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『人類の楽園』

 地図の端には、まだ誰も辿り着いたことのない場所が描かれていた。


 海の向こう。


 山脈のさらに先。


 白い余白の中央に、たった一言だけ記されている。


『人類の楽園』


「よし!」


 冒険家Aは机を叩いた。


「ついに行くんだな!」


 冒険家Bも目を輝かせる。


 二人は長いこと、その場所に憧れていた。


 争いも飢えもなく、欲しいものは何でも手に入り、人々が自由に生きられる理想郷。


 古い旅人の手記には、“世界の果てに存在する”と書かれていた。


「まずは準備だ」


 Aは端末を開く。


「何からそろえればいいんだ?」


「ネットで調べよう」


 検索欄に『冒険 必需品』と打ち込む。


 水袋。


 保存食。


 防寒具。


 火打石。


 応急薬。


 携帯寝具。


 すると画面の横に、『あなたへのおすすめ』が次々と表示された。


「すげぇ……」


 Bが感心したように呟く。


「どこで買えばいいんだ?」


「ネットでそろえよう」


 Aは迷いなく注文していく。


 翌日には、巨大な箱が玄関前へ積み上がっていた。


 二人は歓声を上げた。


 まるで宝探しだった。


 数日後。


 部屋の中は装備品で埋まっていた。


 新品の登山靴。


 高性能ランタン。


 浄水器。


 携帯調理器具。


 折りたたみ式の椅子。


 小型発電機。


 Bは箱を開けながら言う。


「昔の冒険者って、こんなの無しで旅してたのか」


「すげぇよな」


 Aは感心しながら、『初心者向け冒険講座』の動画を再生した。


 焚き火の作り方。


 野営地の選び方。


 危険生物への対処法。


 遭難した時の生存術。


 画面の中の旅人たちは、皆どこか誇らしげだった。


 その夜。


「腹減ったなぁ」


 Bが床へ寝転がる。


「注文しよう」


 Aが端末を操作する。


 三十分後には、湯気の立つ料理が扉の前に置かれていた。


 二人は床へ地図を広げた。


 白い余白の中央。


 まだ見ぬ“楽園”。


「きっと、すごい場所なんだろうな」


「ああ」


 窓の外では雨が降っていた。


 部屋は暖かかった。


 料理は冷めない。


 欲しい道具は翌日には届く。


 遠い国の景色も、知らない土地の知識も、指先ひとつで見ることができた。


 二人は、世界の果てへの行き方を検索し続けた。


■おわり■

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