☆フェザーという名の贈り物
◆ルミナール号・発着デッキ
巨大なデッキに、ルミナール号が静かに待機している。
エンジンはまだ眠ったままなのに、時間だけが先に動き始めていた。
フェザー、クラウド、カイトたちも、その流れのままダイヤたちとデッキへ向かった。
すでに待っていたのは――
アンデル、グリム、ガスト、シロッコ、エアロ、バルン、アン、ゼン。
アンデルが腕を組み、低く言う。
「ほんとに行っちまうんだな」
シロッコが軽く笑いながらも、どこか寂しそうに続ける。
「……行かない理由がなくなった、って感じですね」
アンデルの隣で、グリムがルビィの髪を見て目を細めた。
グリムが静かに言う。
「あれ、ルビィさん。髪の色、戻ったんですね」
ルビィが自分の髪を指先でつまむ。
「うん。さっき鏡見たら、いつの間にか戻ってた」
グリムが淡々と続ける。
「私の爪が光る副作用も、二日前にやっと治った」
そう言って、指先をひらひらさせる。もうあの淡い発光はない。
その横で、ガストが自分の顎を撫でた。
「俺もだ。ほら」
指の間から、ようやく伸び始めた髭が見える。
ガストが笑う。
「副作用で髭が全部抜けたときは、どうなるかと思ったぜ。最近やっと生えてきたんだ」
エアロがルビィを見て、にこっと笑う。
「でも、やっぱり金髪のほうがルビィさんらしいです」
ルビィが少し照れたように笑った。
するとガストがニヤニヤしながら口を挟む。
そして、からかうように言う。
「まぁでもよ、ルビィが黒髪のときはちょっと便利だったぜ」
ダイヤとルビィを見比べながら続ける。
「二人、顔が似てるからな。髪の色が違うほうが見分けやすかった」
ルビィがすぐに振り向く。
「ちょっと、ガスト!」
ダイヤは吹き出しそうになりながら、小さく肩を揺らした。
デッキに、小さな笑いが広がった。
そのとき、エアロが腕の中の例のモコルをダイヤに差し出した。
「ダイヤさん」
「この子も……連れて行ってください」
モコルは「きゅっ」と鳴いた。
ダイヤは一瞬驚き、それからぱっと笑顔になる。
「本当にいいの?」
エアロが頷く。
「はい。この子、もうダイヤさんに懐いてるので」
ダイヤはモコルを抱き上げ、にこにこと笑う。
ダイヤが嬉しそうに言う。
「じゃあ、この子も一緒に出発だね」
アンデルがすかさず口を出す。
「名前、つけないの?」
ダイヤが首をかしげる。
「モコルは名前じゃダメ?」
カイトが少し笑いながら口を挟む。
「“モコル”は種の呼び名ですからね。人間を“人間”って呼ぶようなものですよ」
そして、優しく続ける。
「せっかくなら――ダイヤさんが、この子だけの名前をつけてあげてください」
ダイヤが小さく声を漏らす。
「……あ」
ガストが勢いよく言う。
「よし! じゃあ俺が命名してやろう!」
結依が即座に言う。
「やめて」
グリムが指を立て、自信満々に言う。
「ここはカッコよくいこう。《ノヴァ・フェンリル》とか」
「いや、《アーク・ストーム》も捨てがたい」
ルビィが冷静に指摘する。
「それ、どっちも戦艦の名前だよ」
シロッコが静かに言う。
「……その子、女の子ですよ」
「可愛い名前のほうがいい」
アンが元気よく言う。
「じゃあ、“モフっち”だすな」
ゼンも続く。
「“モッフン”っす」
ガストも乗っかり、笑いながら言う。
「“モコ・ザ・グレート”!」
モコルが、誇らしげに胸を張る。
結依とルビィが同時に言う。
「調子に乗らせないで」
デッキに笑いが広がる。
ダイヤはモコルを抱えたまま、少し考え込んだ。
「……うーん」
しばらく沈黙。
みんなが見守る。
そのとき、バルンが静かに口を開いた。
「一案ですが、この星での思い出にちなんで……ダイヤさんが、ここで一番信頼した方の名前にするのはどうでしょう?」
ダイヤは、はっとして顔を上げる。
そして――
自然と、フェザーを見る。
フェザーは気づき、わずかに眉をひそめた。
フェザーが短く言う。
「……なに?」
ダイヤが静かに言う。
「移住計画も」
「恐竜との外交も」
「フェザーがいなかったら、成し遂げられなかった」
モコルが、フェザーの方を見て「きゅ」と鳴く。
ダイヤはほほえみ、はっきりと言う。
「この子の名前は――フェザー
」
フェザーが即座に声を上げる。
「は!?」
「やめて! 絶対やめて!」
だが周囲は一瞬静まり――
次の瞬間。
アンデルが笑う。
「いい名前じゃん」
ガストが頷く。
「似てるし」
シロッコが腕を組む。
「責任感あるとこも」
ゼンがぼそっと言う。
「モコモコしてるとこもっす」
フェザーが鋭く言い返す。
「後半、余計だから!!」
だが、ダイヤの表情を見て、フェザーは言葉を失う。
フェザーは小さく息を吐き、視線を逸らしながら言った。
「……その名前を背負わせるなら、ちゃんと大事にしてあげてね」
「置いていくこの星のことも、忘れないで」
ダイヤは、強く頷いた。
「うん。約束する」
ハッチが、低い音を立てて開く。
レオが短く告げる。
「時間だ」
サイモンが少しだけ寂しそうに言う。
「別れって、慣れないなぁ」
ルビィと結依、アストラも乗り込む準備をする。
クラウドが大きく手を振る。
「次に会う時は……もっとマシな肩書きでいるよぉ〜」
ガストがすぐに言う。
「俺は大統領になってるから」
カイトが穏やかに笑う。
「この星は任せてください」
ダイヤは最後に振り返る。
仲間たち全員を見て、静かに言う。
「ありがとう」
「本当に」
六人がルミナール号に乗り込む。
ハッチが閉じる。
フェザーは、誰にも聞こえないくらい小さく呟いた。
「……行ってらっしゃい、ダイヤ」
ゴォォォォォン――!
ルミナール号のエンジン音が響く。
光の中へ――
そして宇宙へ。
――デッキには、見送る者たちと、新しい世界を守る覚悟だけが残っていた。
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