☆ミラノ家暗殺の真実(前編)
◆ルミナール艦内・メインラウンジ
レオは、指先が、わずかに震えている。
静かな声ではっきりと言った。
「みんな、手を貸してくれないか?」
全員の視線が集まる中、レオは顔を上げる。
「俺の妻、アクア・ミラノ」
一拍。
その名に、ルビィが息を呑んだ。
「オリオン博士の……お母さん」
レオは小さくうなずく。
「ルミナス号が出航して、約一一ヶ月後」
レオは淡々と、だが噛みしめるように続ける。
「アクアは……射撃による暗殺で亡くなっている」
胸の奥に沈めてきた事実だった。
レオは静かに続ける。
「俺は七八の記録で知った。暗殺事件は五〇年も前の出来事だ。過去は変えられない……そう思って、受け入れるしかなかった」
そこで、言葉を区切る。
「でも、今は違う」
はっきりと前を見る。
「俺たちは――まだ、その“前”にいる」
「助けたい」
沈黙。
そのとき、サイモンが思い出したように口を開いた。
「……なあ」
視線を泳がせながら。
「ルミナス号、設計したの…アクアさんだったよな?」
レオが頷く。
「ああ、アクアが総責任者だ」
サイモンは遠い記憶を手繰るように言う。
「出航のカウントダウンの時さ、通信で声かけてきたの……あれも、アクアさんだった?」
一瞬、場の空気が柔らぐ。
「……そうだ」
レオは小さく笑った。
「最後に聞いた声だ」
その空気を、静かに切ったのはアストラだった。
『補足します』
『アクア・ミラノ、享年二八歳』
全員がアストラを見る。
『アクア・ミラノ暗殺事件』
淡々とした声。
『発生日時――L.C.四二八年七月一九日、午後一四時二〇分』
一拍。
『現在時点から、二八日後です』
数字が、現実として落ちてくる。
『犯行に関与した組織は、L.C.四三一年一月二九日に摘発されることになります』
『原因は、アリエス・ミラノ博士への二度目の暗殺未遂が、逮捕の決定打となりました』
『ただし』
アストラは続ける。
『アクア暗殺の“実行犯”は、特定されていません』
ホログラムに、事件の一覧が浮かぶ。
《暗殺・アクア・ミラノ》
《暗殺未遂・アリエス・ミラノ》
《暗殺未遂・バルゴ・ミラノ》
《暗殺未遂・リブラ・ミラノ》
《暗殺未遂・アリエス・ミラノ》
『アクアさん以外の三人は、すべて失敗、警戒の強化もありますが――』
一拍置いて。
『使用された射撃技術が、異なります』
結依の眉が、わずかに動く。
『アクア暗殺時の手口は、“二射撃ち”』
『極めて短時間――〇点数秒以内に二発。命中部位は、頭部と胸部』
沈黙。
『確実に仕留めるための、プロの技術で、“零間二射”と呼ばれる修得困難な技術です』
その言葉を聞いた瞬間だった。
結依の表情が、凍りついたように止まる。
「……零間二射?……」
喉が、かすれる。
「それ……」
視線が、無意識に自分の手を見る。
「私……知ってる」
全員が結依を見る。
「その撃ち方…零間二射…」
結依の声が、わずかに震える。
「私、父から教わった」
「もしかしたら、私の父が…」
空気が、更に重くなる。
即座に、アストラが言い切った。
『否定します』
『結依さんの父親が関与する可能性はありえません』
結依が顔を上げる。
『時間軸が一致しない』
『我々の時代から五〇年前の現在、結依さんの父親はまだ誕生していません』
少しだけ、間を置いて。
『しかし、同一系統の射撃技術が使われた可能性は高いです』
結依は、ゆっくり息を吐いた。
「じゃあ、父が学んだ“元”が……?」
アストラがわずかに頷く。
『そのスキルを持つスナイパー、もしくは同じ系譜の訓練を受けた人物が、アクア暗殺の実行犯である可能性があります』
静まり返る艦内。
レオは、拳を握り、低く言う。
「止めたい。助けたい」
その足元で、フェザーが小さく鳴いた。
「きゅ」
まるで、決意に応えるように。
六人は、避けられない“一ヶ月後”へ向かって、動き出した。




