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17/22

『終わらない交流会』

 半世紀に一度、都内のどこかで「交流会」が開かれる。


 今回の会場は古いホテルだった。


 それでも、参加者より若いホテルだった。


 ロビーには、老若男女が集まっていた。


 古代紋様の刺青を刻んだ青年。


 民族衣装を羽織った女。


 軍服姿の白髪の老人。


 恰幅のいい着物姿の男。


 見た目に統一感はない。


 ただ一つ。


 彼らは死ななかった。


 


 

「おぉ、山田君」


 呼ばれて、青年が振り返る。


 口髭を整えた男が、グラスを片手に立っていた。


「あっ、佐藤元帥」


 山田は反射的に敬礼する。


 男は吹き出した。


「やめたまえ。終戦から何年経ったと思ってるんだね」


「失礼しました」


 二人は笑った。


 長生きする者が集まれば、普通は健康の話になる。


 血圧。


 膝。


 薬。


 老後。


 ここでは誰も、そんな話をしない。


「最近の若者は、人の話を聞かん」


 佐藤元帥がグラスを揺らした。


「本当ですよ。この前なんて、注意したら腹を刺されました」


「ほぉ」


「半日動けませんでした。犬養君の気持ちが少し分かりましたよ」


「毅君も、もう若者には通じんだろう」


 二人は声を上げて笑った。


 少し離れた席では、関東大震災の話。


 その隣ではベルリン陥落。


 奥では黒船来航。


 応仁の乱になると、妙に話が長い。


 歴史の教科書が、そのまま酒の肴になっていた。


 


 

「あぁ、上杉さん」


 誰かが声を上げた。


 着物姿の男が、料理を皿に取りながらやって来る。


 戦国の頃から生きている、古参の不死者だった。


「昨日また、本能寺の番組やってたねぇ」


「また信長ですか」


 山田が言う。


「革新的な天才だって」


 上杉は鼻で笑った。


「あいつは、そんな立派なもんじゃないよ。癇癪持ちでねぇ」


 周囲から笑いが漏れる。


「狸親父は疑い深いし、猿は調子に乗ると止まらない」


「夢が壊れますね」


「歴史なんて、そんなもんだよ」


 上杉は酒を一口飲んだ。


「名前が残るのは、だいたい神輿だ」


「神輿?」


「鉄砲を揃えた奴。兵糧を運んだ奴。金を工面した奴。戦の前に何十日も計算してた奴」


 指を折りながら数える。


「本当に頭の切れた連中は、下にいくらでもいた」


「じゃあ、どうして残らなかったんです?」


「神輿じゃないからさ」


 上杉は笑った。


「下で担いでる奴の名前なんて、後世の人間は覚えちゃくれない」


 山田は黙ってグラスを傾けた。


 


 

「それに昔は、偉人を作るのも簡単だった」


 上杉が続ける。


「作る?」


「女遊びは消す。失敗も消す。都合のいい話は大きくする」


「なるほど」


「やってもいないことを、後からやったことにしてもいい」


 佐藤元帥が頷いた。


「記録を握った者の勝ちですな」


「そういうこと」


 上杉は機嫌よく氷を鳴らした。


「死んじまえば、本人から文句も出ないしね」


 一瞬、静かになった。


 誰かが言った。


「ここにいる連中には通用しませんね」


 笑いが起きた。


 


 

 テーブルの上で、スマートフォンが震えた。


「あーあ」


 若い不死者が画面を見る。


「今度は誰だい?」


「ノーベル賞候補の生理学者です。十年以上、不倫してたとか」


 何人かが画面を覗き込む。


「あぁ、この人か」


「知ってるんです?」


「会ったことある。頭は良かったよ」


 上杉が笑った。


「昔なら、死んだあとに『人格高潔な賢人』で通ったかもしれないねぇ」


「今は無理ですな」


 佐藤元帥が言う。


「どこで情報が漏れるか分からない」


 画面には、生理学者と女性が腕を組んだ写真が映っていた。


「怖い時代だねぇ」


 上杉がしみじみと言った。


「自分から首をさらすものもいるからねぇ」


 会場が沸いた。


 


 

 夜も更け、参加者が少しずつ帰り始めた。


「次は五十年後でしたか」


 山田が尋ねる。


「そうだねぇ」


 上杉は立ち上がり、着物の皺を払った。


「その頃には、今日叩かれてた連中も歴史上の人物だ」


「評価も変わってますかね」


「そりゃ変わるさ」


 上杉は笑った。


「残った記録次第でね」


 佐藤元帥もコートを羽織る。


「では、五十年後に」


「ええ。また昔話でも」


 三人はホテルの玄関で別れた。


 山田が外へ出ると、雨は上がっていた。


 スマートフォンが震える。


 さっきの生理学者について、新しい記事が出ていた。


『疑惑を本人が完全否定』


 山田は少しだけ笑った。


「今は、そういうことになったか」


 画面を閉じる。


 五十年後には、


 また別の話になっているかもしれない。

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