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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【第八章】宝石(星)の系譜/因果の果て

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☆アリエスとタウロス

 ルミナール号を降りた六人と一匹は、入港手続きを簡単にパスして、宇宙ステーション内部でも限られた者しか立ち入れない区画へと向かった。


 サイモンが後ろを振り返り、ゲートを見ながら口の端を上げる。

「……おい、今の通過」

「ちょっと簡単すぎないか?」


 ダイヤがフェザーを抱いたまま、端末を軽く振る。

「顔認証、ID照合、航行履歴――全部スルー」

「これ、検査って言えるのかね」


 レオは足を止めず、周囲の警備ドローンへ一瞬だけ視線を向ける。

「警備はいるが……中身が伴っていないな」

「我々の時代のセキュリティはこんなものか?」


 その会話に、少し後ろを歩いていたアストラが静かに反応する。

『当該ステーションのセキュリティレベルは、この時代基準において上位に位置します』

『侵入検知、個体認証、航行履歴照合、すべて高水準で実装されています』


 ダイヤが片眉を上げる。

「それでこれ?」


 わずかな間を置き、続ける。

『はい』

 アストラの声が淡々と響く。

『ただし――私が介入した場合、それらは無効化可能です』


 サイモンが吹き出す。

「つまり、お前が規格外ってことか」


 レオが小さく息を吐く。

「未来の技術で殴れば、こうなるというわけだな」


 ダイヤが苦笑する。

「防御側からしたら、たまったもんじゃないね」


 アストラは変わらぬ調子で応じる。

『なお、今回の処理は痕跡を残さないよう最適化されています』

『追跡および検知の可能性は、極めて低いと推定されます』


 サイモンが肩の力を抜きながら言う。

「頼もしすぎて逆に怖いな」


 レオが前を見据えたまま、短く言葉を落とす。

「今は味方で助かっている」


 その一言に、わずかな緊張と安心が同時に混ざった。

 六人と一匹は、そのまま奥の区画へと進んでいく。


 そして、またアストラが説明もなく、簡単に扉のセキュリティをクリアした。


 結依が肩を揺らして笑う。

 「もはや、大怪盗だね、平気で法を犯すなんて、アストラの中身はやっぱりオリオン博士だわ」


 その言葉を受けて、レオは口元をゆるめることしかできない。


 ステーション外周に隣接する居住ブロック。そこは、司令官級、研究責任者級といった上層関係者のみが暮らす、静かで整然とした空間だった。


 目的地は、その一角。

 アリエス・ミラノ博士の自宅兼研究室。


 しばらく歩くと――

 家の前に到着した。


 そのときだった。

 レオの足が、ぴたりと止まる。

「あ……」


 家の外、透明ドームの下。

 芝のような人工植生の上で、ひとりの女性がしゃがみ込んでいた。

 少しピンクがかった金色の髪。見覚えのある横顔。


 そして――

 アリエスが優しく声をかける。

「ほら、タウロス。そこ、危ないわよ」

 よちよちと歩く赤ん坊を、両手で支えながら笑っている。


 レオの視線が、その光景に吸い寄せられる。

「……大きくなったな」

 最後に会ったのは、ルミナス号出航前、一〇ヶ月前だ。


 まだ首もすわりきっていなかった赤ん坊は、いまや一歳ちょっと。

 まだ、おぼつかない足取りで、アリエスの周りを歩き回っている。


 いきなり声をかけるのは、さすがにまずい。

 そう判断し、先にルビィと結依が近づき声をかける。


 ルビィが丁寧に口を開く。

「失礼します、アリエス・ミラノ博士?」


 アリエスが顔を上げる。

「……?」

 一瞬、警戒した表情。


 だが、すぐに礼儀正しく立ち上がった。

「はい。どちら様でしょうか?」


 ルビィが名乗ろうとした、そのとき。

 赤ん坊がよろけながら突進してくる。

「たー!」

 ルビィが反射的にしゃがみ込む。

「わっ……」


 アリエスが苦笑を浮かべる。

「ごめんなさい。この子、人見知りしないの」


 ルビィがやわらかく微笑む。

「いえ、大丈夫です」

 その瞬間。

 赤ん坊が、ルビィの指をぎゅっと掴んだ。


 アリエスがすぐに抱き上げる。

「タウロス、やめなさい」


 結依の視線がぴくりと動く。

「……タウロス?」

 わずかに前のめりになりながら。

「え?」「今、タウロスって……」


 アリエスが何気なく答えた。

「ええ。この子の名前です。タウロス・ミラノ・ゴールドバーグ」

 その瞬間。


 ルビィと結依が同時に固まった。

「……え?」「……あの?」

 ふたりの視線が、赤ん坊とアリエスを何度も往復する。


 結依が思わず声を上げる。

「ちょ、ちょっと待って」

「そのタウロスって……」


 ルビィが真顔のまま続ける。

「将来、宇宙ステーション最高司令官になる?」


 アリエスが完全に困惑する。

「……は?」


 結依が続ける。

「口髭のめちゃくちゃ怖い人……」


 ルビィが補足する。

「私たちに、異銀河探索の極秘辞令、出してきた」


 赤ん坊はそんな空気など関係なく、手を叩く。

「たー!」


 沈黙。


 ルビィの肩がわずかに震える。

「これが、あのタウロス司令官?」


 結依が小さく呟く。

「信じられない……」


 アリエスは状況が飲み込めないまま、首を傾げた。

「……えっと。何の話?」


 そのときだった。

 低く、懐かしい声が空気を切る。

「……アリエス」


 アリエスが、はっと振り返る。

「……レオ?」

 一瞬、思考が止まり――

 次の瞬間、目を見開いた。

「……レオ!?」

「なんで……!?」

 その後は、言葉にならなかった。


 室内に招き入れられ、六人と一匹は、ようやく腰を落ち着ける。


 アリエスがサイモンを見て、吹き出した。

「ちょっと、サイモンその格好なに? 成金? ウケるんだけど」


 サイモンが両手を広げる。

「俺の趣味じゃないからな! 全部アストラだ!」

 レオが静かに息を吐く。


 アリエスの視線がダイヤへ移る。

 そして目を丸くした。

「……え? ダイヤ?」

 少年姿のダイヤが、少し低めの声で。

「……俺」


 アストラが即座に補助する。

『語尾を落としてください』


 ダイヤが言い直す。

「……俺だよ」


 サイモンが覗き込む。

「やば、普通に男の子だな。しかもそこそこイケてる」


 ダイヤが即座に返す。

「うるさいゴリにぃ」


 アリエスが笑いながら頷く。

「全然わからなかったよ。完全に男の子ね」


 ダイヤが小さく息を吐く。

「……バレないよね?」


 レオが迷いなく答える。

「問題ない」

 その一言に、ダイヤは静かに頷いた。


 再会の会話も落ち着き……

 そして、すべてが語られた。


 ルミナール号の存在。

 五〇年後の未来。

 サファイアのこと。

 ルビィと結依。

 オリオンが、未来でアストラを生み出したこと。


 そして――

 アクア・ミラノが、近い将来、暗殺されるという事実。


 その後、アリエス自身も狙われること。

 黒幕となる組織の存在。


 アリエスは、途中、一言も挟まずに聞いていた。

 話が終わると、深く息を吐き、静かに言った。

「……なるほど」


 視線がアストラへ移る。

「あなたが……未来のアンドロイド?」


 アストラが頷く。


 次の瞬間。

 アリエスの目が輝く。

「すごい!」

「この構造……この制御系……」

「え、ちょっと、ここ触ってもいい?」

 フェザーにも気づく。

「何この生き物」

「かわいい……でも、この皮膚密度、異常じゃない?」

 フェザーが鳴く。

「きゅ」


 ダイヤが呟く。

「兄妹そろって、科学オタクだね」

 レオは苦笑するしかなかった。


 アリエスが、ふっと真剣な表情に戻る。

「……で?」

「未来から来た皆さんは、私に何を求めてるの?」


 ルビィがまっすぐ答える。

「協力です」


 アリエスがゆっくりとうなずく。

「いいわ」

「じゃあ――」

 視線が全員を見渡す。

「今後の作戦を、考えましょう」


 その言葉とともに、

 物語は――“暗殺を止める側”として、動き出した。


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