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二回戦の相手は、2A。
コートの中央で対峙すると、一回戦とはまた趣の違う五人組だった。
端的に特徴を言うなら、体格が良くガラが悪い。
髪型で区別すると、茶髪、金髪、ドレッドヘア、モヒカン、スポーツ刈りの五人組。
最後のスポーツ刈りだけは字面では人畜無害そうだが、とんでもない巨体の持ち主だった。
身長百八十五センチの松田に空気入れを刺して五回ほどポンプを押した程度、とでも言えば良いのだろうか。
「ラグビー部の細谷くんだよ」
耳打ちしてくる松田に、正和の顔がひきつった。
「……名前詐欺だな。あの腕、俺の太ももくらいあるぞ」
高校一年と名乗っても九割以上は信じてもらえなさそうな、堂々の体格だった。
「誰かと思ったら、松田じゃん。お前、バスケなんかやんの?」
視線に気づいた細谷が、見た目通りの野太い声で顔見知りらしい松田に話しかける。
想像よりもフレンドリーで爽やかな口調だった。
「やるっていうか、なんていうか……ほぼ初心者なんだけどね」
「Cだろ?ゴール下、勝負な」
「お、お手柔らかにお願いね」
体育会系な二人が節くれだった手同士でがっちりと握手する。
二人の周囲の気温が二、三度上がったような気がして、正和はげんなりした。
「み、みんな、おっきい……。わ、私、ぺちゃんこにされそう……」
ビジュアルで気圧されて泣きそうになっている真菜の背中を、涼子が軽く叩く。
チャージングを貰ったりスクリーンをかけたりするのが活躍の手段である彼女としては、目の前の光景はかなりの恐怖だろう。
「真菜は今回無理しなくていいわ。私と涼子で稼げるだけ稼ぐから」
「そーゆーこと」
「それとマツケンくん、リバウンドしっかりね。特にディフェンス」
「……了解」
冷や汗を浮かべた松田の顔が引き締まる。
「俺には?何か指示は?」
尋ねる正和に、累は顎に指を当てて思案しながら答える。
「一つでも多く、涼子と私にパスを通して。パスがどうしても無理なら、強引にでもシュートに持っていって」
「あんまし入んねぇぞ?」
「構わないわ。そのためのマツケンくんよ」
隣で松田が小さく頷いた。
礼を済ませて、自陣で円陣を組む。
例によって、累が鬨の声を担当する。
「いーことあるぞー?!♪」
『ミス◯ードーナッツ!♪』
二回戦が始まった。
—
ジャンプボールは細谷に奪われた。
長身な割に身軽そうな茶髪がボールを拾い、軽い足取りのドリブルで切り込んでくる。
正和が必死にディフェンスで食らいつくが、突破を許した。
ゴール下で待ち構える松田にシュートフェイクを仕掛けて金髪にパス。
受け取った金髪が楽々シュートを決めた。
「ドンマイ。すぐ取り返すわよ」
涼子からのスローインで再開。正和が受け取る。
2Aのメンバーの戻りが遅く、付け入る隙在りと見た涼子がすぐさま正和からボールをひったくる。
みるみるうちにドリブルを加速させ、ディフェンスの合間を縫ってあっという間にゴール下までたどり着いた。
「よーい……っしょっと!」
C細谷との身長差が圧倒的と見るや、素早いバックステップで距離を取り、軽く飛び退きながらのジャンプシュート。
ブロックに飛んだ細谷の指先数ミリ上を通過したボールは、ボードに跳ね返ってリングの中に落ちた。
「ナイス桑島!」
「なんだかディフェンスはヌルいわ。杉田でもドリブル突破狙えるかもよ」
涼子と正和がハイタッチする。
攻守交代。
ディフェンスでは真菜の穴が顕著になる。
四人がどれだけマークを徹底しても、一人はほとんど完全フリーの相手が出来てしまう。
しかし、相手チームはせっかくのアドバンテージを活かそうとはしなかった。
先ほどと同じく、ドリブルによる侵入を狙ってくる。
「桑島」
「オッケー!」
正和が合図すると歯切れの良い返事が返ってくる。
声の位置から判断して、右手側にスペースを作る。
茶髪は迷わずその隙間に飛び込んできた。
パスはないと判断して、涼子はマークの相手を放棄して正和のフォローに入った。
正和を抜いたと思いきや涼子のヘルプに出くわし、茶髪のドリブルが乱れる。
バックチェンジを試みた瞬間に正和の手がボールを弾く。
「わり、取り損ね」
「うぅん、上出来!」
転々と転がるルーズボールをそのままドリブルして、敵陣に駆け出す涼子。
カウンターの速攻。
相手コートに一人残っていた細谷と対峙し、一瞬減速すると見せかけて、左足を軸に時計回りのターン。
スキール音すら置き去りにするような快速で、巨体の横をすり抜ける涼子。
コート内の九人を完全に振り切って、そのままフリーでレイアップを決めた。
「桑島って、すげぇんだな」
しみじみ漏らす正和。
累に惨敗した時のイメージを塗り替えて余りある活躍ぶりだった。
「見直したでしょ?でもまだまだなんだから」
攻守ともに、涼子は全開だった。
パスを通すのも、ディフェンスで相手からボールを奪うのも、素早さで相手を撹乱する涼子の存在感がその難度を著しく下げてくれていた。
相手チームが涼子に警戒し始めたあたりで、正和は満を辞して累にパスを出した。
「あら、忘れられてるのかと思ったわ」
シュート練習でもするように気楽に、喋りながらボールを放る累。
「何、累。ヤキモチ?」
冷やかす涼子に、累は無言で肩をすくめる。
当然のように、ボールはゴールに突き刺さった。
その後も、3Bの優勢は続いた。
松田はゴール下できっちりとディフェンスリバウンドを拾い、正和を経由して涼子へ繋いでカウンター。
このパターンが何度か繰り返され、更に忘れた頃に累のスリーポイントが決まる。
得点は16-6。
点差が開くにつれて2Aの動きは単調になっていった。
体格的なアドバンテージを全く活かせず、ただ涼子の動きに引っ掻き回されている感覚に焦りが募っているのだろう。
試合を折り返して、気がかりなことといえば、相手チームの雰囲気の悪さだった。
チームメイト同士でお互いのミスを口汚く罵ったり、ボールを奪われると暴言を吐いたりと、とにかく荒れている。
その様子に松田と真菜は怯え、涼子と正和は呆れ、累は無反応だった。
後半開始直後、相変わらず絶好調の涼子が一人でボールを運ぶ。
躍るように軽やかにドリブルで敵陣に食い込み、右へ左へ体を翻す。
巨体がひしめき合うゴール下に潜り込み、ゴールの裏側のスペースをくぐり抜け、再びゴール正面に躍り出る。
試合開始直後の得点と同じく、フェイダウェイ気味のジャンプシュートを放とうとタメを作った瞬間、それは起こった。
モヒカン頭が、涼子の左斜め後ろから距離を詰める。
シュートブロックに跳ぶにはわずかに遅いタイミングだったが、彼の目的はボールではなく、涼子の足元だった。
ジャンプシュートを放った直後、着地を試みる両足を刈るように足を伸ばす。
「わっ……っ!?」
バランスを崩した涼子は、崩れ落ちるようにコートに倒れ込んだ。
「……っ……今わざと!!」
叫びながら、正和はモヒカン頭に駆け寄りかけ、足元の涼子の異変に気づいて立ち止まる。
「……っ……!」
左足を抱えて顔を歪めている。
「桑島?!大丈夫か?!」
「……ぅっ……」
答えはなく、うめき声だけが上がった。
累と真菜も駆け寄ってしゃがみ込む。
「……足を酷く捻ったようね」
「涼ちゃん……」
「だ、大丈夫……。大した事ない。ちょっと休めば、すぐ走れるから……だいじょ……っ」
絞り出すように答えて、心配させまいと立ち上がろうとする涼子だったが、あまりの痛みに言葉は途切れ、すぐにしゃがみこむ。
気丈に振る舞うのもそれが限界だったらしく、涼子はうなだれて黙り込んでしまった。
「……見てたぞ、そこのモヒカン。てめぇ、足引っ掛けやがったな!」
怒りに震える声を荒げて、正和はモヒカン頭に詰め寄る。
「は?何言ってんの?笛も鳴ってねぇけど?」
審判からは、ちょうど正和の体でブラインドになっていたのかもしれない。
何にしても、今の正和に審判に対して改めて抗議を行うような冷静さは残っていなかった。
いけしゃあしゃあととぼけ顔でしらばっくれる目の前の相手に、正和はきつく右の拳を固める。
「す、杉田くん!」
真菜の制止の声を無視して、正和がゆっくりと右腕を振り上げた。




