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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼15万PV達成】【平日月曜の朝6時更新】  作者: 準
【第八章】宝石(星)の系譜/因果の果て

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☆偽装と潜入



 ルビィが表情を引き締め、端末へ指を走らせる。

 静かな操作音がブリッジに響き、ホログラムが一枚、また一枚と展開されていく。

 淡い光が、その横顔を照らした。迷いのない視線。船長としての顔だった。


 ルビィが静かに言葉を置く。

「まず――アリエス博士に会うには、宇宙ステーションに入る必要があります」


 スクリーンに、巨大な円環構造のステーションが映し出される。

 幾重にも重なる外殻、巡回する警備ドローン、絶え間なく流れる船の光跡。

 研究区画と議会区画を併せ持つ、リトス銀河でも屈指の中枢施設。

 その存在感は、ただの“目的地”ではなく、“壁”そのものだった。


 結依が首をかしげる。少しだけ不安を滲ませながら。

「でも、ルミナス号って……有名すぎない?」


 アストラが即答する。間は一切ない。

『はい』

『ルミナス号は、現在この時代において、行方不明の船です。近づけばすぐに、監視と照会が同時に行われるでしょう』


 言葉と同時に、複数の警戒プロトコルがホログラムに表示される。

 侵入検知、身元照合、軌道追尾――逃げ場はない。


 サイモンが星を眺めたまま呟く。

 あえて緊張を軽くするような、抜けた声で。

「そりゃそうだ。そんな船が、いきなり帰ってきたら大事件だ」


 ルビィが小さく頷く。判断はもう固まっている。

「そうですね、ルミナス号はここの宙域で待機。六人でルミナール号で向かいます」


 ダイヤが片眉を上げる。すぐに別の問題へ視線を向ける。

「でも、ルミナール号って、この時代に登録ないでしょ?」


 アストラが間を置かず答える。

『はい、ありません、今から作ります』


 一瞬の沈黙。

 空気が、ぴたりと止まる。


 結依が思わず聞き返す。

「……作る?」


 アストラが淡々と続ける。

『はい、私は未来のアンドロイドです。五〇年前のデータの改ざんは簡単です』

『“民間所有・超富裕層向け個人船”として登録します』


 その瞬間、ホログラムに偽装データが高速で構築されていく。

 所有者名、資産履歴、航行ログ――すべてが“それらしく”積み上がる。


 サイモンが堪えきれない、といった顔で吹き出す。

「ははっ、金持ち設定かよ」


 アストラが揺らがない声で続ける。

『最も不審に思われません』

『目的不明、滞在短期、身元非公開。この時代のセキュリティは、富裕層に甘い』


 結依が呆れたように眉を寄せる。

「完全に犯罪者の発想じゃない」


 アストラが即答する。

 一切の迷いなく。

『合理的です』


 そのやり取りを聞いて、ダイヤがふっと笑った。

 どこか楽しそうに、そして少しだけ懐かしむように。

 ダイヤがレオへ視線を向ける。

「ねぇ、レオ」


 レオが顔を上げる。

「なんだ?」


 ダイヤが少し楽しげに言う。

「アストラってさ、オリオンと同じ思考してそう」


 一瞬の間。

 次の瞬間、空気が弾けた。

 結依が噴き出す。

 サイモンも声を押し殺して笑う。

 ルビィも耐えきれず、くすっと息を漏らした。


 レオは苦い顔のまま黙る。

 そして、わずかに視線を逸らしながら。

「あいつも、こんな感じなのか」


 アストラは気にした様子もなく続ける。

『次に、個人識別です』


 六人分のホログラムが立ち上がる。

 顔、体格、歩行パターン、声紋――すべてがデータ化され、上書きされていく。

『全員に電子偽IDを作成します。職業、経歴、滞在理由――すべて整合性を取ります』

『そして、ルミナス号の三人は有名人ですので、変装が必要です』


 ダイヤが目を瞬かせる。

「え?変装?」


 数分後。

 ブリッジの一角が簡易更衣スペースの様になっていた。


 レオの前にホログラムが展開される。

 落ち着いた色のローブ。縁なしの情報グラス。

 髪は後ろで一つに束ねられ、雰囲気は完全に“無口な資産家の護衛”。


 レオが鏡を見て眉をひそめる。

「……俺、こんなに無愛想に見えるのか?」


 アストラが淡々と告げる。

『違和感ないです、コードネーム:リゲル・オムです』


 結依が素直に頷く。

「落ち着いた感じで、カッコいいですよ」


 次に、サイモン。

 派手な柄のジャケットに、過剰な装飾リング。

 どこからどう見ても、成金。

 サイモンが両手を広げて抗議する。

「ちょ、待て待て!」

「俺、こんな趣味じゃない!」


 アストラが淡々と説明する。

『記録によれば、この時代の富裕層男性は、“わかりやすい装飾”を好みます』

『コードネーム:ブルーノ・ウィリスです』


 ダイヤが、腹を抱えて声を上げて大笑いする。

「ゴリにぃ、似合ってる似合ってる!」


 ルビィも結依も笑っている。

 緊張が完全にほどけた、短い休息のような時間。


 最後に、ダイヤ。

 ダイヤが軽く息をつく。

「はいはい。どうせ私も地味に――」


 表示された姿を見て、動きが止まる。

 髪は短くまとめられ、帽子。

 ゆるいジャケット。

 首元まで閉じたシャツ。

 どう見ても、少年だった。


 ダイヤが固まる。

「……は?」


 サイモンが吹き出す。

「ちょ、待て。誰だこの爽やか系イケメン」


 結依が目を輝かせ、素直すぎる感想で追い打ちをかけた。

「可愛い男の子じゃん」


 アストラが淡々と説明する。

『少年に偽装することで、識別率を六三%低減できます』


 ダイヤは鏡の前に立つ。

 帽子を整え、じっと自分を見る。

 そこにいるのは、自分であって自分じゃない存在。

「……嘘でしょ」


 ルビィが楽しそうに声をかける。

「おばあちゃん、悪くないよ〜」


 ダイヤが即座に返す。

「悪くない!? 私だよ!?」


 アストラが続ける。

『声帯補正を行います。少し低めに』


 ダイヤが咳払いする。

 ほんの少しだけ、覚悟を決めるように。

「……えーと」


 アストラが指示する。

『もっと短く。語尾を落としてください』


 ダイヤが試す。

 声を落とし、響きを変える。

「…俺…」


 サイモンが両手で口を押さえ笑う。

「やば。完成度高ぇ」


 ダイヤが鋭く睨む。

「笑うな、ゴリにぃ」


 サイモンが肩を震わせながら返す。

「いやいや、むしろ俺よりモテそうなんだが」


 レオが低く助言する。

「自然に歩け。腰を落とせ。肩を開くな」


 ダイヤは姿勢を変える。

 足を少し広げ、ポケットに手を入れる。

 重心を落とす。

 鏡の中には、完全に別人の少年が立っていた。


 ダイヤが小さく呟く。

「……これで、バレない?」


 アストラが即答する。

『はい。もう、“ダイヤ”は存在しません』


 ダイヤはゆっくり息を吐く。

 覚悟を飲み込むように。

「じゃあ、今日から俺は?」


 アストラが新しいIDを表示する。

『コードネーム:ラルド・エーメ』


 サイモンが笑う。

「お、強そう」


 ダイヤ――いや、ラルドが小さく頷く。

 もう迷いはない。

「了解。任務、開始だよ」


 フェザーはというと。

 首元に小さなタグが装着される。

 〈希少保護動物・個人所有〉

 フェザーが首をかしげる。

「……きゅ?」


 アストラが説明する。

『フェザーには、正式な飼育許可証を発行しました』

『この時代では、動物の方が審査が厳しい場合があります』


 ダイヤが抱き上げて頬を寄せる。

 さっきまでの“少年”の顔が一瞬だけ戻る。

「偉くなったねぇ、フェザー」


 最後に、アストラ自身。

 アストラが静かに宣言する。

『私の身分は』

『“次世代研究用アンドロイド・試作機”。この時代より五〇年先の技術で製造された、という設定です』


 結依が目を丸くする。

「……それ、信じられるの?」


 アストラが即答する。

『疑われても問題ありません』

『技術検証には、数十年単位の時間が必要です』


 ルビィが軽く息を吐く。

 半分呆れ、半分感心しながら。

「もう隠す気ないでしょ?」


 アストラが迷いなく返す。

『ありません』


 そうして、ルミナール号は宇宙ステーションへと進路を取る。

 静かな推進音が船体を震わせる。

 作戦は、すでに動き出していた。

 通信が入る。

『こちら、中央第一宇宙ステーション管制。未登録船籍を確認。目的を述べよ』


 ルビィが落ち着いた指先で操作しながら応答する。

 迷いのない声音。

「民間船ルミナール。短期滞在。研究区画への入港許可を要請します」

 一拍。


 わずかな沈黙が、やけに長く感じられる。

『……確認。着陸許可を発行する。指定ドックへ進入せよ』


 緊張が、ふっとほどける。

 巨大なステーションへ、ゆっくりと向かう。

 光の帯が回転し、ドックが口を開く。


 ダイヤがフェザーを撫でながら、小さく呟いた。

 今度は少年の声のまま。

「さあ……ここからが本番だね」


 ルミナール号は、静かに減速し――

 歴史が動き出す場所へと、降りていった。


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