第6話 姫と騎士
で、俺達3人は再びレストラン沢庵の46番テーブルに戻ってきた。
「とりあえず掲示板に入隊希望者のカキコがあるかチェック入れよう。ねえスエ、あんたちょっと見てきてよ」
とララはスエゾウに指示を出す。プレイヤーの書き込み掲示板であるコミュニケーションボードは、このターミナルに最初に転送される場所である噴水広場に設置されている。スエゾウは「アイアイサー!」と敬礼してそそくさと沢庵を出ていった。
すげえ…… 早くもパシリ化してる……
元々スエゾウはリアルでも女の子に弱いが、ララの指令を受けるスエはやたら似合っている。まるで犬とご主人様みたいだ。
「最悪前衛はティーンズ【レベル10代】でも何とかなるけど、魔導士だけはレベル20は行っててほしいよなぁ……」
ララは椅子に背を預けたまま天井を見上げ、ため息とともにそう言った。俺もその言葉に頷いた。確かに前衛は極端な話、盾になれさえすればOKだ。ティーンズといえど、戦士系キャラは総じて体力や防御力が高めになっている。攻撃力が乏しくとも、30オーバーのモンクと20オーバーの戦士である俺である程度カバーできるはずだ。だがそれはあくまで魔法のバックアップがあってのこと。最上級クラスの呪文である『メテオバースト』や『ボルトバイン』は無理でも、通常魔導士が『決め技』として使用する上級呪文『フレイストーム』あたりは唱えられる魔導士が控えていないとかなり厳しい。特にレベル6クエストは『生還』も怪しくなってくる訳で、聖櫃などとうてい無理だろう。
「まどろっこしいから、どっかの魔導士さらって来たくなるよね~」
……それ誘拐だからさ…… 引き抜きよりひどくないですか? しかしララならやりかねないから怖い。多分冗談なんだろうけど…… 冗談、だよね?
と、そこに掲示板を見に行ってたスエゾウが帰ってきた。
「ララ姉ぇ、ただいま帰還しました。反応が7件ほど。俺とシロウの時と違って、ララ姉さんの名前入れたらこれだもん、やっぱすげーっすね。えっとこれ、リストっす……」
スエゾウはそう言いながら自分の携帯を取り出し送信の操作をした。程なくして俺とララの携帯から受信音が流れた。俺とララは自分の端末をのぞき込む。
「やっぱティーンズばっかだね…… 仕方ないか、とりあえずティーンズで…… あれっ?」
ララはスクロールしながらそうぼやいていたが、不意にその指が止まった。俺も自分の携帯に映し出されたリストをスクロールしていたが、途中である名前の部分で指が止まる。なんだこれ?
「ねえスエ、なんでこの『ナイト』ってキャラと『メーサ』ってキャラ、レベルが表示されてないの?」
俺と同じ疑問を投げかけるララ。そうなんだ、この二人だけレベル表示がブロックされてるんだよ。メンバー募集の投稿でレベルブロックするっていったいドウイウコト?
「あれれ、ホントだ。気が付かなかった。何でだろう……? とりあえず候補から弾いときますか?」
とスエがララに聞いた。つーか普通すぐに気づくだろまじで……
「いやいや、な~んか訳ありっぽくて面白そうじゃん。とりあえずこの二人会ってみようよ」
……言うと思った。段々ララの思考がわかってきた気がする。
ララはそう言うと早速その『ナイト』と『メーサ』と言うキャラに『至急沢庵46番テーブルに来られたし』という内容のメールを送った。すると送信終了2秒後にナイトから『了解、メーサを連れて行きます』との返信が届いた。どうやらこの2人、一緒に居るみたいだ。
「このメーサってキャラ魔導士で、ナイトは…… わお、魔法剣士じゃん! 結構拾い物なんじゃん?」
とララは携帯画面を見ながら嬉しそうに言った。俺もスエから送られてきたリストを再び確認する。ホントだ、ナイトってキャラ魔法剣士だ。ララの言うとおり、このキャラ当たりかも……
『魔法剣士』とは、文字通り魔法を使える戦士のこと。剣も使え、かつ魔法も行使できる特殊なキャラクターだ。と言っても本職である魔導士の行使する魔法とは同じ名前の魔法でも威力や効果が劣るが、反属性を持つセラフ戦ではここ一番って時に攻撃魔法が使えるのは心強い。さらに魔法剣士はその攻撃魔法の効果を、剣技に付加させる『魔法剣』を行使することが出来るのだ。
こう言うと、魔法剣士はその特殊な攻撃能力に魅力を感じる人も多いだろうが、実はこの魔法剣士のもっとも重宝する能力は本来回復のエキスパートであるビショップの専門魔法である回復系魔法を行使できる点にある。
攻撃に特化している魔導士の攻撃魔法を行使できるのは確かに魅力的だが、ビショップの回復魔法を行使できるのはこのセラフィンゲインの戦場では極めて有利に働く。
ビショップ以外のキャラは自前で回復するには基本的にアイテムのみとなるが、フィールドに持ち込めるアイテムは須く重量制限の対象になるわけで、その所持数量には限界がある。だが魔法剣士は所持アイテムに加え基本所持能力で回復を行えるので生還率が上がるのだ。もちろん本職であるビショップが唱える回復魔法には若干見劣りするものの、レベルが上がり高位呪文を唱える様になれば中上級ビショップと遜色なくなる一種の万能キャラになる。『内気功』を極めた超高レベルモンクであるララ同様、高レベルになればなるほど、この世界で純粋な『単独行動』がしやすいキャラといえるだろう。
一見良いことづくめの階級に思えるこの『魔法剣士』だが、実は色々制限がある。まず、その身に纏う防具が戦士に比べて貧弱だった。同レベルの戦士が装備できる鎧が2ランクほど低い物しか装備できない。それに前衛キャラで唯一行使できるその魔法が、同レベルの本職が唱える時の効果の80%程度になってしまうこと。そして最大のネックが、レベル上昇率が極めて悪いこと。故に高レベルな魔法剣士はなかなか居ないし、その魅力的なスキルの割には人気が今ひとつなキャラだった。
さて、このナイトつーキャラがどの程度のレベルなのか…… わざわざレベル表示をブロックするくらいだから訳ありなんだろうけど、リストの他のキャラレベルを見ると何とも言えないなぁ…… バカ低いかバカ高いかのどちらかだろうな。願わくば後者であることを祈ろう。
あれ? そういやあの伝説の『死に神シャドウ』も魔法剣士じゃなかったっけ……?
「此処って…… 46番テーブルで合ってる?」
不意に背後からそう声を掛けられ、俺はちょっとびっくりして反射的に振り返った。すると俺のすぐ後ろに、見たこともない赤い鎧を着たイケメンが、魅力的な笑顔で立っていた。鎧というか、なんつーの? 襟元から纏った白くて長いマントでよく見えないけど、戦国時代の甲冑みたいなイメージだ。
すると今度はテーブルの対面で勢いよく椅子を鳴らして立ち上がる気配がした。
「あ、あんたはっ……!?」
そちらに視線を投げると、そう言って絶句し立ちつくすララの姿があった。
あれ? ララの知り合い? ……にしても……
俺はそう口から出そうになった言葉を、生唾と一緒に飲み込んだ。だってさ、鳥肌が立つほどビシバシ感じるんだもん、ララの殺気が……!
「『俺』は『初めまして』のつもりだけど…… 『久しぶり』と言った方がいいかな、この場合? それとも忘れた…… な~んて事はないか」
その紅い鎧のイケメンはそう言ってその魅力的な笑顔をララに向けた。
「ふんっ、冗談! 両足ぶった切られた相手の顔、どうやったら忘れるのか教えてほしいよね、マジでさっ!!」
ララはそう吐き捨てると瞬時に俺の隣に回り込み、気が付くとそのイケメンの顔面に拳をたたき込んでいた。イケメンの顔の辺りで派手な音が鳴る。
はえ―――っ! 全然わかんねぇ――――っ!? ホントに疾風だよマジでっ!?
「ふぃーっ! 間一髪、予測してなきゃやばかった~っ! 疾風と呼ばれるのも確かに頷けるよ……」
そう言うイケメンはララの拳を鼻先の距離で受け止めていた。しかも左手だけで!? それにあのスピードに反応するのもすげぇ…… なにもんだよ、コノヒト?
「しかし、君の足を断ったのは『俺』であって『俺』じゃないんだが……」
「はんっ、だからって『ハイそうですか~』って頭切り替えられるほど器用な女じゃないのよね、あたし。喩えあんたが『あたしの知ってるあんた』じゃないと知っててもね…… でも一応これでも気は使ったのよ? 爆拳じゃないだけでもね」
ララのその言葉を合図にイケメンはララの拳を放し、ララも拳を収めて改めてイケメンに向き直る。どうやら知り合いみたいだけど、あまり良好な関係じゃないみたいだ。しかもちらほら出てくる単語が物騒なことこの上ない。
つーか両足切断ってオイ……
「知っててこの挨拶カヨ…… ははっ、聞いてた以上だな。俺のことは聞いていたんだね?」
するとその言葉にララは頷いた。
「あいつからね…… 『聖櫃』で古い親友に会ったって。嬉しそうに話してくれたわ」
やっぱり知り合いみたいだ。でも『聖櫃』って……? コノヒトも元ラグナロクメンバーなのか? あれ?
「ララ、この人も旧ラグナロクの……?」
と俺はララにそう質問した。ララは俺のその言葉に少し困ったような表情をした。
「う~ん、そうじゃなくて…… ラスボスって言うか…… いや正確には違うし…… あっ、ラグナロクリーダーのお兄さんよ」
「う~ん、まあ間違っちゃいないけどなぁ……」
ララの答えにイケメンも少し困ったように呟いた。
いや、なんか今ラスボスって言わなかったデスカ? 意味がさっぱりわからないっすけど……
とそこに少々場違いな声が俺らの会話に割って入った。
「やっほ~い、ララちん久しぶり~♪」
イケメン男の陰からひょっこりと現れた薄い黄色のローブ姿の女子…… え? つーか女の子? なんだこの子!? どっから沸いて出た!?
「メ、メタちゃん!? あんたまでどーしてこんなところにいるのよっ!?」
と今度も驚くララ。え? この子も知り合いなの?
「あはは、ちっとも会いに来てくれないから僕のこと忘れちゃったかと思ったよ~ でもララちん、その呼び方も好きだけど、今の僕は『メーサ』って呼んでよ。で、こっちは『ナイト』ね」
と言ってにっこり笑うロングヘヤーの可愛らしい女の子。外見は中学生ぐらいかな? いってても高校生ぐらいだろう。この子がさっきリストにあった魔導士のメーサってキャラかよ。
「あれ? でも此処って確かこんな『お子さまランチ』はアクセスできな…… ぐえっ!?」
いきなり鳩尾に激痛が走り、思わず悶絶。見るとその女の子の手にしたワンドが腹にめり込んでいた。
「失礼な奴だなコイツ。こう見えても18歳って設定になってるんだぞ! ねえララ、僕コイツ嫌~い!」
俺は腹の痛みをこらえつつクソガキを睨む。
「いつっ…… て、てめえこのクソガキ、なにしやがる!!」
「なぁんだよ~! 最初に変なこと言ったのはそっちじゃんか! この場で消し炭にされないだけマシだろ~っ!」
「何をコノ……っ!」
と飛びかかりそうになる俺のおでこをララが片手で押さえ再び椅子に押さえつける。う~ん、片手なのにびくともしねぇ……
「メーサもよしなよ。俺たちこれから仲間になるんだから」
とイケメン男がクソガキをなだめる。クソガキは「ふんっ」と鼻を鳴らし、俺に向かってべーっと思いっきり舌を出した。
なんて可愛くないガキだっ!! しかもなんだその『設定』ってよぉっ!
「まあまあ、まったく大人げないぜシロウ。見ていて恥ずかしいよ、幼なじみとしてよぉ~」
とスエゾウが大げさに天井を仰ぎながら俺の肩を叩く。
て、てめぇ……っ!
「フレイア」
その瞬間、クソガキがぼそっと呟いた。すると俺の肩に置いていたスエゾウの手から炎が上がった。
「うぎゃぁぁぁぁ! あちっ! あちぃぃぃぃっ!!」
スエゾウが火のついた手を振り回して転げ回り、店の外へと飛び出していった。
「メーサっ!」
とイケメン男がクソガキを叱るが、当の本人はそっぽを向いてまたふんっと鼻を鳴らす。
「だって『大人げない』とか言うからだもん。ふんっ、平気だよ、彼ビショップみたいだし…… そこの君も、僕を外見で判断すると燃やしちゃうからね」
クソガキはそう俺に一括し、勝手に席に着いた。全く、なんてガキだ! いや18歳ってからには厳密にはガキじゃないだろうが、見た目が『ガキんちょ』なだけになんか腹立つんだけどっ!
☆ ☆ ☆ ☆
「さて、じゃあ改めて聞かせて貰いましょうか、何であんた達がこんな所に居るのかってのを……」
マリアはそう言いながらビネオワを飲み干し、空になったジョッキをテーブルに置いた。
「ちょ、ちょっと待ったララ姉ぇ、その前にこの人達が何者なのか俺とシロウに説明してくださいよ。何か以前からの知り合いみたいなんだし……」
とスエゾウがララに聞いた。ナイスだスエ、俺も丁度それを言おうとしたんだ。流石は18年のつき合いだ。聞きたいことが判ってるって便利だよね。
「まあ、知り合いっちゃ知り合いなんだけど……」
とララはスエの質問に腕組みをして考え込んだ。何か複雑そうな関係だな……
「ぶっちゃけこの2人…… プレイヤーじゃないのよね~ 」
…………は?
「さらにぶっちゃけると、人ですらないつーか……」
えっと……
ゴメンララ、意味が全然わからないんですけど……
「あの…… ララ姉ぇ? 出来ればその…… 真面目に答えてくれると嬉しいんですが……」
とスエが恐る恐るララに聞いた。
「だからマジで答えてるじゃない。コッチのナイトはロストプレイヤーで、メーサがAIなの、判った?」
……悪いがさっぱりわからん。ロストプレイヤーにAIぃ? なんじゃそりゃ……?
俺とスエゾウが顔を見合わせて首を傾げているとララがさらに続けて言った。
「あたし達ラグナロクが聖櫃で戦った最後の敵がこのナイト。当時は『鬼丸』って名前だったけどね。で、このメーサはセラフィンゲインを統括管理するAIってわけ。本当の名前は学習型高性能戦略AI『メタトロン』略してメタちゃん。あたしは『メタちゃん』の方が絶対良いと思うんだけどなぁ……」
ララはそう言ってメーサを見た。メーサはそんなララを見ながらクスっと笑って答えた。
「その名前も気に入ってるんだけどね~ ほら、今回は僕たち『プレイヤー』として此処に来てるからさぁ、『メーサ』の方がプレイヤーキャラっぽいでしょ?」
そう言うメーサを俺はまじまじと見つめた。
「この娘がAI…… 嘘だろ……っ!?」
思わずそんなつぶやきが漏れる。だってそうだろう? どう見てもプレイヤーキャラにしか見えないんだもんよ…… 人をおちょくる口調といい、そのしぐさといい、俺達人間と少しも違わないように見える。AIって此処まで人に近づく事が出来るのか?
「メーサはこの世界に訪れる人間の思考を蓄積し、人の行動パターンを解析することでより有効な戦略を導き出す為に作られた人工知能なんだ。このターミナルで見かけるNPCのAIとは別物と言っていい」
俺の呟きにメーサの隣に座るナイトがそう説明した。
「そうだぞ、僕はそこいらをウロウロしてるNPCとは違うんだ。そもそもそのNPCはおろか、セラフの強さや出現率なんかも監理してるエライ存在なんだぞ! 君ももっと僕をソンケーしなよ!」
とメーサは俺に向かって自慢げに言った。
「ペッタンコな胸張って威張ったってなぁ……」
「なんだとぉー!!」
と俺の呟きに反応してメーサが椅子を鳴らして立ち上がった。そしてまるで敵を見るような目で俺を睨む…… が、不意にその視線をララに向け、次に自分の胸の辺りを見た。
「……ねえナイト、胸ってララみたく膨らんでる方が良いのか?」
と隣のナイトに聞いていた。
うんまあ、なんだその…… こういう反応はAIならではなんだろうが、じゃあそもそも何で怒ったんだ?
「う~ん、良いっていうか『より女性的』ってトコかなぁ……」
ナイトが首を傾げながらそう答えると、メーサは「そうなのかぁ……」と呟きながら椅子に座った。あれっ? ちょっと落ち込んだのか?
う~ん、何だかよくわからんが、とりあえず放っておこう。
「そしてあんたがロストプレイヤーか…… 意識が肉体に戻れなくなったプレイヤーって聞いたけど、こうして話しているとちょっと信じられない。そんなに自由に行動できるなら元の肉体に戻れるような気がするけど?」
ナイトはそんな俺の言葉に薄く微笑した。
「まあ、俺の場合は望んでこうなったんだけどな。それにもう現実側での俺の肉体は当の昔に滅んでいる。戻ろうにも戻れないのさ」
「ひぇっ! ってことは幽霊っ!?」
とナイトの言葉で青ざめるスエゾウ。目が若干涙目になってるし…… そういや昔から幽霊だのお化けだの、そう言ったたぐいの話はカラキシだったな。
「いやいや、幽霊とは違う。ほら、ちゃんと足があるだろ? 意識の残留メモリってトコかな? セラフィンゲインのシステム領域にひっそりと残ってるって訳だ」
う~ん、いまいち良くワカンネ。するとララがもう良いだろうと言った感じで先ほどの質問を繰り返した。
「そのシステム領域にひっそりと残ってるはずのあんたと、セラフィンゲインを統括管理するはずのメタちゃん…… じゃなかった、メーサが何故プレイヤーの真似なんてしてるのよ? あんたまさか、またくだらない事考えてるんじゃないでしょうね?」
そのララの質問に、ナイトは困った顔をして答えた。
「くだらない事って、俺の『本体』がやったことかい? 違う違う、俺達システム領域を追い出されて戻れ無くなっちゃったんだよ」
「はぁ? 追い出された!? 戻れないってメーサも!?」
そのララの質問にビネオワをストローですすっていたメーサがコクリと頷いた。つーか、此処ってストローなんて置いてあったのかよ?
「うん、気が付いたら聖櫃に続く通路に居て、戻ろうと思ってシステムにアクセスしようとしてもエラーになっちゃって、そのうちセラフ達が急に僕を襲ってきて……」
「襲うって…… メーサはこの世界の『管理者』でしょ? そのあんたを襲うって変じゃない」
そう質問するララにメーサは困った顔で答えた。
「そうなんだ、変なんだよ。まるで僕が誰だか判らないみたいになって襲ってきて…… コアシステムにアクセス出来ないから消すこと出来なくて、仕方なく実力排除に出たんだけど、さらにおかしいんだ……」
メーサは自分の両手を見ながら呟いた。
「魔法しか使えなくなってるんだよ…… 武器を具現化することも出来なければ、飛ぶことも出来ない。固有の姿を持たない僕なのに変身すら出来ない…… この世界では『何でもあり』だったはずの僕なのに……っ」
メーサはそう言って唇を噛んだ。その姿はとてもAIとは思えない仕草だった。
「何度か襲ってくるセラフを魔法でぶっ飛ばしていたんだけど、そのうちレベル6セラフに囲まれちゃって、苦戦してたらナイトが助けに来てくれたんだよ」
そう言ってメーサはナイトを見た。ナイトはにっこり微笑んで続けた。
「俺も気が付いたられいの通路に立っていたんだ、この格好でな。でもって通路の先から派手な音が聞こえてくるから行ってみたらメーサがセラフ相手に戦ってるだろ? また何かの遊びかと思ったら必死な顔して『手伝って~!』って言うもんだから俺も久々に参戦したって訳さ。でもハンパ無いセラフの攻撃で2人してベースまで退却してそのままターミナルまで来たら、メーサも俺も戻れなくなっててさぁ……」
とナイトはそこでため息をつきながら肩をすくめて薄く笑った。そしてまたメーサが話を続ける。
「ナイトは『前科』あるし、僕はAIでしょ? 管理側に見つかったら面倒だからプレイヤーの真似して此処にいるって訳なんだ」
「でもそんなのすぐバレちゃうんじゃない? 此処のサポートって結構優秀みたいだし」
とララが周りを気にしながら声を落としてそう言った。
「たぶん当分は平気。僕がプレイヤーの管理ファイルにアクセスしてプロフィール改ざんして置いたから。どうもアクセスできなくなったのは、システムプログラム領域全般みたいで、ログとか管理ファイル領域、外部リンクなんかは今まで通りアクセスできるみたいなんだ。で、ナイトが教えてくれた『役所』ってトコのサーバに侵入して適当な人の個人情報をこっそり写しちゃったからサポート側も判らないハズだよ」
とメーサがララの質問にそう答えた。オイオイ、それって犯罪だろマジで…… なんつー物騒な話をしてるんだ君たち!
「なるほど…… でも何でそんなことになっちゃったのよ?」
そのララの質問に、メーサは思い詰めた表情で答えた。
「わからない…… こんな事は初めてなんだ……」
さっきは生意気なクソガキだと思ったけど、何かそんな表情を見ていたらちょっぴり同情してしまったよ。
「……その原因を突き止めるためにも俺達は聖櫃に行かなくちゃならない。だがあそこは知っての通りチームじゃないとたどり着けないし、もしかしたら俺達じゃまた弾かれてしまうかもしれない。そこで俺達はシャドウを探したんだ。アイツの『あの力』なら何とかなるかもしれないと考えたからだ。だが、メーサがプレイヤーの管理ファイルを探してもあいつの名前が無いだろ? 途方に暮れてたら掲示板にララの名前があったんで書き込んだんだよ。なあララ、アイツは何処に居るんだ?」
ナイトはララにそう言った。
かつて聖櫃にたどり着いた唯一のチーム『ラグナロク』
その伝説のチームの前衛を勤めていた魔法剣士にして最強の太刀使い、英雄『漆黒のシャドウ』
そしてその後、15人のキャラをロスト【消滅】させ被験者であるプレイヤーを病院送りにして『死に神シャドウ』と呼ばれ恐れられた伝説のプレイヤー
彼が何故姿を消したのか……
死に神と呼ばれる前の彼の話は良く聞いたことがある。どんなピンチでも仲間を見捨てず、一人でも多くのメンバーを帰還させるために殿を勤める。前に雇った傭兵は言ってたっけ…… 「あいつほど『仲間』にこだわる奴はいない。喩えそれが仮のメンバーだったとしても」と……
同じ太刀使いつー事もあるけど、俺にとって彼は目標でもあるプレイヤーだった。
「シャドウはもう此処には居ないよ。1年前、自分から太刀を置いたの…… あいつの最後の言葉……『俺はもう二度と安綱を握らない』そう言ってたわ。だからもうあいつが『アレ』になることは二度と無いよ……」
ララは静かにそう言った。どことなく寂しげな表情が印象的だった。
ナイトが言った『あの力』…… そしてララが言った『アレ』って何のことだろう……
そして新たにメンバーに加わったこの2人の素性……
俺の知らないところで、ひっそりと得体の知れない何かが動き始めているような、そんな不穏な気配を感じて、俺は身震いする思いだった。
初めて読んでくださった方、ありがとうございます。
毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。
第6話更新いたしました。
いやマジでご無沙汰であります。『更新はや!』と言われてたんですがインターバル開けすぎたつーか…… いやホントすみません(汗
何か久しぶりでちょっとキンチョーするとかねw
だんだんプレイベートが落ち着いてきたんで、またボチボチと更新していきます。
鋏屋でした。
次回予告
前衛キャラのナイトと、切望していた高位魔導士であるメーサが加入。それに傭兵ゼロシキを加えようやくチームとしての体裁が取れたシロウ達。チームメイトの引き抜き、そしてギルドからの除名でやさぐれていたシロウとスエゾウだったが、一転上位クエストも狙えるようなチームスタートになった。各々様々な思惑がある中、チームは名前を決定しいざ初陣となるが……
次回 セラフィンゲインAct2 エンジェル・デザイア第7話 『その名はウロボロス』 こうご期待!




