☆ふたりの子供(前編)
◆ルミナール艦内・メインラウンジ
警告音が止んだあとも、ブリッジには重苦しい静寂が残っていた。
赤い警告灯だけが、ゆっくりと艦内を照らしている。
アストラは、はっきりと告げた。
『第一項。ルミナール号には、タイムマシーン機能が存在します』
空気が、完全に止まった。
『設計者は、サファイア博士。この機能は、正式な設計図には一切記載されていません』
結依の声が抜ける。
「……は?」
アストラはそのまま続ける。
『第二項。ルミナール号は、アデーロス第三銀河への最初のワープ時、タイムマシーン機能が自動起動するよう設定されていました』
レオの視線が鋭くなる。
「……自動だと?」
わずかに低く言葉を落とす。
「タイムマシーンは再突入時に、衝撃があるだろう。気が付かなかったのか?」
ルビィが息を詰まらせる。
「あっ……確かに、かなりの衝撃が……」
結依がすぐに続く。
「第三型のワープは、私たちは初めてだったので、そういうものだと……」
アストラが告げる。
『時間設定は、五〇年前の過去』
その数字に、全員の呼吸が止まる。
『正確には。ルミナス号が出航した六〇日後』
ダイヤが一歩だけ後ずさる。
「……待って……」
レオが低く差し込む。
「何が目的だ?」
アストラは、ためらいなく続けた。
『目的は明確です。五〇年前、行方不明となり、死亡認定となったルミナス号の三名を救出すること』
『作戦名、タイムジャンプ・レスキューミッション』
視線が、ルミナス号の三人へ向く。
『オリオン博士の父――レオ・ミラノ』
レオの目が見開かれる。
『サファイア博士の母――ダイヤ・デズモンド』
ダイヤは言葉を失った。
『そして――』
アストラが最後の事実を告げる。
『サファイア博士は、ダイヤさんの細胞から生成された人工子宮により誕生しました』
『父親の遺伝情報は――』
『レオ・ミラノ』
完全な沈黙。
その中で、フェザーが「きゅ」と小さく鳴いた。
誰も動かない。
ただ、その声だけが空間に残る。
『つまり、サファイア博士は、ダイヤさんとレオさんの娘です』
ルビィの呼吸が止まる。
『加えて、オリオン博士とサファイア博士は、兄妹になります』
結依が、かすれた声を絞る。
「……じゃあ」
アストラはさらに告げる。
『清水結依さん。あなたの母方の祖父は、サイモン・マクレーンさんです』
サイモンが思わず手をつく。
「え?……俺が?」
『記録上、間違いありません』
アストラが全員を見渡す。
『結論を述べます。ルミナール号のクルーの人選は、偶然ではありません』
『レオさんとダイヤさんの孫――ルビィさん』
『サイモンさんの孫――結依さん』
『レオさんの息子オリオン博士により設計された私、アンドロイド――アストラ』
『レオさんとダイヤさんの娘――サファイア博士により作られたルミナール号』
『すべては、ルミナス号を救うために、計画されました』
理解が追いつかない。
ルビィが震える声で漏らす。
「じゃあ、私たちは……」
アストラが静かに答える。
『はい、ルミナス号が未来に来たのではありません』
『ルミナール号が、五〇年前の過去へ来たのです』
世界が反転する。
誰も言葉を発せなかった。
重苦しい沈黙の中。
ダイヤが、ゆっくりと息を吐いた。
「……タイムマシーンだったのか」
少しだけ目を伏せる。
「私は、第二世代型ワープの事故だと思っていた」
アストラの声が静かに響く。
『申し訳ありません』
『ルミナール号が、ここアデーロス第三銀河へ到達した際、“外部空間に微弱な位相ズレ”を検知していました』
『ですが、数値は誤差範囲内と判断。異常判定には至りませんでした』
結依がすぐに首を振る。
「アストラは悪くないよ」
苦笑のように息を漏らす。
「私たちだって、全然気づかなかったし……」
ルビィも小さく頷いた。
「うん……。第三型ワープ特有の揺れだって、みんな思ってた」
ダイヤは静かにモニターへ視線を向ける。そこには、オリオンとサファイアが残した記録データが映っていた。
「……かなり念入りに仕込まれた計画だね」
感嘆にも似た声だった。
「ルビィと結依だけじゃない。アンドロイドのアストラまで騙すなんて……」
一瞬だけ、口元がわずかに緩む。
「オリオンも、サファイアも。本当に、とんでもない兄妹だわ」
レオは腕を組んだまま、黙り込んでいる。
――五〇年前に消えたはずのルミナス号。
それを救うために作られた船と選ばれた乗組員。
すべてが、最初から決められていた。
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