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第5話 ゼロシキ

 ネストは沢庵を出て、寝床通りを北へ2ブロックほど行った先にある、ロッジみたいな建物だった。俺も初心者の頃何度か足を踏み入れたことがある。レベルが低いチームは、良く傭兵を頼むことが多い。クラスBから初めてクラスAに昇格する時などは、ほとんどのチームが傭兵を雇う。

 これは単純にレベルが低く、戦力の一時的補強を考えてのことだが、他にも不慣れなクエストのガイドや、不意に襲ってくるプレイヤーキラーへの対抗策としての『ボディーガード』という側面もあった。基本傭兵は最低でもレベル20を越えているのでそれなりの経験も積んでおり、また高レベルと言うこともあってその役を十分果たすことが出来たわけだ。

 中には初級者からガイドとして雇われ気に入られ、何度も依頼されてクエストを重ねる内にチームにとけ込み、そのまま傭兵家業から足を洗ってメンバー入りするケースも少なくなかった。

 傭兵という言葉の雰囲気から想像するに、なんか『荒くれ者集団』と言うイメージがあるかもしれないが、傭兵達は皆レベルの低い初心者や初級者にはとても親切に接してくれる。これはちょっと意外に思うかもしれないが、よく考えれば当たり前なことなのだ。そうやって親切なサービスをやって貰った初心者達は大抵『リピーター』になるからだ。確かに今はレベルが低いが、この『誰でも強くなれる』という可能性を持ったこの世界では、いわば誰もが『上級プレイヤー』の卵なわけで、将来もっと大物を狙うチームに成長し、稼ぎの良い仕事の依頼があるかもしれない。初心者、初級者へのそういったサービスは、言ってみれば傭兵達の『先行投資』的な考えからだった。

 傭兵達がよく使う言葉に『傭兵は信義と評判で食っている』と言う言葉があるが、これはこの『傭兵』という正式ではない職業の本音を表している言葉だ。雇う側とすれば高い経験値を支払い雇い入れるのだからヘボでは目も当てられない。出来る限り腕が立ち、しかも法外な経験値を要求しない傭兵を誰もがほしがるのは当然なのだが、やはり腕に比例して報酬も高いのは当たり前で、雇うチームのリーダーはその辺のバランスシートを考えながら傭兵と交渉するのだが、そこで決め手となるのが口コミの情報だった。

 傭兵を雇ったチームメンバーやリーダーが、自分のギルドの仲間や沢庵などでその腕前や人柄、サービスなどを話し、それが広まることで他の傭兵を雇う検討をしているチームがその傭兵を選択肢に入れる。それでまたその傭兵が良い働きをすれば評判が上がり、仕事依頼が増える訳だ。仕事の評判が次に繋がるという点は、こんなゲームの仮想世界であってもリアルの商売と何ら変わりはない。

 そしてもう一つ、傭兵を選ぶ上で最も重要なファクターが『絶対に逃げない』と言うこと。セラフィンゲインはその物理法則や身体生理状態などが限りなく現実に近く設定されている。脳に直接流れ込む情報は当然数値化されているが、被験者が体感する『感覚』は現実の物と変わらない。レベル上昇に従い上がっていくキャラのパラメーターで身体機能は著しく上昇し、現実には考えられない超人的な運動能力と肉体の強靱さを獲得するが、戦い続ければ疲労が溜まるし、腹も減る。攻撃を受け、ダメージを食らえば、現実の痛みのように感じる。そしてダメージが限界に達した場合、キャラが死亡する訳だが、この『死の体感』が結構きつかったりする。

 脳が見るイメージなのだが、現実に痛みを伴い死亡する瞬間は、まさに現実の『死の恐怖』を体感していると言っても良い。いや、俺を始め全てのプレイヤーが実際現実で死んだこと無いからどうかわからんけどね。

 だがその精神的ショックはなかなか大きく、初めて死亡【デッド】判定を受けた時は、接続室で覚醒後まず間違いなく胃の中の物をリバースし、しばらく動けない。システムとの同調が高い時などは、1,2時間平衡感覚が無くなるほどだ。もちろん同調率には個人差があるから誰でもそうなるとは限らないけどね。

 セラフィンゲインをやったことがない人なら「実際死なないじゃん」と笑うかもしれないが、そう笑う人に、俺は一度味わってみれば判ると言いたいよ。マジでキツイから。

 しかし、そう言ったデッド時のショックが恐くて逃げ出すプレイヤーも少なくなかった。そうしたデッドを回避する手段として『リセット』と言う物がある。この『リセット』とは、この世界の緊急脱出用コマンドのことで、プレイヤーがその意志を持って「リセット」と叫べば、そのプレイヤーの意識は直ちにシステムから切り離され、接続室に戻される。この場合キャラデータは最後にセーブしたデーターに戻されることになる。

 こう聞くと個人としては、普通のデッド判定とほとんど変わらない様に思えるが、これがチームを前提にした場合その認識は大きく変わってくる。なぜなら、この『リセット』の選択はチームの意向を一切含まない、完全にプレイヤー個人の裁量に委ねられるからだ。しかもそれは、場所や時間などの規制は一切無く、何時いかなる時でも実行可能なコマンドだった。

 このコマンドの本来の使用目的は、プレイ中に何らかのシステム障害に巻き込まれたり、死亡判定はされない物の、行動不能なダメージを負って動けなくなったりする、いわば『手詰まり』になった時のために用意されたコマンドだが、そんな建前など本気にするプレイヤーはほとんど居ない。

 俺は、この『リセット』こそが、『真の勇気が試される場所』というコピーの付いたこの世界、セラフィンゲインの本当の骨子なんじゃないかと思うんだ。

 何故かって? それはチームで戦っている最中にメンバーが恐くなってリセットを選択した時の状況を想像してみれば判るだろう?

 死の恐怖に駆られ、直接対峙する前衛がこぞって居なくなったら……?

 またはサポートを担当する後衛キャラがみんな消えちゃったら……?

 残されたプレイヤーはなぶり殺しにされるか、自分もリセットするかしかないだろう。俺はこの判断をプレイヤー自身に課した管理側に、少なからず悪意を感じることがある。これがあるからこそ、この世界が『真の勇気が試される場所』と呼ばれる本当の所以ではないかと思うんだ。

 傭兵はこの勇気がもっとも重要視される。その性質上、撤退戦などは必ず殿を受け持つことになるし、雇われたクライアントを生還させるための『捨て石』として矢面になることは、いわば当然の日常業務となるわけだ。だからチームとしても、傭兵を選ぶ第一条件として『絶対逃げない』ということを外さない。

 ちょっと極端な言い方かもしれないが、傭兵こそが、この世界にもっとも相応しい『勇気』の持ち主なのかもしれないな……


 沢庵を出た俺達3人は傭兵待機所で『マークスギルド』の本部でもある『ネスト』の建物の前にやってきた。

 聞いた話では、元々此処はプレイヤー同士の待ち合わせ場所として設置された施設だったそうだが、どういう訳かいつの間にか傭兵が屯するようになってしまい、前回の大型アップデートで正式に『傭兵待機所』となった。でもよく考えると傭兵自体正式な職業ではないのにおかしな話だよね。

 俺達は早速正面の木製ドアを開けて中に入った。

 内部はそこそこ広く、テーブルや椅子が並び、どことなく沢庵のようだが、座っているキャラの人数が明らかに少なく、大体20人前後と言ったところだった。

「お? ララ! ララじゃねぇか! 久しぶりだな~」

 入るなりそう声を掛けられた。見ると手前のテーブルで手を振ってるキャラが見えた。「やっほ~ マキシ。元気してた?」

 とララが近づいていったので俺とスエゾウも後に続いた。どうやら顔見知りらしい。

「今日はどした? ララもとうとう傭兵か? しかしお前が傭兵になったら俺達は仕事にありつけなくなるから困るよな~」

 そう言ってマキシと呼ばれたキャラは声を上げて笑った。背中に大きな戦闘用の斧を担いでいるところから見てどうやら戦士のようだ。

「ララが傭兵になりに来たって? オイオイ、そりゃえらいこったぞ」

 するとそう言いながらもう一人、剣を下げた鎧姿の男と俺と同じく太刀を持った男が2人して近づいてきた。

「ダイフクにモっさんも~! 相変わらず暇そうね~」

 とララが笑いながら声を掛ける。流石にレベル30を越えるモンクともなると顔が広いらしい。

「言ってくれちゃうね~ 俺らは安受けはしねぇのさ。人を見て仕事受けるんだよ!」

「またまたモっさんカッコつけちゃって~ クライアントが女の子じゃなきゃ受けないってハッキリ言っちゃえばいいのに。もうムッツリなのバレてるんだからさ」

「ち、ちげーよ!」

 ララの言葉に慌てて否定する、そのモっさんと呼ばれたキャラだったが、他のキャラの笑い声でかき消されてしまった。奥のテーブルで交渉中であろうチームの女僧侶が怪訝な目つきでコッチを見ているし……

「傭兵はあたしには向かないかな。雇われるのって性に合わないしね。今日はゼロシキに会いに来たんだけど…… 居る?」

 すると最初に声を掛けてきたマキシというキャラが顎で部屋の奥を差した。

「奥で寝てるぜ…… 何だよララ、仕事の依頼ならアイツじゃなくて俺にしとけって。あんな愛想のないヤツなんかに頼むことねぇだろ?」

 そう言うマキシさんの言葉を聞きながら、俺は部屋の奥を覗き込んだ。すると一番奥の隅っこにある長いすの上で組まれた黒いブーツが見えた。丁度柱の陰になっていてここからじゃ顔は見えなかった。どうやらあそこにいるのがそのゼロシキらしい。

「まあね。でもオウルの紹介なんだ。それに腕は良いじゃんアイツ。実はあたし達、腕の良いガンナー探してるんだ」

「あれ? ララ新しいチームに入ったのか?」

 ララの言葉に、今度はダイフクと呼ばれたキャラがそう質問した。顔がまん丸で、本当に大福みたいだけど、きっとだからってHNにダイフクって付けたんじゃないよね?

「えへへ、これから作るんだ、新しいチーム。この2人に誘われたんだよね~」

 そう言ってララは俺達2人に笑いかけた。

 やっべ、めっちゃ可愛いんですけど!

「マジ~? なあおい、どんな手使ってララ入れたんだよ? ララは滅多な事じゃなかなか振り向かないって有名なんだぞ? さあ吐け! どうなんだオイ!」

 と言いながらダイフクは俺の肩を掴んでガクガクと揺すった。め、目がマジで恐えぇよコノヒト!!

「あ、い、いや、一緒に聖櫃目指しませんかって……」

「聖櫃!? お前マジで言ってんの? わははははっ! 今時マジ顔でそんなこと言う奴いねぇって、わははははっ!!」

 俺の言葉に3人が笑い出した。むむっ! 何かちょっとむかつくんだけど!

 するとそこにララが口を出した。

「ねえ、何かおかしい?」

 ララのその一声で3人は笑ったまま凍り付いた。ララすげぇ……

「あたしがこの2人と聖櫃目指したら…… なんか可笑しいかな?」

 別に声を荒げる風でもなく、特別怒っている風にも見えない。静かに、冷めた目で3人を見つめ、そうゆっくりと問いかける美貌…… しかしその隠そうともしない殺気が場の温度を確実に下げていく。モンクでありながらレベル30越えという高みに達し、誰も到達し得なかった場所にたどり着いた者だけが纏う独特の雰囲気がララから立ち昇っていた。

 変な話だが、俺はこの時初めて、このララというキャラが、本当にあの聖櫃をクリアーしたプレイヤーであることを実感した。

「い、いや、じ、冗談だよララ。今時聖櫃目指すなんて、半ばギャグになってるからつい笑っちまったんだ。スマン、このとーりだ」

 そう言って頭を下げる3人。いやはや、ララってマジですげぇな。ついでにすげぇ恐えぇけど…… ララ怒らせるのは止めよう、うんそうしよう。

「うふふ、別にそんな怒ってないよ。ただね、仲間の夢を笑われて、黙ってるってあたしらしくないかなって思ってさ」

 ララはそう言ってその表情を緩めた。そしてララはその3人に「じゃ、またね~」と軽く手を振って店の奥に歩き出した。俺とスエゾウはその後ろ姿をぼんやりと眺め、ふとお互い我に返ったようにその後に続いた。

 仲間…… 

 まだ会って2日しか経ってないハズなのに、何故かもう何年も一緒に戦ってきた様な、そんな気持ちにさせるララの自然な言葉。俺、今ちょっと嬉しかも……

 でも俺とスエゾウは、そんなララに胸を張って『仲間だ』って言えるぐらいになれるのかな?


 俺とスエゾウはララの後に続き、部屋の一番奥にある長いすの所まで来た。その長いすの一番隅っこに、黒いマントでくるまり、足を椅子に投げ出して寝ているキャラが居た。頭から黒いずきんをすっぽり被っていて顔は良くわからないが、脇に立てかけてある大きな『撃滅砲』から考えて、このキャラが恐らくその『ゼロシキ』なんだろう。

「お~い、ゼロ、起きろ!」

 ララはそう言ってそのキャラの脇腹に蹴りを入れた。その瞬間「ぐはっ!!」という呻き声と共に、その男は椅子から転げ落ちた。

 ちょっとララ! あんた何やってんすかっ!?

「痛っ…… お ま え なぁ~っっ!!」

 そう言いながらその黒衣の男は脇腹を押さえて立ち上がった。そして頭巾の口元の覆いを外しながら文句を言う。

「脇腹蹴り上げるってどういう了見だコラっ! 喧嘩売りに来たのか、あっ!?」

 するとすかさずララが言い返す。

「何よオーバーね。だってあんた一回じゃ起きないじゃん。前回の教訓から学んだのよ。爆拳で起こさなかっただけでも感謝して欲しいわよ、あたしとしちゃ!」

「どういう論法だそれっ!? 寝てる人間起こすのにスキル技使う奴が居るかボケっ! 無防備状態でお前の爆拳食らったら、デッドしても不思議じゃねぇだろがっ!!」

 うんまさしく…… さっきスエゾウ、爆拳じゃなくても相当ダメージ食らってたしな。

「あら、あんたなら大丈夫よきっと。面の皮と同じくらい腹の皮も厚そうだし…… 現に体力パラ高いじゃん。ガンナーのくせに」

「やかましいっ! 大体何しに来たんだお前!!」

 なんか交渉って雰囲気じゃ無いんですが…… ホントに爆拳で沈めて引きずっていきそうだよな、ララ……

「実はあんたにお願いがあってきたんだ」

 ララはあんな事をした相手に、何事もなかったかのように軽くそう言って、テーブル挟んで長いすと対面の椅子に座った。

 いやいやララ、さっきの行動を見ると、とてもお願いがあって来たとは思えませんよ……

「ったく…… 次から誰かに『物の頼み方』教えて貰ってから来いよ……」

 とこちらもそれだけ言って長いすに座り直す。

 あ、いや…… それだけ? 今のイザコザそれでお仕舞いなの? この人も何かちょって変じゃね?

「で、用件は何だよ?」

 そう言ってその黒衣の男は俺とスエゾウをチラリと見た。俺達2人はそそくさとララの隣に座った。

「コッチの戦士が『シロウ』で、このビショップが『スエゾウ』ね。今度あたし達、新たに新チームを立ち上げるの。そんでね、あんたにも入って貰おうと思って誘いに来た訳よ。あ、シロウにスエ、コイツが『ゼロシキ』、通称『ゼロ』レベル26のガンナーよ」

 ララはそう俺達を紹介し、俺達は揃って会釈をした。年の頃は俺より2,3歳上ぐらい。黒いマントの下には、これまた黒い軽めのチェインメイルを着込んでいる。そして今は顔をさらしているが、頭からすっぽり被るタイプの黒頭巾を装備していた。なんか、ガンナーと言うより盗賊みたいなんですけど……

「断る。仕事でなら受けるが、正式メンバーでと言う条件なら他を当たってくれ……」

 ゼロシキはそう言って椅子の背もたれに背中を預け、腕を組みながらそう答えた。

「ワイガヤな『仲良しサークル』に興味はない。クエスト受注してから改めて来い。ちなみに俺の契約条件はクエスト成功時の獲得経験値の15%、大物を俺がしとめたらボーナスとして20%を報酬として貰う。装備と回復は俺持ち。アクセス料はそっち持ち。それ以下の条件なら他を探せ。以上だ……」

 ゼロシキはそれだけ言って、また横になろうと足を椅子の上に持ち上げた。しかしすかさずララが反論する。

「仲良しサークルじゃないってば。あたしら本気で『聖櫃』目指してんの! 伝説のチームを作るんだよ。ねえ、あんたも一緒に作ろうよ、伝説のチーム!」

「尚更興味ないな。あそこへのアクセス条件は1度行った事のあるあんたなら良くわかってるハズだ。損得勘定で動く傭兵を混ぜたら絶対たどり着かない…… あそこはな、俺達傭兵が絶対行けない場所なんだよ」

 ゼロシキはそう言って頭の後ろで手を組み、ゴロンと長いすの上に横になった。まさに取り付く島もないと言った様子だ。

「だから正式メンバーでって言ってるじゃん! シロウ達はずっとそれ目標にやってたんだって。そしたら他のメンバーが引き抜きにあっちゃったらしくて…… でも絶対諦めないって…… 今時珍しくガッツがあるから、あたしももう一度挑戦したくなったのよ。ねえ、だからゼロも協力してよ~」

 とララは尚も説得を試みるが、ゼロシキは横になったまま動かない。

「興味ないな…… それに、俺はもう二度とチームは組まないって決めたんだ。傭兵の方が性に合ってる」

 するとララがテーブルを叩いて立ち上がった。

「あんた何でいつもそうなの!? 何でもすぐそうやって『興味がない』って言葉で片づけちゃうの!? じゃあ聞くけど、何に興味があるのよ?」

「それはあんたに関係ない……」

 声を荒げるララとは反対に、ゼロシキは静かにそう答えた。

「昔のあんたは、確かにちょっと不器用なトコあったけど、今よりはマシなキャラだったじゃない。少なくとも今みたいに後ろ向きながら歩ける器用な奴じゃなかったわよ」

「そうかもな…… 過去の自分を捨てる事なんて出来ないって、あんた前に言ってたじゃんか? 確かに俺もそう思うよ。特に背負っちまった罪は、捨てようと思っても捨てられないもんだ……」

 罪? いったい何の話をしてるんだ? つーかこの2人、あんま仲良く無いのかな?

「ふん、思ってもないこと言わないでくれる? あんたは捨てようと考えたことさえないじゃない。あたしが言いたかったことは『過去があるから今があるんだ』って事よ。それをひっくるめて今の自分だって事! 罪だか何だか知らないけど、あんたのはただ引きずってるだけじゃん。ズルズル引きずって、すり減るのを待ってるだけ。減る事なんて無いって判っているくせに……」

 いつになく真面目なララだった。そんなララの文句を、ゼロシキは目をつむって黙って聞いていた。俺とスエゾウはその2人の会話に全く入り込めずに、まるで背景の一部のように黙って見守っていた。

「それでも、引きずるしかなかったんだよ…… だから俺は未だに此処にいる」

 そう言ってゼロシキはふっと笑った。何故かその笑いは、今までの話の中で、このゼロシキという傭兵の本当の顔のように思えて仕方なかった。

「減らないなら背負うしかないじゃん。そんでもし重かったら誰か一緒に持ってくれる仲間がいた方が良くない? 本当の仲間ってその為いるんじゃないかな?」

「仲間か……」

 ゼロシキは天井を見つめながら、静かにそう呟いた。するとララはそんなゼロシキを見ながら、俺にこう耳打ちした。

≪もう一息ね…… よし、奥の手よ。シロウ、あんたの太刀貸して≫

 そう言いながら、ララは俺の前に手を差し出した。

 え~っ!? ララ今の全部計算だったの!? 話の内容全く判らなかったけど、俺何となく感動しそうだったんだけど!?

 俺はそう心の中で驚きの声を上げつつ、布にくるまれた俺の太刀、鬼丸國綱を手渡した。

「ねえゼロ、そういやあんた確かレアアイテムコレクターだったよね。この太刀…… 見てくれる?」

 ララはそう言いながら俺の太刀の柄の部分の布を剥がしてテーブルの上に置いた。

「太刀? オイオイ、俺はガンナーだぜ……」

 と言いながらゼロシキは起きあがり、テーブルに置いてある太刀を見て固まった。

「お、お前コレ……っ!?」

 そう絶句するゼロシキに、ララはニンマリ微笑んで鞘から國綱を引き抜いた。

「どう? 興味無いって言えるかな?」

 そう言うララの言葉をスルーして、ゼロシキはまるで吸い付けられる様に國綱を手に取った。

「鬼丸國綱……!」

 そう呟くゼロシキの声が微かに震えていた。この人もこの太刀を知っているのか…… 結構コレクターの間じゃ有名な一品なのかな?

「あたしも見た瞬間ビックリしたよ~ 消滅したとばかり思っていたもんね」

 消滅? 言ってる意味がさっぱりわかりません。

「やっぱりレアな太刀なんですか?」

 俺は太刀を持つゼロシキにそう聞いた。

「レアもレア、激レアだ。恐らくこの世界でこれ一振りしかない。かつてラグナロクの前衛だったシャドウの持つ『童子切り安綱』と同等かそれ以上の代物だよ…… これ、あんたのか?」

「ええ、俺の装備です。布が巻いてあるのはキラー除けです」

 俺はそうゼロシキの問いに答えた。ゼロシキは軽く頷いてから、もう一度その赤い不思議な輝きを放つ刀身に目を移した。

「この太刀は安綱同様『主を選ぶ』と聞く…… 普通のキャラが使う分には若干切れ味が高い太刀なんだが、特定のキャラが使うと攻撃力が跳ね上がるって話だが…… あんたはどうだった?」

 ゼロシキは國綱を鞘に仕舞いながらそう聞いた。その目は俺を探るような目をしていた。

「この太刀を受け取った時も、そう言われました。『この太刀は主を選ぶ』って。でも、今言ったような攻撃力は無いです。てかむしろ使いにくくてあまり使ってないんですよ」

 すると横からスエゾウがお約束のように口を挟んできた。

「そうなんす。コイツ太刀使わずに罠ばっか張るんですよ~ 太刀はホント最後に罠に嵌ったセラフを仕留める時だけ。もったいないから使えって俺は言ってるんですけどね」

 そのスエゾウの言葉に、ゼロシキは「ほ~ぅ」と呟きながら再び俺を見た。イチイチ説明しなくて良いから、スエゾウっ!

「そういや聞いたことがある。太刀使いのくせに、何かやたらと罠張ってセラフを仕留める妙なキャラの噂…… あんただったのか」

 あれ? 俺って意外と有名なのかな? 知らないところで有名人になってるのか?

「何でも味方まで罠に嵌めるとか聞いたけど…… マジ?」

 とゼロシキは疑うようなまなざしで俺を見た。

「ご、誤解ですからそれっ! 人の説明聞かないで突っ込むから罠に嵌っちゃうんですよ!」

 そんなコピーで有名になるのは嫌すぎるっ! そんなこと言いふらす奴は1人しかいない…… てめぇかスエぇっ!!

 俺はララの向こうに座るスエゾウを睨んだが、スエゾウは明後日の方向を向いて口笛を吹いていた。曲名が『夏の思い出』とは気が利いてるなぁオイゴルァ!

「なるほど…… 選ぶにしろ、選ばれるにしろ、俺は使うあんたに少し興味が沸いてきたよ……」

 そう言ってゼロシキはチラリとララを見て、再び俺に向き直った。

「良いだろう…… この女モンクの浅知恵に乗ってやるよ。だが正式メンバーとしての加入はできん。あくまで傭兵として参加させて貰う。契約料は10%…… ボーナスも気持ちで良い。それが俺が出せる最大の譲歩だ」

 ゼロシキのその言葉に、ララは少し不満げに呟いた。

「ったく、ホントひねくれてるわね…… まあこの際仕方ないか……」

「じゃあ契約成立だ。俺はゼロシキ、見ての通りガンナーだ。報酬が減ったからって手を抜くつもりはないが、その分単独行動でやらして貰う。もちろんリーダーの意向は尊重するがな」

 ゼロシキはそう言って俺の前に右手を差し出した。俺は自然にその手を握り返していた。するとスエゾウが不意に俺に聞いた。

「あれ? いつの間にお前リーダーになったんだ?」

 そうだった…… 何か普通に手を出されたんで反射的に握り返していたが、まだリーダーを決めてなかったんだ。するとそんな俺とスエゾウのやりとりを見ていたララが不意にこう言った。

「良いんじゃない? シロウがリーダでも。あたしは賛成だよ」

「まあ、前のクライスプリーストもお前がリーダーだったし、俺も意義はないぜ」

 スエゾウもそう言って笑った。

「ほう…… そうか、なら改めて宜しくな、リーダー」

 俺はそのゼロシキの言葉になんだかこそばゆさを感じていた。つーか俺で良いのか? だってこの4人で一番レベルが低いんだぜ? 俺。

「ところで…… このチーム、名前はなんて言うんだ?」

 不意にゼロシキがそう聞いてきた。まだ名前なんて全然考えていなかったのだ。

「まだ無いわ。何せコッチであったのは今日が初めてだし…… それに、まだあと最低2人は引っ張ってこなくちゃならないんだ。みんな揃ってから、改めて決めることにするつもり」

 ララはそう言いながら腕を組みつつ首を捻っていた。そうだ、まだあと魔導士の問題があったんだっけ。名前なんかよりそっちが大変だよマジで。

「ねえゼロ、あんたメンバー入りしそうな魔導士知らない?」

 とララがゼロシキにそう聞いたが、ゼロシキは首を横に振った。

「知らん。魔導士の傭兵も居るには居るが、みんなどっかと契約しちまってる。それに大体フリーの高レベル魔導士なんぞ、早々居るもんじゃないだろ」

 そう言うゼロシキの言葉に、ララは「だよね~」と良いながらため息をついた。

「メンバー見つかったら連絡してくれ。ララは俺とフレンド登録済みだからララ経由で頼む。それまで俺は此処にいる」

 ゼロシキはそう言ってまた長いすにゴロリと横になった。しかしこの人、普段何しにセラフィンゲインにアクセスしてるんだ? 良くわかんねぇな、傭兵って。

「さて、あたし達は一端沢庵に戻るか。募集掲示板もチェックしなくちゃなんないし」

 ララはそう言って席を立った。俺とスエゾウもその後に続いて席を立つ。

 しかしなぁ、あんまり期待できないんだけどね。掲示板の書き込みってさ……

 そんなことを思いながら、俺は2人の後に続いてネストを出た。だが、沢庵で俺達を待っていたのは、思いがけない吉報だった。

 いや…… 果たしてホントに吉報だったのかな?


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第5話更新いたしました。

やっとゼロシキ登場です。彼の名前の由来は、彼が持っている旧式の撃滅砲『龍牙零式』から取っているって設定です。このキャラは当初、もっと口数の少ないお地蔵キャラにする予定だったのですが、話の流れを考えると喋らせざるを得ずこうなりました。基本ララのツッコミ役です。まあ傭兵として参画するので他のメンバーとも、少し距離を置く感じになると思います。

さて次回も新キャラ2人が登場します。これで新チームの面子が全員登場になります。しかしシロウは何か地味だ。う~ん、もう一つパンチの効いた個性が欲しいな…… と今更ながら致命的な事に気づくという…… ちょっと考え直そうかな。

鋏屋でした。



次回予告

傭兵という条件付きだが、一応ゼロシキ加入が決定し、残るは後2人。そのうち絶対欲しいキャラである魔導士獲得に向けて作戦を考えるべく沢庵に戻る3人。おなじみの46番テーブルで今後の方針を練っていると、なんと、メンバー募集の書き込みを見たというキャラが現れた。しかも絶対欲しかった魔導士キャラも居て大喜びのシロウとスエゾウだったが、ララはその2人を見て驚いていた。果たして3人の前に現れたキャラとは?


次回 セラフィンゲインAct2 エンジェル・デザイア第6話 『姫と騎士』 こうご期待!

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