「脆い理想だったな、アクア」
「理想はいつも、血に弱い」
控えていた側近が頭を下げる。
「計画、成功です」
カストルは笑う。低く、満足げに。
「これで議会は空席だ。混乱は長引く。我々の“安定案”が通る」
彼はホロ通信を開く。
「第二段階へ移行しろ」
◆秘匿区画
その通信――アストラが、掴む。
「釣れたな」
レオが短く言う。
ホロ画面に映るのは――
暗号通信の解析ログ。発信源。資金移動。ドローン購入履歴。狙撃手への送金。
すべて、一本の線で繋がる。
ルビィが冷静に告げる。
「完璧ね。死亡確認後、即座に資金送金」
アストラが続ける。
『カストルの個人認証キーと一致。証拠、確定です』
レオの目が冷える。
「よし、証拠を表に出す」
緊急ニュースが流れている。
黒い背景。アクアの写真。
司会者が沈痛な面持ちで語る。
「未来を照らした光は、凶弾によって――」
その瞬間。
画面がノイズを走らせる。
映像が切り替わる。
緊急ニュース番組に突然の割り込み。
無機質な室内。
中央に立つのは――
アリエス・ミラノ。
左右に、拘束された二人の狙撃手。
そしてその隣には、ルビィとアストラ。
『放送回線、掌握完了』
アストラの声が響く。
アリエス・ミラノの声明。
「この放送は緊急割り込みです」
静かで、揺るがない声。
「私の義理の姉。アクア・ミラノ暗殺事件は、単独犯ではありません」
背後のホロスクリーンに映し出されるのは――資金移動記録。
ルビィが、一歩前に出る。
「その資金ログ、撃たれる直前に押さえたものです」
画面が切り替わる。
ルビィの端末から吸い上げられたリアルタイム記録。
「あなたは、死亡確認から三秒後に送金した」
一拍。
ルビィがはっきりと言う。
「黒幕は――カストル・ヘルナンデス」
世界中の通信網が一斉にざわめく。
アリエスが静かに、だが強く続けた。
「正義を語る資格なんてない」
前髪から覗く瞳。
「アクアは、あなたたちにとって邪魔だっただけです」
その声に、怒りと悲しみが滲む。だが涙はない。
世界は今、“本当に失った”と思っているのだから。
アストラが追撃した。
『証拠は全議会および報道機関へ同時送信済み』
『改ざんは不可能』
『貴方のサイバーは完全に凍結させました』
『逃走経路、予測完了』
冷徹な宣告。
ルビィは感情を抑えた声で、淡々と告げた。
「包囲は、もう始まっています」
各局のスタジオが騒然となる。
最後の画面で、アリエスが一礼する。
「これは復讐ではありません」
「事実の公開です」
映像が暗転。そして表示される一文。
《真実は消せない》
放送終了。
カストルのもとへ、警察の包囲網が迫る。
世界は怒りに震え、希望を失ったまま、真実だけを手にする。
◆カストルの私室
――数分前。
巨大な窓の向こうに広がる都市の光。
追悼特番を眺めながら、カストルは静かにグラスを回していた。
「民衆は単純だ」
だが――
画面が乱れる。割り込み。
アリエスの姿。
拘束された狙撃手。資金ログ。
自分の認証キー。
数秒、理解が追いつかない。
「……何だ、これは」
側近が青ざめる。
「閣下……認証コードが、公開されています」
ルビィの声が響く。
『黒幕は――カストル・ヘルナンデス』
グラスが、止まる。
アストラの音声。
『証拠は全議会および報道機関へ同時送信済み』
『改ざんは不可能』
『貴方のサイバーは完全に凍結させました』
『逃走経路、予測完了』
冷徹な宣告。
カストルの顔から血の気が引く。
「消せ。今すぐ回線を止めろ!」
「止まりません! 全域分散送信です!」
ホロ画面に、警備艇の接近映像。
「閣下……包囲網、形成中です」
「馬鹿な……!」
カストルは机を叩く。
「私は議員だぞ! 私を逮捕する権限など――」
そして、扉が爆音とともに開く。
武装治安部隊が雪崩込む。
「カストル。暗殺教唆、共謀、国家転覆未遂の容疑で拘束する」
「ふざけるな!! 罠だ! 捏造だ!!」
カストルは抵抗しようとするが、腕を押さえられる。
床に膝をつく。
その瞬間――
緊急生中継で、画面が再び切り替わる。
《特別速報》
治安部隊に拘束されるカストルの姿。両腕を押さえられ、叫んでいる。
「私は嵌められた! アクアは死んだ! それで終わりだ!」
その言葉に、世界中の視聴者が息を呑んだ。
その言葉が、決定打となった。
司会者が震える声で言う。
「……現在、カストル議員が拘束されました」
カストルは最後に振り返る。
「民衆はまた騙されるぞ!! 理想など――」
その声は、拘束音でかき消される。
手錠が閉まる音。
重い金属音。
画面が固定。
画面下に、赤い速報テロップが走る。
《カストル議員、逮捕》
都市の光は変わらない。
だが、支配者は崩れた。
アクアは“死んだ”まま……。
世界は、希望を撃った者の正体を知った。
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次の章は、間章零になります。
後に間章壱以降のプロローグの章です。断章壱は少年漫画風のストーリーになってます。
本編が気になる方は最終章へ。最終章の配信は2026年6月19日朝6時からです。




