☆任された星で
◆発着デッキ
ルミナール号は、すでに空の点になっていた。
光の尾も消え、エンジン音の余韻だけが、しばらくデッキに残る。
やがて、それも完全に途切れた。誰かが立ち去る足音がする。
振り返らなくても、仲間たちが気を遣って離れていったのがわかった。
そして、フェザーが一人デッキに残った。
風が吹き抜ける。
広いはずの発着デッキが、妙に静かだった。
フェザーは、空を見上げたまま、しばらく動かなかった。
(――あっという間だったな)
移住計画。
ワープ理論。
巨大甲虫。
ゲート。
恐竜。
プロトコル。
頭の中に、ひとつひとつが浮かんでは消えていく。
どれも、最初からうまくいったものなんてなかった。
ぶつかって、失敗して、何度もやり直して。
それでも止まらなかったのは――止まれなかったからだ。
問題だらけで、正解なんてどこにもなかった。
それでも、進むしかなかった。
ふと、足元に視線を落とす。
デッキの床に、モコルの毛が一本、落ちていた。
白くて、柔らかい、小さな一本。さっきまで、確かにここにいた証拠。
フェザーはそれを拾い上げ、指先で軽くつまむ。
風に揺れそうになるそれを、そっと押さえた。
「……名前、か……」
小さく息を吐く。
(自分の名前が、あんなふうに誰かに託されるなんて、考えたこともなかった)
呼ばれるものじゃない。
背負うものでもない。
ただ、自分を示すだけの記号だと思っていた。
けれど――
あの瞬間。
ダイヤは迷いなく、その名前を選んだ。
まるで、当然みたいに。
信頼と、役割と、これから先を全部まとめて。
フェザーは、ほんのわずかに目を閉じる。
胸の奥に残る感覚が、静かに形を持ちはじめる。
(……重いわね)
思わず、そんな言葉が浮かぶ。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ――
(悪くない)
フェザーは目を開ける。
遠くの空は、もう何も見えない。
点も、光も、影すらも。
それでも、確かにあそこにいる。
ダイヤたちが。
別の星へ向かって、進んでいる。
自分が残したものと、自分が託されたものを抱えて。
フェザーは、ゆっくりと息を吸う。
胸の奥に残っていた揺らぎを、整えるように。
そして、背筋を伸ばす。
「やるしかない、か」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
声は小さかったが、確かな輪郭を持っていた。
恐竜と人類。
二一億の命。
そのすべてが、この星にある。
簡単な未来じゃない。
ひとつ間違えれば、全部が崩れる。
それでも――
ダイヤたちは、信じて飛び立った。
この星を。
ここに残る人たちを。
そして――フェザーを。
フェザーは、もう一度空を見上げる。
何もないはずの場所に、視線を向ける。
そこに続いているはずの航跡を、心の中でなぞる。
見えない線を、確かめるように。
「……行ってこい」
ぽつりと、言葉が落ちる。
それは、見送る言葉であり、送り出す言葉だった。
そして、少しだけ間を置く。
ほんのわずかに、口元が緩む。
「こっちは、任された」
その言葉には、迷いはなかった。
フェザーは、手の中の毛をそっと握り直す。
それから、静かに歩き出す。
踵を返す。
背後には、新しい世界。
前には、守るべき現実。
一歩。
また一歩。
その足取りは、ゆっくりと、だが確実に重みを持っていた。
デッキに残っていた静寂は、彼女の足音とともに、少しずつ形を変えていく。
ただの静けさではない。
始まりの前の、わずかな余白へと。
フェザーは振り返らない。
もう、見送る側ではないからだ。
ここからは――
守る側だ。
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惑星間の移住計画が完全に終わってしまった。
ジュラシックアースのキャラとのお別れが淋しいです。
閑話とかで出せたら良いなっと思います。
明日から新しい章です。




