☆プロトコルの兆し
一度完結しましたが、ブラッシュアップしての1話目、【第零章】から再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。
完結してる作品なので、完結は必ずします。
「」人のセリフ
()心の声
『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。
※私の小説のルールです。
◆恐竜生態調査・第七観測エリア
湿った風が草原を撫でるように揺らし、低く唸るような鳴き声が遠くから重なって響いていた。
巨大な草食恐竜の群れが、ゆっくりと地平線をなぞるように移動している。空気は重く、だがどこか規則的な気配を孕んでいた。
フェザーが端末を覗き込みながら言う。
「で、これが“安全距離”だね」
フェザーは視線を上げ、群れの先頭付近を指で示した。
「前回より三メートル前進してる。あの角付き、機嫌悪そう」
クラウドが双眼鏡を下ろし、軽く首を振る。
「それ毎回言ってるよぉ〜?」
クラウドは双眼鏡をくるくる回しながら続ける。
「縄張り意識が強い個体ほどぉ〜、繁殖期は過敏になるねぇ〜。データ通りだねぇ〜」
ダイヤは二人の会話を聞き流しながら、じっと群れの中心を見つめていた。
群れの中央には、やや小柄な個体がいる。体格こそ小さいが、その視線はぶれず、周囲の大型個体が一定距離を保ちながら円を描くように動いていた。まるで、目に見えない線がそこに存在しているかのように。
ダイヤがぽつりと呟く。
「ねえ」
フェザーが端末から目を離さずに応じる。
「なに?」
ダイヤは視線を外さずに続けた。
「今、あの真ん中のやつ、何してると思う?」
フェザーが操作を続けながら答える。
「えーっと……あ、繁殖行動の前段階。守られてる個体かな、たぶん」
「違う気がする」
ダイヤはゆっくりと首を横に振る。
「“守ってる”ってより、場所を共有してる感じがする」
クラウドが眉を寄せる。
「共有ぅ〜?」
ダイヤが小さく頷く。
「うん。あの距離、近すぎない?」
確かに、凶暴性が高いはずの個体同士が、不自然なほど落ち着いている。威嚇は最小限、鳴き声も必要以上に発せられていない。
ダイヤは続ける。
「繁殖期なら、もっと騒がしくなるはずだよね」
ほんのわずかに目を細めた。
「でも、あれ……順番待ちみたいじゃない?」
フェザーが思わず吹き出す。
「なにそれ、恐竜の行列?」
ダイヤは地面にしゃがみ、草を一本折る。
「立ち位置、角度、鳴き声の高さ……無秩序に見えて、型がある」
クラウドの表情が変わる。
「確かにぃ〜。縄張り争いの時とぉ〜、動きが違うねぇ〜」
その瞬間だった。
群れの外縁にいた一体が、ゆっくりと首を下げ、低く短い鳴き声を発した。
それに呼応するように、他の個体も同じ音を返す。
フェザーが小さく呟く。
「今の、合図?」
ダイヤの目がわずかに見開かれる。
「うん」
そして、確信を込めて言った。
「言葉じゃないけど、ルールだね」
ダイヤは立ち上がり、無意識に姿勢を正していた。
「凶暴性も、繁殖も、縄張りも、全部、勝手にやってるんじゃない」
一拍置いて、静かに続ける。
「決まったやり方がある」
クラウドがぽつりと呟く。
「プロトコル……みたいなぁ〜?」
その言葉に、ダイヤははっとする。
「それだ!」
風が強く吹き、草がざわめき、鳴き声が幾重にも重なる。
ダイヤの胸の奥で、何かが引っかかる。
(私たち、人間は――何も出してない)
恐竜たちは互いに何かを示し合っている。だが人間は、ただ観測しているだけだ。
ダイヤがフェザーを見る。
「ねえ、フェザー」
フェザーが顔を上げる。
「なによ?」
ダイヤは一歩踏み出しながら言う。
「もしさ」
ゆっくりと、恐竜の動きをなぞるように。
「私たちが、あの“合図”を出せたら、どうなると思う?」
フェザーとクラウドが顔を見合わせる。
「危険だよぉ〜?」
クラウドが言う。
ダイヤが小さく笑う。
「うん。たぶん」
だが、その目は逸れない。
「でもさ。出さないまま近づく方が、もっと失礼じゃない?」
その言葉に、空気が一段重くなる。
恐竜の一体がこちらを見る。威嚇でも無関心でもない、“確認するような視線”。
ダイヤはそれを受け止める。
「挨拶してみる」
「は?」
フェザーが思わず声を上げる。
ダイヤは小さく息を吸う。
「……あ”ぁ”」
低く、短い音。
「え、ちょ――っ」
フェザーが慌てて手を伸ばす。
しかし、その制止より早く――
ダイヤは一歩、前に出ていた。
「ダイヤ!? 距離!!」
フェザーが叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫」
ダイヤが答える。
全く大丈夫ではない距離だった。
ダイヤは背筋を伸ばし、視線を上げすぎず下げすぎず、恐竜に合わせるように膝を緩める。
「待って待って待って!」
フェザーが青ざめる。
「それ、完全に“挑発”か“捕食前”のどっちかだから!」
「違うよ」
ダイヤが静かに言う。
「今の彼ら、“主張”じゃなくて“確認”だもん」
そして――
ダイヤは足を強く一度、踏み鳴らした。
ドンッ。
クラウドが固まる。
フェザーが声を裏返らせる。
「ダイヤァァ!?音出した!? 今、音出したよね!?」
続けてダイヤは右手をゆっくりと横に広げる。
力の抜けた、開いた腕。
「……う”ぅ”」
息に近い音。
空気が止まる。
時間が一瞬、引き延ばされたようだった。
群れの外縁にいた大型個体が、首を上げる。
「来るっ……!」
フェザーが叫ぶ。
だが――
突進は来なかった。
代わりに、その恐竜が一歩、踏み鳴らす。
ドンッ。
低い鳴き声。
クラウドが震えた声で呟く。
「かっ……返したぁ〜?」
ダイヤが静かに頷く。
「うん」
その口元が、ほんの少しだけ緩む。
「返事だね」
群れの中心の個体が、ゆっくりと首を下げた。
威嚇ではない。受け入れの姿勢。
フェザーが呆然と立ち尽くす。
「ちょっと待って……今の、偶然?」
「違うと思う」
ダイヤが答える。
「順番、距離、音、姿勢……全部、“仲間同士で守るための手順”だねぇ〜」
クラウドが乾いた笑いを漏らす。
「……いきなり使う?」
フェザーが言う。
「使わないと、わかんないでしょ」
ダイヤが笑う。
「私たち、人間側だけが“何もしない”の、やっぱり失礼だよ」
そのとき、一体の恐竜がゆっくりと背を向けた。
逃げるのではない。
“ここにいていい”という許可。
フェザーが深く息を吐く。
「……ダイヤ」
「なに?」
「あとで、絶対、会議になるからね」
ダイヤがにこっと笑う。
「成功例として?」
フェザーが額を押さえる。
「……危険行為の第一号として」
クラウドがぼそりと呟く。
「どっちにしてもぉ〜、歴史に残るやつだねぇ〜」
ダイヤは、もう一度だけ群れを見つめた。
(やっぱり、この恐竜たち……話せる)
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明日も朝と夜で2話あげます




