『優しい虐殺』
「さて、人間どもを殺戮しよう」
地球に到着して早々、リーダーはそう言った。
船内にいた仲間たちは、誰一人として異を唱えなかった。
ただ、重苦しい沈黙のまま頷く。
「今回は、この薬をこの星に散布する」
リーダーは懐から、小指ほどの透明な小瓶を取り出した。
内部で、淡い青色の液体が静かに揺れている。
それを見た瞬間、仲間たちの顔色が変わった。
「そ、それは……!」
「あまりにも残酷です!」
「分かっている」
リーダーは目を伏せた。
「しかし、急がねばならん任務だ。致し方ない」
やがて宇宙船は地球上空を旋回し、薬剤を散布した。
青い惑星を覆うように、目に見えない霧が広がっていく。
任務を終えた船は、そのまま静かに宇宙の彼方へ去っていった。
帰路の船内で、僕は隣にいた先輩へ尋ねた。
「あの薬って、どんな効果があるんですか?」
先輩は少しだけ沈黙してから答えた。
「人間を、強制的に五百年ほどしか生きられない身体にする薬だ」
僕は息を呑んだ。
「ご、五百年……!?」
「そんな……」
信じられなかった。
僕たちヨクイキール人の平均寿命は、およそ五億年。
五百年など、ヨクイキール蝉と大差ない。
生まれ。老い。死ぬ。
そのすべてが、一瞬で終わってしまう。
窓の向こうには、青く輝く地球が見えていた。
あの星ではこれから、愛する者との別れが日常になり、命は簡単に終わり、文明ですら、瞬きほどの時間で移り変わっていくのだろう。
僕は、自分たちの残虐さに吐き気を覚えた。
■おわり■




