『法外の善』
ニタニタとした笑みを浮かべる小太りの男が、風呂敷包みをそっとテーブルに置いた。
「こちら、ご要望の品でございます」
白髪の老人は、低く頷く。
「うむ」
男は老人の顔色をうかがいながら、包みをほどいた。
現れたのは、重厚な桐箱だった。
蓋を開けた瞬間、眩い光が溢れ出す。
老人は目を細めた。
「頭取、お主も善よのぉ」
「いやいや、総理には敵いませぬよ」
二人は顔を見合わせ、くぐもった笑いを漏らした。
その中身は、本来なら決して一箇所に集まるはずのない金だった。
法を越え、抜け道を渡り、密かに掻き集められたもの。
世の中では、「汚い金」と蔑まれるものだった。
だが、それは私腹を肥やすためではなかった。
名もなき誰かを救うための資金だった。
正しいだけでは、届かない場所がある。
正しいだけでは、救えない命がある。
だから彼らは、法を越えた。
——善を成すために。
◆
目が覚める。
夢だった。
現実には、法を犯してまで悪に堕ちる者はあふれているのに、法を犯してまで善を成そうとする者はいない。
なぜ、いないのか。
それとも——
善とは、法を越えないものを言うのか。
◆おわり◆
【あとがき】
本作は、法や倫理の境界についての思考実験としてのフィクションであり、犯罪行為を肯定する意図はありません。




