☆増えた家族、増えた問題
艦内の緊張が、わずかにほどけたとき。
突然、ルビィがレオとダイヤを見て、ぽつりと言った。
ルビィが、言葉を探すように視線を泳がせる。指先でコンソールの縁をなぞりながら、少しだけ迷って――それでも口を開いた。
「……あのさ」
何気ない一言なのに、その場の空気がふっと静まる。自然と、全員の視線がルビィへ集まった。
ルビィは小さく肩で息をしてから、照れくさそうに笑う。
「こうして並ぶとさ」
少し間を置いて、言葉を選ぶように続ける。
「レオさんって……私のおじいちゃん、だよね?」
一瞬。
時間が、ぴたりと止まったみたいな沈黙。
レオはまばたきを忘れたように固まり、それからわずかに眉を動かす。
「……は?」
返事というより、思考が追いつかないまま零れた音だった。
数秒遅れて、レオはゆっくり息を吐く。腕を組み直し、頭の中で関係をなぞるように視線を落とした。
「……ああ」
低く納得した声。
「確かに、そういうことになるな」
結依が勢いよく身を乗り出す。椅子がわずかに軋んだ。
「あ、じゃあ……サイモンさんも?」
指をさされたサイモンは、まるで不意打ちでも食らったみたいに目を見開く。
「え、俺も!?」
一拍置いて、天井を仰ぐ。
「そっか……」
苦笑が滲む。
「ダイヤが“おばあちゃん”って呼ばれてんの、他人事だと思って笑ってたのにさ」
肩を揺らしながら、ぼやくように続ける。
「まさか自分も同じ枠に入るとはなぁ……」
ダイヤがくすっと笑った。柔らかく、どこか嬉しそうな響き。
「私たち、ちゃんと家族だったんだね」
そのまま視線をアストラへ向ける。
「アストラだって、オリオンの子供みたいなものだし」
サイモンがレオの横顔を覗き込むようにして、にやっと笑う。
「ってことはさ」
「アストラも含めて、レオの“孫枠”って感じじゃないか?」
少し茶化すように言いながらも、どこか楽しそうだった。
レオは露骨に嫌そうな顔をしかけて、途中で諦めたように小さく息をつく。
「……増えたな、家族」
その一言に、空気がふっと緩む。
アストラはわずかに視線を伏せ、それから顔を上げた。ほんの少しだけ口元が動く。
無機質なはずの表情に、かすかな“照れ”のようなものが混じる。
『……定義上は、近い関係性と判断できます』
言葉は相変わらず淡々としているのに、どこか人間らしい温度があった。
その空気に、誰かが小さく笑う。
気づけば、さっきまでの緊張はすっかりほどけていた。
ダイヤが結依へ視線を向ける。
「そういえばさ、結依って感情が動くと身体能力が上がるよね」
結依が一瞬、言葉に詰まる。
「……え、あ……うん、たぶん」
アストラが間を置かず補足する。
『サイモンさんは、常に力のリミッターが解除された状態です』
レオの口元がわずかに緩む。
「それ、普通に危険人物だろ」
サイモンが短く返す。
「違う。ちゃんと制御している」
ダイヤがもう一度、結依を見る。
「そういう所――遺伝なのかもね」
結依は言葉を失い、視線が揺れる。
サイモンは何も言わない。
ただ、ほんのわずかに――結依へと視線を向けた。
その一瞬だけ、ふたりの目が合った。
フェザーが、小さく鳴いた。
「きゅ」
小さな鳴き声が、静かに余韻のように残る。
その場に流れたのは、どこか柔らかい沈黙だった。
だが――それは長くは続かない。
ルミナール号の外、無音の宇宙の向こう側には、すでに目的地がある。
巨大な円環構造。幾重もの防衛網と監視システムに守られた中枢拠点。
アクア第一宇宙ステーション。
六人と一体は、そこへ向かわなければならない。
だが、正面から入ることはできるのか?
過去に消えた船。
存在してはいけない人間たち。
そして――未来の技術を持つアンドロイド。
すべてが、この時代にとって“異物”だった。
沈黙の中で、誰もが同じことを考えていた。
どうやって侵入するか。
どうやって正体を隠すか。
どうやって、この時代を欺くか。
アストラの瞳に、淡い光が宿る。
作戦は、これから組み上がる。
宇宙は静かだ。
だが、その静けさの裏で――
新たな動きが、始まろうとしていた。




