不条理と条理の日常~少年~夏の入り口
魔王に関する報告書を出してから五日目の朝。二人は別々の人物に起こされ学園長の元へと連れてこられた。
二人とも数日とはいえハードな計画により疲れが癒えていないからと授業を免除されていたのだが。
到着早々に二人は見知らぬ者に拘束され知らない場所へと移送された。
混乱する中で耳栓目隠し鼻栓口にも特別に加工された布を宛がわれて猿ぐつわを嵌められていた。
多層に施された拘束道具により手足も固定されていた。
眠気など吹き飛んでいるし状況も理解できていなかったが、また面倒な事に巻き込まれたのだろうと二人は諦め心で溜め息を吐き出した。
指示されるままに護送車から降り、引っ張られる形で連れていかれる。
何か連行される気分。
そう犯罪者のような気分で少し害する。
しばしして床に膝を着くよう合図され素直に従う。
全ての拘束を解かれ視界には一人の人物。
解らないし判りたくもないけど質問しなかった。
勝手な行動は命を失う道へと続くもの。
何もせず見続ける。
沈黙が痛くて重い。
「これが例の者か。」
《はっ。》
「良い。行動を許可する。我の質問に答えよ。」
喋らない。
「ふむ。弁えておるな。質問は1つ。我が国の派遣部隊を全滅させ宝物を強奪したのはお前達か。」
答えない。
「全ての行動を許可する。と言ったであろう。良い何か発言せよ。」
答えない。
「お前達。まさか喋る事を拒絶するよう細工したか。」
《いえ、その様な事は一切しておりません。指示の通りに拘束を最上にてこの場までお連れしました。》
「なら、なぜこの者達は何も話さないのか。そして何故、私を見ても何も反応しないのだ。」
「え、あれま、反応しても良いのかな。これは失敬。貴方が何者かは聞かない方が懸命な判断でしょう。さて僕達に対する話。その返答を返すなら。知りませんね。派遣部隊。と言われますけど。それはあれですか。僕達に随伴していた方々であるなら。目的を達成させた後に何かをしようとしたので即座に下山していなさいとい言われて素直に従ってから少しの警戒として人としての安易なる懸念を配置してました。それは直ぐに霧散しましたけど。その後は知り得ません。僕達は直ぐに学園へ戻るために手配を整えて帰路に着きましたから。その後は一切の接触はありません。」
「まあ良い。で。」
「ん。」
「それを信じる根拠を示せるのか。」
「ええ。そうですね。僕達は何かに監視されてましたので学園に確認されれば宜しいかと。今から数ヶ月も前ですが。調査に数日は掛かるでしょう。その間に逃げることも、ましてや逃げるように命を断つこともしません。」
納得はされなかったが軽い拘束をされて数日だけ部屋に軟禁された。
後で二人の潔白は証明され学園へと返された。
疲れていた。幾つもの様々な色々とした面倒に行く先々。戻るまでの道中で散々なイザコザや厄介な事故とかに関わらされ疲労がもう満ちに満ちていた。
こうした常態で学園へ到着すると教師が慌ただしく動いている。
二人は深く息を吸い。長く吐き出した。
空は其々の心を混ぜ合わせたような模様。
軽く短く息を吐いて、気をひきしめた。
長い冬季が終わり春も過ぎ去り夏へと季節は移り変わる。
「そろそろ地獄の季節だな。」
「ぇ、そうですね。まあ。」
「なんだ。上の空のような返答は。」
「ん。少し気になるもので。」
「それは大事な事か。」
「いえ、別に急ぎでもありませんし、片手間で済むと思いますよ。」
「そうかよ。じゃとっとと教室へ行くぞ。」
「ええ。そうですね。」
二人は校舎へと入っていった。
照りつける陽光は夏の始まり。その入り口を表すかのように雲を切り裂き地を照らしていた。
七日前。
二人が派遣部隊という工作部隊たる随伴者から離れて懸念という有耶無耶な虚像を置いて消えた後。
さらに虚像を消されてから後。
拘束した対象を特別な技術を用いて運ぶ準備をし下山した。
下山している間にも周囲への警戒は怠らず無事に麓まで降りてこられた。
「さあ後一息だぞ。この森を抜ければ後続が引き継ぎのために待機している。引き継ぎが終われば後は帰るだけだ。俺達は知られない存在だが今回の功績で王から褒美がある。」
俄然気を引き締める。
森の出口が見えてきた。
「止まれ。」
「どうしました。」
「可笑しい。指定された森の出口には判るように支援部隊が居るはずだ。だが。」
「いませんね。」
「いや待て。」
急に鼻を突くような嫌な臭い。
知った臭い。
慌てることなく慎重に森を出る。
その目に映るのは。
地面を染める血と、何も言わず動かない仲間が転がっていた。
その中で異彩過ぎる存在が1つ。
マントを羽織っているが風が吹いているのに靡くことなく揺れる事もない。顔は何か理解できない力でも働いているのか認識できない。
何者かの問いをしたがその発するものは聞いたこともない音であり言語が堪能な隊長であっても解らないのだ。
此方に気づいて何か音を出しているが解らないのだ。首を捻るような仕草に手をポンと叩くと瞬き1つであれだけ在った死体全てが僅かな血も残さずに消失していた。
「んん。なぁ言葉が理解できますか。」
喋った。普通に。
「良かった。それじゃあ簡潔に言いますね。今所有しているものを渡しなさい。この意味を解るなら素直に従いなさい。でないと二度と親しい者達に会えなくなりますよ。」
「はっはは何を言っているのだ。」
「これは失敬。もう少し判りやすく述べるとだね。先ほど回収した物を渡せ。と言っているんだよ。ほら早くしてくれないかな。命を惜しむなら。」
「ば、馬鹿か、何を言っているのだ。」
「おいおいおーい白をきるとは頂く気はないぞ。先程になあ封印した種と呼んでいる物を寄越せと言ってるんだよ。」
「種。とはなんだ。その様な植物の種など。」
「そんじゃあ欠片。もしくは分体。それとも、こう言った方が理解できるかね。初代魔王が死の直前に分かたれた数多有る1つ。一柱駒。とか。」
「ふふ。そんなもの」
「仕方ない。最後の手段のようなもの。」
と拘束し隠蔽していた箱が震える震えて暴れて破壊された。
「なんだよぅ。嘘は駄目だよな。人として。有るじゃん」
「な、こんな事が。長年の研鑽と研究によって簡単に解放出来ないように。」
「そんじゃ返して貰うよ。そうそう。素直に渡してくれたなら。世界と別れる事もなく平穏無事に過ごせたのに、残念でしたっ。」
言葉の意味を理解するよりも小さな悲鳴を聞いて振り返ると隊員の一人が無惨な姿を晒していた。
動揺は伝播し他の隊員も混乱していく。
隊長だけは冷静だった。
「なんだ。これは。と考えるよな。簡単な話。そうだな。人と異なるものとやらの触れてはならない何かに触れたがための罰。逃れる術は。無い。」
次々と隊員が瞬きの間に部位を欠損していく。欠損部分からは何故か血が出ることなく表面は溶かしたように塞がっている。
「好きだねぇ。」
隊員を残して隊長は逃げた。
「お、賢明な判断でしょうな。他に潜伏している人間に助けを求めるなら無駄な行為だけど。アレらはもうこの世界にいない。お、証明として見せるんだと。ほら前を見てな。」
走っていく先。地面に不自然な切れ目が入って目線の高さまで移動し次第に大きく開かれ現れたのは見知った者の頭部と僅かな内臓。
「うぐヴぇぇぇええええ。」
「酷いなあ再会を喜べよ仲間だろ。」
「なん、で。なんで。」
手を伸ばす。
表情は見えていないが困惑しているのだろうと推測する。
「んん。知っているのか。そうか、それは面白いな。で感想を聞かせてくれねえかな。」
阿鼻叫喚罵詈雑言悔悟慙羞四面楚歌。
「でどうかな。見知った相手との劇的な再会というのは。あ、そうそう。」
「うぇ、あ、ああぁぁあ。」
頭部から漏れる声とも音とも形容しがたい何か。視線は回りに回る。そして定まる。
そう頭だけでありながら生きていた。
「お、認識したか。」
最初は絶叫。
「おいおい一人の人間が出して良いものじゃないぞ。はしたない。」
ついで罵り。
「おお、溜まってたのかね色々と。」
次にこれまでを振り返り、恥じる。
「ああ。そんな事をしていたのか。まあ人として常識は持ち合わせないとな。」
最後に自分の置かれた常態を認識して口を開けた所で閉じた。
「おいおい。最後まで聞かせなさいよ。」
パチュンッと弾ける音と赤。
「あぁあ、我慢をしろと言うとろうにまっッたく、困りもんだな本当に。ではこれにて人間。お前の運命は端から決まっていたけど呪うなら自身を恨もうか。」
「お、おぉ、どうして、どうしてこの様な酷い事を。」
「え、嫌々、警告したよな。何度も。それを知らぬ存ぜぬという事をした結果だし。」
「そんな、ことで。」
「どう選択しても最後は全滅させるけどな。」
「そんな」
脱力して地面へと倒れる前に全身が世界から消された。
「ん。逃がすと思うのか欠片を含んだ阿呆の分体。」
『あぁあ゛あぁぁぁあぎぁ。お前は。お前は知っているぞおおっお前はヴぉアっ』
「長いから省くし聞き飽きた。時間の無駄。」
音として形容しがたく透過し回収されたようで宙に揺らぎが暫くして収まり静けさの中に風が吹き荒ぶ。
「うぷっこの辺りで戻るか。」
その場で姿を消して誰も居なくなった。
そう隊長以外の死体さえ綺麗に消えていた。
短すぎる春が過ぎて暑い夏へと移り変わる。
夏。世界が少し慌ただしくなる。
とある日。1つの師団が行方不明となり、所属していた国の上層部は上から下まで大混乱。他国への介入を視野に入れていた矢先の出来事であるため方針を修正せざるおえなくなった。
また関連して数日後には関与したとして二人の少年が捕縛移送されたが空振りに終わり真相を知る手がかりすら掴めず世界は数年に一度の会議を始める。
世にいうとは限らないが名を。
天上たる下卑たる修正会議という。




