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『清廉欠白』

 浅間史矢あさましやは、誰よりもまっすぐに見えた。

 

 磨き上げられた靴、曇りのない瞳。

 

 国家のために働くという言葉が、よく似合う男だった。

 

 超有名大学を卒業し、国家公務員として国の中枢に関わる部署へ配属された。

 

 その歩みは非の打ち所がなく、周囲もまた、彼に大きな期待を寄せていた。

 

 努力を重ねてきた。

 

 積み上げることに疑いはなかった。

 

 数年後。

 

 彼の机に積もるのは、理想とはかけ離れた現実だった。

 

 政治家の汚職、組織の歪み、不都合な事実の隠蔽・改ざん。

 

 それらを整え、表に出ないよう処理するのが彼の仕事だった。

 

 夜、酒をあおる。

 

 グラスの底を見つめながら、彼はつぶやく。

 

「こんなはずじゃなかった……」

 

 机に戻り、書類をめくる。

 

 どれもすでに誰かの手が入っている。

 

 抜け目なく、痕跡すら残さぬように。

 

 上には上がいるものだ。

 

 ——遅かったのか。

 

 ふと、そんな思いがよぎる。

 

 もっと早く、ここに来ていれば。

 

 胸の奥に沈んでいた感情が、静かに形を持つ。

 

 理想を裏切られた悔しさではない。

 

 機会を逃した者の、わずかな焦り。

 

 彼は口元を歪めた。

 

「俺が汚せるところが、もう残っていないじゃないか……」


 

■おわり■

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