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球技大会当日
例年通り、校内は軽いお祭り騒ぎとなっていた。
丸一日授業を受けずに済むだけでも生徒たちは浮かれ気分なのに、さらにそれぞれの思惑が拍車をかけている。
意中の女子に良いところを見せたい、隣のクラスにだけは負けたくない、などなど。
大会自体は、優勝しても賞品や賞金が用意されている訳ではない。
手に入るのは名誉のみだ。
逆に全敗を喫したとしても何か失うものがあるわけでもない。
それだけに、普段の正和ならば気楽に参加して、勝っても負けてもそれなりに楽しかったと笑っていられただろうと思う。
しかし、それなりの時間を全てつぎ込んで練習し、貴重な休日にまで体力づくりに時間を割いたこの二週間を振り返ると、かすかに胸に込み上げてくるものがあった。
累の練習メニューは、まじめにやればそこそこハードな内容だった。
しかし勉強同様教え方は的確で、苦労したらそれに見合うだけの成長を実感できた。
シュートの精度は見違えるほど上がったし、フェイントをかけたパスのバリエーションは十を超えた。
元々の参加の動機にプラスして、自分の努力がどのくらいの成果に結びつくのかを試してみたいという密かな楽しみもまた、正和の胸の中に生まれていた。
そして何より奇跡的だったと感じるのは、メンバー五人全員が、徹頭徹尾真剣に練習をやり通したということだった。
発案者の松田、勝負事が大好きな涼子はもちろん、運動の苦手な真菜も脱落せずに皆勤で練習に参加していた。
累の監督の仕方が上手かったこともあるが、それ以上にメンバーの熱意が噛み合っていたと正和は感じている。
簡単なようで居て、これは難しいことだ。
性別も性格もバラバラな五人がチームとして一丸になる機会なんて、そうそうあるものではない。
早朝の体育館、五人は連携の最終確認をしていた。
五時起きにも誰も愚痴をこぼさなかった。
ひと汗流し終えたところで、累が集合をかけた。
「さっき、大会本部で試合のスケジュールが配布されていたので、もらってきたわ」
A4判のプリントをメンバーに一枚ずつ配る。
バスケットボールの欄には、トーナメント表が印刷されていた。
「出場チームは八つ。一組・二組からそれぞれ三チーム、三組からは私たちの他に一チームで、合わせて二チーム」
「案外多いんだな」
「花形競技だから、当然よ」
トーナメント表を確認する。
八チームで構成される勝ち抜き戦ということは、三勝すれば優勝ということになる。
「うちらは、この3Bってとこだよな?」
「そうみたいだね」
「最初の相手は……1A?チーム名だけじゃ何の情報もないな」
「……あんまり強いところじゃないといいんだけど……」
不安そうに語尾を窄まらせる真菜に、累は事も無げに言う。
「問題ないわ。どんな相手でも、今の私達なら渡り合えるはずよ」
累の迷いのない言葉に、真菜の表情も幾分か明るさを取り戻したようである。
「んじゃ、こういうときのお約束ね」
涼子が促して、五人は円陣を組む。
体型は凸凹ではあったが、肩を組み合ってみると意外にも心地よい距離感で団結力を共有することが出来た。
「掛け声は誰がやるの?」
「ここはやっぱ累でしょ」
「わかったわ」
「ばっちり揃って、気合が入るの頼むぜ」
累が深く深く息を吸い込む。
「すぐ、そこ!?♪」
全員戸惑いつつも、応えずにはいられなかった。
『サン◯ス!♪』
声は完璧に揃って、累は満足げに頷いた。
「結束はバッチリね」
「……気合は入んなかったけどな……」
—
開会式が終わり、すぐに試合開始となった。
バスケットは試合予定数が多いため、体育館の北側と南側両方のコートを使用することになっていた。
第一試合南側コート、3Bと1Aが中央で顔を合わせていた。
1Aのメンバーは全員男子。
松田のような巨漢はいないが平均身長はかなり高く、例外なくスポーツマン体型だった。
一番小さい生徒でも正和よりは五センチ以上上背がある。
女子生徒三人を擁する正和達3Bと対面して、1Aの面々は軽く肩透かしを食らったような顔をしていた。
ひそひそと耳打ちしあって、何やらニヤニヤと笑っていたりもする。
溜めていた気合をぶつける先を失ってしまったような気の抜けた顔を目の前に並べられ、流石に正和も鼻白んだ。
「累。開幕すぐ、一発御見舞してやれ」
正和が耳元で囁くと、累は事も無げに頷いた。
「正くんがそう言うなら」
ジャンプボール。
身長とジャンプ力から考えて、松田が跳ぶ。
試合開始。
タイミング的には少し遅れたが、それでもボールには松田の手が先に届いた。
自陣コートに向けて弾かれたボールを、正和が拾い上げる。
「累!」
名前を呼んで、チェストパスでボールを回す。
ハーフライン上で、累の胸にボールが収まった。
1Aの選手たちが小走りに自陣ゴールに向けて戻る。
その様子をあざ笑うようにして、累はボールを抱えて溜めの姿勢を作った。
「ちょ、おま……そこまだハーフライン……」
正和の制止の声を聞き終える前に、累の手からボールは放たれていた。
小馬鹿にしたような顔でボールの行方を追う1Aの面々。
慌ててゴール下に駆け込もうとする松田を、累は呼び止めた。
「マツケンくん、ディフェンスよ」
「……お前、漫画のキャラみてーだな」
「確かにどっかで見たことあるわね、こんなの」
呑気に雑談しながら、累、涼子、正和は自陣へと引き返していく。
戸惑う1Aメンバーの頭上で、累の放ったボールがリングの中央へと吸い込まれていった。
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「そこのポニテ!絶対ボール持たすな!」
予測の通り、累は二本のスリーポイントを決めてすぐに徹底マークにあった。
累についた長髪の男子生徒の反射神経は見事なもので、正和が少しでも累の位置を確認するとすぐにパスコースを塞ぎにかかってくる。
スコアは6−2。
幸いなことに敵チームのシュート精度はさほど高くなかった。
涼子と松田のディフェンスもうまく機能してくれているが、相手が面食らっている間にもう少し差を広げておきたい場面だ。
「杉田!」
逆サイドから涼子が正和を呼ぶ。
よく通るその声のお陰で、ノンルックでボールを放り出すことが出来た。
小刻みなステップでマークを振り払った涼子が、スピードに乗った状態でパスを受け取り、そのままドリブルで相手Cの横をすり抜けてレイアップを決める。
決めた涼子は涼しい顔で累に駆け寄る。
「累!今のどうだった?」
「悪くないわ。でもまだ貴女の素の身体能力の範疇よ。もっと深く集中して。体の中央に意識を向けるのよ」
1Aの面子は揃って驚愕の顔だ。
累の出鱈目なスリーポイントを封じたと思えば、男子バスケ部員顔負けのドリブル突破とシュート。
つい数分前まで半笑いで眺めていた相手チームの女子メンバー相手に、立て続けに八点を失っていた。
「……何なんだよ、あの女ども……」
スローイン再開の直前、相手メンバーの悪態が正和の耳に届いた。
焦りが出始めていることを確信して、正和は真菜に目配せを送った。
緊張した面持ちで小さく頷く真菜。
「集中して、一本取ろう!」
ツーブロック頭のPGが声を上げてドリブルでボールをキープする。
マークに付く正和は、意識してドリブル突破におあつらえ向きのコースをちらつかせて誘い込む。
期待通りドリブルで切り込んでくるツーブロックを、正和はあっさりと自陣に侵入させた。
「きゃっ!」
真菜の悲鳴とホイッスルが、同時にコートに響いた。
審判がオフェンスチャージングをコールする。
「ご、ごめん!」
「だ、大丈夫です……」
痛みに顔を歪めながらも健気に笑い、立ち上がる姿を、ツーブロック男は軽く頬を染めて見送る。
その間に累は素早くボールをコートの中に放り込み、涼子が目にも留まらぬ速攻を決めた。
試合のペースは、いともあっさりと正和たち3Bの手中に転がり込んでいた。
「……なんか、僕達いらない子じゃない?」
「……言うなよ、マツケン」




