☆ミラノ家暗殺の真実(後編)
◆ルミナール艦内・メインラウンジ
艦内の照明が、わずかに落とされた。
アストラの前に、複数のホログラムが展開される。
『犯罪組織について説明します』
淡々とした声が、場を引き締める。
『黒幕は、カストル・ヘルナンデスを中心とした政治・軍需・研究を横断する非合法ネットワークです』
『表向きは、治安維持と技術管理を掲げた団体、しかし実態は――』
一拍。
『“特定の技術が、一部の家系に集中すること”を危険視し、排除してきた組織です』
レオの視線が、わずかに沈む。
「……ミラノ家、か」
『はい』
アストラは続ける。
『ミラノ家は、科学・医療・政治の三分野で影響力を持つ“例外的存在”』
ホログラムに、系譜図が映る。
《バルゴ・ミラノ・政界――レオの父》
《国家間統合条約の立案者》
《宇宙資源管理機構の創設者》
《統治構想の設計者》
《リブラ・ミラノ・医療界――レオの母》
《再生医療革命》
《ナノ医療開発》
《遺伝子倫理法の起草》
《アリエス・ミラノ・研究者――レオの妹》
《自律進化型AI》
《人工意識定義》
《戦略AIの発明》
《アクア・ミラノ・研究者――レオの妻》
《ワープ理論実証》
《重力波推進》
《兵器無効化技術の発案》
結依が小さく息を吸う。
「……レオさんの家系も、みんな天才だね。そして、全て未来に直結する分野」
『その通りです』
アストラは続ける。
『アクア・ミラノは、暗殺直前』
ホログラムが表示が切り替わる。
《慣性制御フィールド完成》
『あらゆる兵器の運動エネルギーを無効化できる技術です』
『軍事バランスを根底から覆す力を持っていました』
『そして彼女は、その技術を全コロニーへ発表予定でした』
ルビィが目を細める。
「……技術の独占も、兵器転用も、できなくなる」
『はい』
レオの拳が、さらに強く握られる。
「だから、最初に狙われた」
『はい』
アストラは静かに言った。
『アクア暗殺は、警告であり、始まりでした』
沈黙。
やがて、結依が声を上げる。
「じゃあ、止めるなら?」
『三点です』
アストラが即答する。
『一、アクア暗殺を阻止する』
『二、実行犯を確保する』
『三、組織を摘発、または壊滅させる』
ダイヤが、ニコッと笑った。
「やること、はっきりしてて良いね」
ルビィが、静かに息を整える。
「アクアさんを助けるには、中から協力してくれる人が必要ね」
視線が、アストラに集まる。
『この時代で協力してくれる可能性が高いのは、アリエス・ミラノ博士です』
『そして、アクア・ミラノさん本人にも事実を伝えるのが合理的です』
ルビィが、まっすぐ前を見る。
「まずは、宇宙ステーションへ行きましょう」
「彼女たちに会って、全部話します」
一拍。
「行き先は――アクア第一宇宙ステーション」
結依が一瞬きょとんとする。
「アクア……?」
それから、はっとしてレオを見る。
「え、ちょっと待って、その“アクア”って……」
レオがわずかに首を傾げる。
「……どういう意味だ?」
サイモンが横から口を挟む。
「何だ、何だ?」
アストラが静かに説明する。
『アクア・ミラノ博士は、暗殺後――平和の象徴として扱われています』
『第一宇宙ステーションはアクア第一宇宙ステーション、通称アクア・ワンと呼ばれています』
『他にもあります』
アストラがホログラムを出す。
ホログラムに都市の映像。
《アクア中央コロニー広場》
《アクア記念研究区》
《アクア平和ドーム》
『中央広場には――』
像の映像が映る。
『アクア・ミラノ博士の像が建てられています』
沈黙。
レオが、ゆっくり瞬きをした。
「……像?」
サイモンが思わず吹き出す。
「おいおい、レオの奥さん、完全に歴史人物じゃねぇか」
レオはまだ飲み込めていない。
「……そんなことになってるのか」
結依が驚いたまま呟く。
「レオさんの奥さん……そんなに有名な人だったんだ……」
ルビィが静かに言う。
「うん。五〇年後の世界では――」
「アクア・ミラノさんは、平和を象徴する人物として語られてるよ」
一拍。
ルビィが、まっすぐレオを見る。
「でも――」
一拍。
「その人が、あと二八日で暗殺される」
艦内の空気が、静かに凍りついた。誰も、すぐには言葉を出せない。
ルビィが、その沈黙を断ち切る。
「……第一宇宙ステーションへ向かいます」
その声は、もう迷っていなかった。
ルビィは前を見据える。
六人と一匹は、同じ方向を見た。




