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終わってみれば、点差は24-10で、3Bの圧勝だった。
試合終了の笛と同時に、累以外の四人が歓声を上げた。
「まずは一つ、ね」
「ほとんど累ちゃんと涼ちゃんのおかげだけど……」
「いやいや、真菜ちゃんのスクリーン、三回もパス通したじゃない。松田はことごとくシュート外してたけど」
「う……」
「まあまあ、とりあえずよかったんじゃんか、勝ったんだし」
それぞれに戦果を振り返りながら、正和はそれとなく累の様子を伺っていた。
いつものように飄々とした表情を浮かべながらも、肩をさすったり首をすぼめたり、普段はしない仕草を垣間見せているのが気になっていた。
「さて、今のうちにエネルギー補給しときましょ」
言って、涼子は体育館の隅に置いてあった銀色の保冷バッグを持ち上げる。
中にはバナナやパウチ入りのゼリードリンクが人数分用意されていた。
「あ、涼ちゃん準備いい」
「ふふん、伊達に委員長やってないわよ。じゃ、一旦教室に戻りましょ」
「…………」
「累?」
「私はいいわ。少し、他のチームの試合の様子を確認しておきたいから」
十分のインターバルの後、二面のコートではそれぞれ3A対2C、1B対2Aの試合が実施される予定になっていた。
そのうち1B対2Aの勝者が、次の正和たちの対戦相手だ。
選手兼監督である累としては偵察をしておきたいという心理も最もだった。
しかし、それを口に出す累の姿に、正和はまたしても違和感を覚える。
いつもなら、重要なことはいつの間にか人知れず済ませて当然という顔をしている癖に、今日に限ってどうしたというのか。
「随分慎重ね。私とアンタがいればどうせ楽勝よ。相手がどんなチームかなんて関係ないじゃない」
「用心に越したことはないわ。私のことは気にしなくていいから、教室で休んでいて」
「あ、累。待って」
一方的に言って、きびすを返そうとする累を呼び止める涼子。
「ちゃんと飲んで、食べておきなさい。アンタは体だけじゃなくて頭も使ってんだから」
涼子は押し付けるように、バナナ二本とゼリードリンク二つを累に渡す。
累は少し意外そうな顔でそれを受け取った後、薄く微笑んだ。
「ありがとう。いただくわ」
教室へ戻ろうと渡り廊下に出て行く涼子たちを見送りながら、正和は短くため息をついた。
一生ものの遺恨を残しても不思議ではなかったバドミントンの試合から、良くここまで関係改善したものだ。
能力だのチャクラだのという出鱈目をどうやって解決させるのかという課題を残してはいるのだが。
「正くん?教室に行かないの?」
「ん?あぁ、まあちょっとな」
なんとなく、累のことが気になって残ったとは言いづらい。
正和の知る累は、いつも捉えどころがなくて心配なんかさせる隙もない。
だからこんな機会は、正和にとっても初めてだった。
—
体育館のステージ裏から鉄製の階段を登ると、二面のコート全体を俯瞰できるキャットウォークに繋がっている。
正和と累は二つのコートのちょうど中央あたりに並んで寄りかかり、階下で繰り広げられる試合の様子を眺めていた。
バスケットシューズのスキール音、ドリブルの音、歓声。
二階にあたる正和たちの居場所からは、どことなく他人事のような距離感を感じる。
その分、すぐ隣に肩を並べる累の存在を、妙に身近に感じたりもした。
「……調子、悪かったりしねぇか?」
真菜や涼子を心配するときには、こんな居心地の悪さを感じたりはしない。
家族にも近いような幼少期を過ごしてきた相手だからこそ、改まって気遣うのは気恥ずかしい。
「別に問題はないわ。いつも通りよ」
素っ気なく返答して、バナナを口に含む累。
「……それ食ってて何もボケがない時点で、いつも通りってのはありえねぇけどな」
「あら、何か期待していたの?」
「……心配してんだよ」
観念したように、正和は白状した。
累は一瞬だけ試合の様子から視線を外して正和を見遣る。
「言ったでしょ?問題はないわ」
「……あっそ」
正和は金属の手すりの上に腕を組んで、その上に顎を乗せる。
「逆に、確認しておきたいことがあるんだけど」
「あん?」
「正くんはこの大会、優勝したい?」
「…………」
顔だけを累に向けて、正和は考える。
また累からの『質問』だ。
過去の経緯から考えると、ここで正和が優勝したいと望めば、累は手段を選ばずそれを実現してくれる。
手痛い代償を払う必要があったりもするが、結果的に正和の願いを叶えてくれる。
疑問に思うことはある。
何故累は正和の望みを叶えようとするのか。
正和が望むことは、累にとってどういう意味を持つのか。
破茶目茶な振る舞いに付き合っている埋め合わせのつもりなのか、それとも全く違う目的があるのか。
「…………」
無表情で試合の様子を見つめている無表情な横顔を眺めて、諦める。
きっと尋ねたところでまともに答えてはもらえないだろう。
「どうせやるんなら、まぁ、優勝してぇな」
だからもう、理由は気にせずに望みだけをぶつけてみることにした。
「それもさ、累に頼りっきりじゃなくて、皆が練習した成果を発揮して、気持ちよく優勝ってのが最高だな」
「…………」
黙考する累。
思えば、作戦立案の時点で得意技の色仕掛けを禁止されている。
その上に、二試合目の直前でこんな難儀な条件を付け加えるというのは、あまりに意地が悪い。
それでも、累ならばそれを実現できるような気もしていた。
不敵に笑う笑顔。
何かを企む怜悧な横顔。
いつの間にか、すぐ隣で彼女を見ていられること、彼女が自分だけを特別視してくれていることを心地良いと感じ始めていた。
少し欲張りかなと自覚しながら、正和は期待を込めた視線を累に投げる。
「……正くんが、そう言うなら」
お決まりの台詞と共に、累が穏やかに微笑む。
「……頼りにしてるぜー。ま、俺もやれるだけはやるから」
正和も、少しおどけて笑った。
望んだからには、正和も全力を尽くさなくてはいけない。
全力なんて言葉、我ながら似合わないとは思うが、今のチームのためならそれも悪くないと思える。
そんなチームだからこそ、一つでも多く歓声を重ねたいと思う。
もし首尾よく優勝することが出来たら、正和は改めて累にお礼をしようかなどと考え始めていた。




