☆星海を越えた再会
アリエスがアクアに連絡を入れると、返事は驚くほど早かった。
◆アリエス邸
アリエスが端末を確認しながら、小さく息をつく。
「アクアは今、この宇宙ステーションで仕事中。でも、終わり次第すぐ来るって」
少しだけ表情を緩めて続ける。 「それに今日は元々、私と夕飯の約束もしてたしね」
その一言で、部屋の空気がわずかに柔らぐ。
――そして、待ち時間。
アリエスは完全にスイッチが入っていた。
「ねぇアストラさん、内部構造ちょっと見せて!」
目を輝かせて身を乗り出す。
アストラは淡々と――だがどこか誇らしげに、腕部を分解し、再構築してみせた。
精密な光のラインが走り、内部構造が露わになる。
「すごっ……」
アリエスの声は、完全に研究者のそれだった。
一方で、ルビィと結依は――
「よしよし〜」
「あらあら、いい子ね〜」
二人はタウロスを囲み、完全に保育モード。
サイモンは床に座り込み、小さなフェザーと本気で追いかけっこをしている。
「ほら来い、フェザー!」
そんな中で――
レオだけが、窓の外を見ていた。
宇宙ステーションの街並みを、ただ見つめている。
行方不明船。
戻ってきた現実。
そのすべてを、噛みしめるように。
――三時間後。
ドアが開いた。
「ごめん、遅くなった」
その声が、空気を変えた。
レオの思考が、止まる。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは――
出航前と変わらない面影の女性。
青みがかった銀髪。
静かな瞳。
無駄のない立ち姿。
レオの喉が、わずかに鳴る。
「……アクア?」
名前を呼ぶだけで、精一杯だった。
アクアもまた、動けなかった。
数歩分の距離が、途方もなく遠い。
「レオ……?」
信じられないものを見るように。
「……生きてたの?」
その声は、震えていた。
ゆっくりと――本当にゆっくりと、距離が縮まる。
触れられる距離で、止まる。
言葉が、出てこない。
ただ、互いを見ている。
レオが、かすれた声で言う。
「……悪い」
「戻るのが、遅くなった」
アクアの瞳が揺れる。
一瞬だけ、感情が溢れかけて――それでも、彼女は笑った。
そして、小さく息を吐く。
「……死んだと思ってた」
その言葉の重さが、静かに落ちる。
レオは何も言えない。
代わりに、ほんのわずかに頷いた。
アクアが続ける。
「オリオン……ずっとあなたの話してた」
「父親は英雄だったって、勝手に話を盛ってたわよ」
レオの目が、わずかに見開く。
「……オリオンは?」
「今は学校行事でいないわ。あと五日くらい」
アクアは少しだけ笑う。
「会ったら驚くでしょうね。“死んだはずの父親”が帰ってきたんだから」
レオが小さく息を吐く。
「……」
レオは少し考え込みながら小さく頷くだけだった。
そのやり取りを、周囲は静かに見守っていた。
――そして。
アクアの視線が、ゆっくりと横へ流れる。
ダイヤとサイモンで止まる。
「……まさか」
アクア目が見開かれる。
「三人とも……生きてたなんて」
空気が、少し温かくなる。
――が。
次の瞬間。
アクアがふっと笑った。
「サイモン、その宝石……歩く広告塔みたいね」
サイモンが即座に反応する。
「やめてくれ、俺だって好きでやってるわけじゃない!」
視線が、ダイヤへ。
「それと――ダイヤ?」
口元がわずかに緩む
「可愛い息子が増えたみたい」
ダイヤが食い気味に返す。
「可愛いは余計!」
サイモンが吹き出す。
「ほらな、やっぱ可愛い枠だって」
アクアが楽しそうに頷く。
「ええ。頼りにしてるわよ、“坊や”」
ダイヤが即座に返す。
「坊や言うな!」
結依が内心で呟く。
(……これが、アクア・ミラノ。思ったより、ずっと穏やかな人だ)
そこで、ルビィが一歩前に出た。
少し背筋を伸ばし、真っ直ぐアクアを見る。
「アクアさん、はじめまして。私はルミナール号という船の船長で、ルミナス号を救助しました」
アクアがわずかに首を傾げる。 「ルミナール号?」
「そんな船、あったかしら」
アリエスが苦笑しながら割って入る。
「アクア、実は話がとても複雑で……」
レオが静かに口を開いた。
「アクア、大事な話なんだ」
「順を追って話すから、聞いてくれ」
その声に、アクアの表情が少しだけ引き締まる。
そしてレオは語り始めた。
ルミナス号の漂流。
五〇年という空白。
未来から来た船――ルミナール号。
暗殺計画。
タイムマシーン。
未来のアリエス。
そして、“まだ起きていない未来”。
あまりにも現実離れした話だった。
だが、この場の誰一人として冗談を言っている顔ではない。
アクアは途中で何度も口を挟みかけ、そのたびに黙り込む。
理解が追いつかないのだ。
ようやく話が一区切りすると、アクアは長く息を吐いた。
「……なるほどね」
額を押さえる。
「頭の良さには少し自信あったんだけど、今日は限界かもしれないわ」
アリエスが苦笑する。
「安心して。私も半分くらいしか整理できてない」
失われたはずの者たち。
未来から来た者たち。
奇跡みたいな偶然が、いくつも重なってここにいる。
だが、再会に浸れる時間は、長くはない。
未来では、すでに悲劇が待っている。
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